――参戦!?
◇
そろそろ此方の世界に来てからひと月が立つ…かな?
俺が言っちゃダメなんだろうが飽きてきた。
何というか娯楽が無い。そして暇だ。
娯楽がないのは仕方ない。それは理解している。
だが暇だ。訓練をハードにすれば、煩悩ともども解消出来そうだが、疲労が原因で、狩りに影響がでることは万の一も有ってはならない。
そうなると出来ることは限られてくる…
字の読み書きを教えて貰っているが、俺は勉強嫌いだ。ついでに意思疎通も出来るから、どうしても優先順位は低い。
骨狼と骨鼠とコミュニケーションも、ある程度出来るようになると面倒になった。
うん。だって骨だもん。
そこまで動物好きでもないのに、骨だもんなぁ。
なんか今日は一段と……不安感?ダルいし、そんなわけで気分転換も兼ねて城の探索をやろうと思う。
大雑把な探索しかしてないから、ちょうどいい。
そして探索してて思った。具体的には、ゴーグルを見つけて思った。
装備を見直そうと。
スライム包囲網事件後ユイナと空の旅行(逃亡)をしたが、もの凄い寒かった。
太陽――太陽?異世界なのに??…面倒だから太陽で――が出ていない夜だから気温も低いし日光もない。
しかも空でそれなりにスピードも出てたから寒いのなんのって。
そんな中ゴーグルを見つけたことで、ついでに金属で所々覆っている現在から、革などの全身装備に変更しようと思い至ったのだ。
まぁ今の金属製のまま全身にすると重いので、革に。兜は髪の生え際を覆うような形のものだ。
目にはゴーグルをして、おでこや耳が露出するが、耳には耳当てを額は仕方ないので布を。他の露出部位も布巻いたり服を軽く加工して――
――うん。人前には出れないな(汗)全身装備だけならまだしも、ゴーグル有りであちこち布の継ぎ接ぎありで……
いや寒さ対策済みで実戦も考慮してあるから見た目以外は問題ないけど。
寒さ対策とか逃げる前提か?と言われそうだが、緊急避難のことを考えるのは当然だろう。
リセットがない現実なのだから。
なおゴーグルが何故あるのか?……答えは未熟な吸血鬼用らしい。
そうか、と。空を飛んで千年を越える歴史があれば、装備が充実しても可笑しくないと考え直した。
そんなとき
「…………」
「何か仰って頂けないでしょうか?」
起きてきたユイナが無言だった。もの凄い気まずいので、とりあえず顔だけでも露出する。
「なにしてるの?」
俺の首に両腕をまわし、近くから一語一語、丁寧に間を空けて仰った。
「飛行中の寒さ対策と夜間型実戦装備?」
微妙に気まずいので疑問文だ。
「……」
手を離し、立ち去ろうとするユイナに必死に説明する。
が、疑問が解消されたから立ち去ろうとしただけで、深い意味はなかったらしい。不審者に見られたんじゃないかと深読みしすぎた。
いやあれは俺が――…
などという、やり取りを交わし装備を整えて、今日も狩りに出掛ける。
ああそうだ。
「狩りの日数減らしてもいいか?」
「どうして?」
「週2日ぐらいは身体を思いっ切り動かしたい」
やっばり健康的に体を動かすべきだろう。いい加減暇だし。体力も根本的にどーにかしなくては。
「…いいわよ。週2日ね?」
「ああ、日曜と水曜で」
「わかったわ」
……うーん。なんか変なような?心此処に非ず、みたいな?気のせいか?
「あっちに何かあるの?」
精霊達が騒いでいる。俺に協力的な精霊は、臆病な精霊が多いからイヤな予感しかしない。
「今日はスラ沼へ行かないか?」
進行方向が時計の12時なら騒いでいるのは10時、スラ沼は7時方向だ。
「……分かったわ」
そう言いつつもユイナが向かうのは10時方向だ。
「ユイナさん?」
本気で止めようとしたら空の旅になった。
落ちたくないし、精霊が騒ぐ理由も知りたいので黙って着いていく。
…着いていく?いや、連れ去られる??いやいや、着いていく。
自問自答してたら着いたようだ。高度が低くなっていく。そして地面に着いて木の陰から覗いてみると
狼と鼠の群れが相対していた。見える範囲でも狼だけで数十、鼠に至っても数百はいる。
鼠は手のひらサイズから、狼は大型犬サイズからだが一番大きい鼠は尻尾含めず3M、全長6Mはあるし、狼も頭、尻尾なしで体長4M、高さは肩の位置が2Mを平気で超える。
「ひっ」
思わず立ててしまった声を合図にするように、両群は争いを始めた。
だがその争い(縄張り争い?)を気にする余裕はない。此方にも向かってきたからだ。そんな訳でよく分からないまま戦闘に突入した。
突入したが……ユイナ無双が始まっただけだった。微妙な高度を維持し、飛びかかるしかない鼠、狼を一方的に殺戮している。
ある意味仕方ない。メインは両群の争いだから此方にくるのは小さい(弱い)奴らなのだ。
余裕があるから会話も出来るのだが、デカい狼や鼠は魔獣らしい。
獣が条件を満たすと進化してなるのが魔獣だ。
「転職とか昇華とか―まだあるのか…はぁ…えっと進化は?」
思わず小声で愚痴るが、しゃーない。
「強くなってやり直し、が進化ね。」
レベルリセットされるが上位へ移行するから弱体化はしないらしい。
そんなことを話していたら骨狼達が来た。
ユイナの空の旅には引き離されたが、ようやく追いついたようで、小さくて面倒な鼠を狩ってもらう。
そこそこの大きさのやつはユイナが、小さいのは骨狼が狩るので余裕というか暇ができた。
だからユイナの異変に気付いた。いや、異変ってほど大層でもないが…
「どうかしたか?」
「何の話?」
「魔獣と戦いたいとか?」
なんかソワソワしてる気がしたから、ユイナの言葉に被せるように、冗談のつもりで言ったのだが…
「……」
「マジで?」
まさか俺が、と絶句したようなユイナだが、俺はユイナの反応に唖然とした。
「だったら何?」
「行ってこい。俺はこいらがいるから平気だ」
問い返すユイナに俺は見栄を張った。映画みたいで俺カッコイイと酔っていた部分も否定できない。
だからユイナがホントに行って後悔をすることになる。
「それじゃあ任せたわね」
「おうよ。行ってらっしゃい」
なんて言ってる場合では無かったのだ。ユイナは無双していたが、俺の実力では1対1でもギリギリなのだから。
ユイナが突っ込んで、メインが三つ巴みたいになると此方へも圧力が増加した。
だからと言ってユイナが戦ってるのに、見捨てて逃げたり出来ず、その場で戦うことになった。
漫画なら信じるのも力、というかも知れないが、たとえユイナが俺より強くとも心配するのをとめることは出来ない
単純に無双ユイナしか見てないから実力が分からないというのもあるし、そもそも恩人というのもある、更には自分の女という意識が、足手纏いになる可能性を考慮しても離れることを許さない。
まぁ、なんだかんだ言っても、まとめると“若い”の一言で片付くが。
そんなわけで戦うのだが、スライムですら一撃離脱を心掛けるのに、両群と戦うのは例え骨狼のサポートがあっても無謀だ。主に体力的に。
「にしても、どーすっかな」
朱桜で死体を喰らい、骨を召還する。トドメをさすのは地味に体力を使うので、自由な人ヤマトを見習って他に任せる。
だが段々と軽口を叩く余裕もなくなり、周囲を気にすることもなくひたすらに武器を振るう。
槍で突いて殴り、時に蹴っ飛ばす。後ろから来るのも一回転して柄で殴りつけ、衝撃で動きが鈍いうちに突く。
体力の低下で、一体を倒すのにも数回の攻撃を必要とする。結果的に相手が死に物狂いになると分かっても、どうしようもなく結果的に、泥沼に嵌る。
骨狼を助けるのに槍を投げつけながら、絶対絶対、次はユイナを止めると心で叫び、自分を鼓舞しながらひたすら戦う。
だが、血で斬れにくくなった短剣を投げつけ、鉈も持ち手が血でヌメリ滑り落ちる。
拾おうにも握力が弱く、手が震える。無我夢中で戦ってたからこそ、激しい脱力感に襲われる。
だが棒立ちになったヤツを見逃すほど野生は甘くない。
無手を考慮せず…いや、だからこそ躍り掛かってくる狼に、思考は止まり、頭の中が真っ白に染まり――そして血が舞う。
――狼の血が。
押し倒された俺に、別の狼が襲い掛かる。その狼から、その狼は自身を犠牲にしながらも守ってくれた。
ボーっとした頭で、目の前の出来事を追う。
更に襲いかかってきた狼を、その狼は撃退し、そのせいで数頭の狼に襲われてしまう。
俺を救ってくれた狼は、血塗れに成りながらも俺を背に戦い続ける。
視界が真っ赤に染まる。マトモに思考が定まらないままに襲われ、反射で右手を振るう。
――真っ赤な、ユイナのような爪の生えた右手を。
鋭い切っ先は、疲労で衰えた力でも容易く狼に突き刺さり、呆気なくその命を奪う。
流石に両断するほど体力はないが問題ない。鈍い思考のまま爪を振るい続ける。
とは言っても、どうやら争いも終盤だったようで、直ぐに両群ともに撤退を始めていた。
大鼠いや魔鼠か?…まぁいいボス鼠の死体があり、ボス狼の死体もある。ボス狼の傍にはユイナが満足げに立っていて、つい笑ってしまった。
何時の間にか座っていた俺を、血塗れの狼が舐める。
動物に舐められてる人を見て気持ち悪っ、ッて思っていたが案外悪くない。血塗れ狼に抱きつき、撫でながら眠るように気を失った。
「起きた?」
「おはよう」
目が覚めたらユイナが目の前にいた。条件反射で挨拶するがキスするには遠い。
仰向けから横向きになり、ユイナの膝の上だと気付く。疲れていた思考は糖分を欲した。
「ユイナ〜♪」
……甘えても仕方ないと思う。
(イチャ、イチャ)
「……コホン。それで今の状況は?」
「(……なかったことなんかに出来ないのに)」
なんかユイナが小声で言ってるが聞こえないし、気にしない
「この子どうしたの?」
ユイナの指差す先には、力尽きた血塗れ狼がいた。
「……スライムへのリベンジ、初めてのゴブリン退治の後に狼を救っただろ?多分あの狼」
「ああ、妖精に三つ編みのイタズラされて群れを追い出されたあの子」
当然のように、この世界には妖精がいる。
そしてその妖精に寝ている間(?)に三つ編みにされた狼がいたのだ。
初め、狼ということで警戒したが三つ編みだったので毒気を抜かれ、可哀想になったので三つ編みを直してあげたのだ。
ユイナがいたからか三つ編みで精神的に弱っていたのか、近付いても抵抗しなかったなぁ。直したらスゴい喜んでいたし。
「朱桜(で吸収するの)?」
「そう、だね」
息絶えた狼を優しく撫でながら、そう答える。
死者は甦らない。それでも俺はこの狼を、この狼に力を借りたいと思った。
優しく抱きしめながら血肉の全て、体毛の一本一本までその全てを、普段より時間を掛けて吸収し、召還する。
激戦でボロボロになった骨狼までも力にし、溜まった魔力も大量、いや全て喰らい生まれる。
何がどうなったのか。赤み懸かった体毛に、蒼い瞳に変わった狼がそこにはいた。
まぁいいか。
相変わらず舐めてくる狼を撫でながらそう思う。骨じゃないとか、色かわったとかそんな大したことじゃないし。
「爪、使えるようになったんだ?」
ユイナも狼を気にせず、俺の赤い爪を見てそう言う。
「そうなんだよ。なんで使えるようになったか、よく分かんないんだよね。死にそうになったからかな?」
「浸食率は?」
「あ〜っと。11%」
「そのせいね。吸血鬼化の影響と生存本能のコラボね。きっと」
「なるほど」
一通り話し終わると、弱っていた鼠、狼を殺し魔力を吸収しながら狼を喰らう。(鼠はボス鼠だけで(爆))
ボス狼は干からびていたが気にしない。魔核も沢山、手に入りノンビリと城に帰った。
今日は良く眠れそうだ。




