閑話 すれ違う二人
ユイナ視点
◇
身体を起こす。
骨だけになった手を見て自分の身体を見渡す。
骸骨の残念な身体を見て何故こうなったのかを考える。
過去を思い出そうとして見知らぬ―他人の―記憶が分かる。
記憶を探りながら部屋を調べる。どうやらこうなったのは、この男の力のせいらしい。
鏡で調べようとしてステータスが脳内表示される。便利になったものだ。
眷族になったり、レベルが残念になってたりしてるが、やはり一番は骨になったことか。
血の匂いに誘われ、足を動かすと、とある部屋に辿り着く。そこには一族の成れの果てがあった。
少しの時間留まり踵を返す。こうなっていることは想像出来ていたし、男の記憶からも分かっていたことだ。
気持ちを切り替える。
血が足りないし、男も衰弱してるので狩りに行く。
生まれて初めての狩りをし――経験値と血を得た。
眷属になった以上、男に死なれても困る。
残った肉と菜を料理し男に食べさせる。
食べさせることを、最初は珍しい経験、と楽しんでやっていたが……飽きた。
ゆえに半ば作業のように食べさせていると……気付いた。口に入れた食事が喉を通さずに消えていることに。
ホント良く食べる…と思っていたから、試しにどの位食べるのか?…と
興味本位の気持ちで食べさせていたら、
驚くくらい大量に食べたのだ。
さすがに可笑しいと思って見ていたら喉が動いてないことに気付いた。
本当にビックリするくらい消えたから益々興味が湧いてきた。
鼠と狼を捕まえてきて、生きたまま手に触らせてみる。だが何も反応しない。
口にしないといけないのかと思ったが、生きたまま食わせるには大きすぎる。
仕方ないので殺してから触らせてみる。そうすると、鼠は生気を吸われたみたいに、みるみる干からびた。
そして骨になり、やがて骨すら残さずに消えた。
狼も消えたが…
…飽きた。消えたからと言って何かが起こるわけでもない。仕方ない。
鼠と狼にした理由は、残っていた血の匂いからだけれど…他の生物でも―魔物や魔獣―でも食べれるのか?
う〜ん。気にはなるけれど、起きてからでいいかな…
寝ているからか他には特に反応する訳でもなく、やりがいがない。
それでも食事―エサヤリ―は惰性でやっていたけれど…報酬があってもイイよね?
……頂きます。
獣の血で大分身体が戻ってきたがまだまだ足りない。食事の対価に食事なら等価だろう。
この男の血は美味しい訳じゃないけど不味いわけでもない。強いて言うなら飽きないあ――
―あら…起きちゃった?けど、どうしよう?
後始末がまだ…
ふむ
うん?キス?…気付いた?まぁ…どちらにせよ、これなら血を吸ったことは誤魔化せそう、ね。
ん?もしかして○情してる??
汎人族で悪鬼か…
縛る(…)価値は…
投資価値は?
賭けるには充分??
さて、どうしようか?
――……・・
男のことは知らないことにして説明をする。
…男の記憶を知っているが、初対面で気味悪がられても面倒なので知らないフリだ。
普通の道具でもマナは少しある。全くない道具とかは考えにくい。
だから、そこからも男が異世界の人間だと疑えるのだけれど…
気付かないだろうな。
まぁ知っていることがバレても男が信用出来なかったから話さなかったことにすればいいかな。
――……・・
ハイヒューマンについて説明した。吸血鬼に“成る”のはリスクがあるからだ。
『幻肢痛』という症状がある。様々な理由で手足を切ったりして失った人が、在るはずのない手足で激しい痛みを感じることだ。
吸血されると当然、血を失う。解る人は解るだろう。
血を吸われると血を吸った存在を求めるのだ。正確には、喪われた血を求めるのだが大して変わらないので問題ないだろう。
少ない量なら何もない。だが、ハーフヴァンパイアになるなら確実に私を求めるだろう――例え私が死んでも――求め続ける。
呪いと言っても可笑しくないそれが、吸血鬼だ。
産まれた時からの吸血鬼は勿論そんなことは無いが、吸血鬼に『成る』ということはそう言うことだ。
…あんまり気にしてなさそうだ、どうするべきか??
――……・・
男の名前が決まった。
彼は、北部 京介
改め、シンと名乗るらしい。
シンと言って欲しそうだから「キョウスケ」とわざと呼んだら、目を丸くし二人きりの時ならそれもアリかも、と嬉しそうに言われた。
むぅ、ツマラナイ
――……・・
「何があったか聞いてもいい?」
一族の死体のことだ。
特に隠すことでもない…かな?
「外の男(他の吸血鬼一族)と結婚したのだけれど私に惚れた一族の男がいたみたい。結婚して一月で殺されたわ」
外の男が現れなければ、その男と結婚しただろうから分からないことも無いのだけれど。
「彼ら(死体)は多分、私の後、直ぐに殺されたんじゃない?長(父)に文句があるのを集めてクーデター…ってね」
結婚と説明したけど納得していないみたいだった。…よくよく考えれば、まだ身体が小さいままだった。……まぁいいか。
ヘタレな夫で一月たってやっと手を繋げた…
勿論、手は出されてないだから私はあの時が…
そう囁いたら固まっていた
――……・・
男の表情はコロコロ変わる。真似してみたら、目に見えて対応が変わったりした。
…もしかして表情でしか感情が解らないのだろうか?大変そうだ。
それにしても戦い方(狩り方)を教えて、と言われても…
私は生まれてから、ついこの間狩りで出掛けるまで、この城から出たことが無いのだけれど?
…外に出ることが無いから本ばかり読んで過ごした。その為、私には知識は有っても経験がない。
だがシンよりはマシだろう。教えることを引き受ける。
軽く手合わせしたが、シンは弱い。とは言え、倒れたシンを刺したのはやり過ぎたと思ったが…
刺してから寸止めで良かったんだと気付いた。
失敗したと思われるのも嫌だったので笑って誤魔化すことにする。シンは強張った表情で身構えた。
槍を落としたし、怪我の治療をしたほうがいい気もしたけれど…
やる気なら構わない…のか?
そこでふと気付く。戦闘中に例え槍を落としても、例え怪我をしても敵は止まらない…
私は自分の考え方が甘かったことに気付き、シンと向かい合った
幸いシンの出血は大したことない。問題ないだろう。
――……・・
一時間が経ち訓練を終える。気絶したように崩れ落ちたが、寝ただけのようだ。治療等を施して軽食を用意して休む。
寝て食べて体力を回復したようだ。水浴びしたら元気になった。
シンは寂しがり屋なのか、なにかとスキンシップを求める。
私を抱き締めると、鼓動がだんだん穏やかになるのが分かる程だ。
違う世界に来て知り合いも無く生活すら大きく変わってしまったから仕方ないかも知れないが…
けれど折角、城生活から城外へ出ることが出来たのだ。現状に満足してほしくない。どうすれば…?
◇ ◇ ◇
最初は満足に避けることすら出来なかったが、訓練を始めて幾日が経ち、なんとか形にすることが出来てきた。
相変わらずに避けることがメインで避ける時間を作るために薄っぺらい攻撃をするぐらいだがそれでも一つの通過点だろう。
これを期に武器選びをやってもらう。実際に打ち合ってみれば、適当がわかるだろう。
そして先ずは剣と盾を持ってもらったが…全然ダメだ。
打ち合う毎に体が泳ぐようになり、直ぐに剣を手放す事態になった。
筋力不足もそうだが力任せになりがちで無駄に体力を消耗するのだ。
他にも大きい盾は行動の邪魔をするだけで役立てず、小さい盾だと頼りすぎて足元が疎かになったりと笑い話にしかならない。
他にも試したが一番適性があったのが短剣による二刀流だ。
二刀なのは単純に片手では手数が足りないためだ。
短剣で間合いが短いことはシンの臆病な性格と合っている。
怪我をしない生活を送ってきたためか、怪我を酷く怖れる。
だからこそ死角からの攻撃すら反応するほどの、驚異的な集中力を発揮する。
そして余りに怖れる故にかえって冷静に受け攻めが出来るようになる。
とは言え視野が狭くなる欠点が付いてくるが。
そこで槍の登場である。
槍には鍔がない。だからこそ槍に沿えば持ち手の指が切られる。
更に接近されたら…そう囁けば間合いに気にし、結果的に視野を広くするようになる。
最終的に短剣と槍の二つがシンには合っていると思われる。
ついでにだが剣だけを持たせると、格好良さを気にしたりして最早笑えないレベルだ。
そして弓は距離という安心感が心の底にあるせいかあまり当たらないし、的ばかりを気にして、周りを警戒するという注意力も散漫になる。
良くも悪くも「怯えさせる」のが一番良いと判断せざるを得ない。
よって特訓及び狩りにおける基本方針としたい。
それにしても…
吸血鬼は確かに長寿だが…
こんなにも他の一族が武器を収集していたとはビックリだ。
戦利品なんだろうけど…
おかげでシンが助かっているのだけど…
ふぅ
ファントペインとは違う気がするけど…
他に思い付かないしな…
ショートソード
歩兵用の剣
ロングソード
騎兵用の剣
『長さ』ではないのでロングソードより長いショートソードもある。
また騎兵用の為、両手用のロングソードも存在しない。
両手用にはバスタードソード(ツーハンデッドソード)があるが、これはショートソードである。
Wik○より
個人的にビックリしたので載せてみた。




