減って増えて。
◇
目を覚ますと、いつもは寝ているユイナが起きていた。
「「おはよう」」
挨拶が被るとは…
息が合ってきた証拠か?なんて……
「起き抜けに何だけど、ユイナさんにお願いがあるんだけど?」
「今日は金曜じゃないわ」
な…に、見抜かれた…だと?!
とは言え、昨日のあれのせいで体が火照って、ウズウズして仕方ないのだ。
一回断られたぐらいで諦められる筈もなく、
「確かにそうだけど、今回の「分かったわ」えっ?」
「まだ言ってないんだけど?」
「不本意な戦いに協力したんだからお礼をしろ、いやするべきだ、でしょう?」
……あってるけど、なんか違うような――じゃなくて、
「なんでそう思ったの?」
「表情と(発情の)匂い」
「くっ。あ〜っと……とにかくお願いします」
言い返せない。さっさと諦めて建設的な――
「条件があるわ」
「条件?」
「そう、条件よ。条件は今回みたいなことは、私が判断する、ね」
「今回っていうと、突発的な戦闘とか?参戦しろと?」
「別に参戦しなくても良かったのよ?」
無理難題を。ユイナを置いて一人だけ安全圏とか、男の安っぽいプライド的に無理だって判ってるくせに。
「む「私のお願いが無理ならシンの申請も却下するわ」グッ」
「卑怯者。俺の弱みにつけ込んで」
「対等でしょ?お互い欲望同士で。」
「いや、こっちは命が懸かっている」
「私もそうだけど?」
「いや、まぁ確かに戦闘になればユイナも命懸けだろうけど、俺が言いたいのは、「貸し幾つ有ったっけ?」?8だ。」
「今回は突然だったし二つ分でいいわよ?」
貸し借りについて言うと俺の首を絞めることになりそうだし、ここが妥協点なのか?物凄く悔しいが…。いや、しかし!
「さらに次からは貸し一つにアフターケアのサービス付、でどう?」
「アフターケア?」
「サービスね♪」
「…そこまで言うなら仕方ない。」
これ以上は無い。にやけそうになるのを抑えるので一杯一杯だった。
「ふふふ、それじゃあ契約成立ってことで…」
◇
アフターケア恐るべし。まさか第三の採掘権が譲渡されようとは……
イヤイヤイヤ喜んでないよ?ホントダヨ?
「そういえば狼の匂いわかるようになったの?」
「ああ、朱狼のことか?」
「そうよ。と言うか名前…まだ付けてないの?」
疲れてたし、真っ直ぐ帰ってきたから忘れてた。いや、言い訳か。
ちなみに朱狼はベッドの脚もと、地べたに広げた毛布の上で丸まって寝ている。
「フランなんて「却下」」
やっぱりダメか。ダースだもんな。安直すぎたか。
「そういや雄雌どっち?」
「知らないで決めようとしていたの?」
「おうよ」
「……雌よ」
「ふむ。じゃあ正式にはフレイヤで、普段は縮めてフレイっていうのは?」
「…だ、そうだけど?」
誰に言ってるんだ?と思ったら朱狼、改めフレイが起きあがって此方を見ていた。
ベッドから降りて、改めて本人に聞いたが喜んでくれたようで舐め回された。
因みにフレイは、毛の関係でベッドに上がることをユイナに禁止されている。
本人って人間じゃなくて狼だろう?とか言う奴には、負け犬の遠吠えを、負け人の罵声って言うのかと言いたい。……激しくどーでもいいが。
二人と一匹で風呂に入る。フレイを洗ってからユイナを呼んで洗う。
――あれ俺ってフレイとユイナの主人だよな?
いや、フレイは自分で洗えないし、ユイナを洗うのを、例え本人といえど譲る気持ちもないから、良いっちゃあ、良いんだけど……
なんか釈然としない。
ユイナと二人きりでお風呂を楽しむ。フレイは浴槽の外で控えてる。忠犬という言葉が浮かんでくるな。
「ねぇ、シン?」
ユイナが振り返って、俺から見て横向きになり上半身は向き合う形になる。
両手をまわし、抱きしめると密着して、いい感じだ。
温かいお風呂と、ユイナの囁くような甘い言葉が心地いい。
「なに?」
女と風呂の効果で、いい気分になって聞く。
誰かに聞かれれば憤死しそうな声色だったが、他には誰もいないので問題ない。
「出来ちゃった♪」
「ブッ、ごほっごほっ」
気管支に入ったのか激しく咽せた。
「コウノトリ?」
言い直したが今更感がハンパない。
「産むのか?」
少し落ち着いたので聞いてみる。
「任せるわ」
「産んで欲しい」
特に悩まず即答したら、考えなしなんじゃないか的な目で見られたので、弁解する。
地球に居たときから妄想の一環で考えたし、そもそも出会ってから
――最初のほうは我を忘れて色に溺れたが――
こうなることも考えていた
大人と名乗るには早いが、だからといって責任を考えないほど子供でもない。
「考えは分かったけど実際には何が出来るの?」
もちろん口だけのつもりもないが…
「取り込んだ吸血鬼一族、その知識を借りようかと」
誰かは分からないが、普通、子育てをした吸血鬼がいるはずだ。
死体群からその知識と経験を抽出して召還することを提案した。
もちろん場合によっては、子育てや出産の助言だけでなく、手伝ってもらうつもりだ。
「ちゃんと考えていたの!?」
目を丸くして本気で驚いていた。自覚はあるから特に気にしない。
「そりゃあ遊びのつもりじゃなくて本気だからな。責任とかも考えるさ」
「…ゴメンナサイ」
ユイナは、吸血鬼一族で一番若く、子育てについて全く知らないらしい。
解らないなりに考え、結果、子供の為に良質な血を求め、群れとの戦闘そして魔獣の血を欲した、と。
「子煩悩なんだ?」
ユイナの髪を拭きながらそう言ってからかう。
「吸血鬼は千年すら超えて生きるけど、過半数が子を産めないわ。
代わりに眷族があるのか、眷族がいるから出生率が低いのか、分からないけど」
地味に重い。
「あれ?じゃあ産むなって言ってたら……」
そう聞こうとしたら、透明感のある、キレイな笑顔を頂いた。
うん。まぁ言わなかったし、知らなくていいだろう。
………
「そういえば大丈夫なの?」
ユイナは俺の指輪を見ながら、そう聞いてきた
「問題ない」
「そう?」
怪訝そうだが、問題ない。
「ユイナがハーレムOKだからな」
「……彼女がダメだったら?」
「説得する」
「そ「ダメでも説得する」…それでもダメなら?」
「変わらない。彼女が諦めるまで説得する」
「根性論?刺されるかもよ?」
「…死にそうになったらヘルプ頼む」
「…情けない」
…くっ、だが命には変えられん
その後はのんびり過ごし、次の日からの特訓では俺は爪も、ユイナも武器を使うようになった。
あの騒乱から選択肢は多いほうがいいとの判断からだ。
他には狩りの仕方も選択肢を増やす。
狩りには剛と柔があると思う。別の言い方だと、犬(追跡型)と猫(待ち伏せ、忍び寄り型)だ。
騎士と暗殺者でもいい。考えたが、俺はどっちでもないんじゃ…と思った時点でダメダメだ。
いかん。泥沼に嵌った。
単純に狩りをする。目を付けられたのか、鼠と狼の残党たちが毎回襲ってくるので、俺とフレイの練習相手にちょうどいい。
順調に魔力をためていたが、待ちきれないユイナに血の供給を受けて、呆気なく全回復する。
浸食率が…と嘆きつつも吸血鬼の召還に心躍らせる。
そしてユイナとフレイを念のため傍に、そして遂に召還した――
―――召還した
んだが、どうみても吸血鬼に見えない。
「この大陸の人類は三種類。シンと同じ汎人族。耳や尻尾が違う亜人族。二足歩行の獣みたいな、獣人族がいるわ」
「この方は、人の上半身に蛇の下半身に見えるけど?」
下半身だけで4Mはありそうだ。例によって骨だが、恐らく蛇とかウツボとかウナギみたいに長細い生物だろう。
そのまま考えるならラミアに見える。魔物?
「妖人族ね。半分人間っぽいし。この大陸固有じゃないわ」
外来種か。そうか。
「吸血鬼では「ないわ」…だよねぇ」
「データは残ってる?」
「いや、部分欠損している吸血鬼が多かったし、中途半端は怖いから全部この個体に載っけた」
だからもう吸血鬼は召還出来ない。大事だからもう一度。『出来ない』
「こうなった理由は思い当たる?」
「多分この子の血を吸い尽くした吸血鬼がいたんでしょう?」
「間接召還OKだったのか……」
「今更よ」
「そりゃそうだな。問題はしっかり受け継いだか?」
「そうね。育ててダメなら別の方法を考えないと」
「りょ〜かい」
ってまた溜めるのか…
ハァ〜
◇
2ヶ月が経過した。
つまり異世界ライフ3ヶ月。
とうとう妖人族な……彼女?に肉体を。
目の奥に炎が宿り、全身に薄く炎を纏った半人半蛇に力を……。
………
一際燃え盛り、そして炎が姿を消すとラミアがその姿を現す。
そのラミアだが、上半身は人間のようだが鱗がビッシリと生え、Bだ。
オマケに下半身は蛇だから、全裸でもモザイクの必要のない安心感。
色は全体的に青っぽくマグロみたいだ。尻尾を見ると先が魚みたいになっている。
もしかしてラミア(蛇女)じゃなくて海蛇女?なのか?
巨乳美女ではなく、蛇女ですらない……だと?
どっと疲れた(爆)




