プロローグ
◇
妹(美桜)が死んで一年になった。
その後、寂しさを紛らわすように俺と燎と付き合い始めた。
そして俺は三年に、燎は美桜と同じ一年になった。
特に生活も変わらずに、旅行の時期になった。
うちの学校は、一年から三年まで一斉に旅行がある。
一年は遠足で日帰り
二年国内、三年は海外で泊まりと違いはあるが……
ところが直前にドタバタがあり、その影響で三年も、一年と一緒に遊園地になったのだ。
一応、遊園地で日帰りと泊まりの差があるし、人によっては喜んでたりしているが……
そんな出発の日、そのトラブルは発生した。
バスで向かっている途中に突如、目の前で光が迸る。
突然のことに呆然としている間にバスは急停車した。
急ブレーキの衝撃で悲鳴があがりクラスメートが騒ぎ出す。
騒がしいなか話を聞くと――前のほうに座っていた人の話では――
前を走っていたバスが(燎の乗っていたバス)が消えたと言う。
確かに光が落ち着くと、前方に裂け目が出来ていた……
◇
「――なんつうか……本当に行くつもりか?」
「おう。ドキドキしないか?」
行き先不明――だから心配する気持ちも分かる。逆に心配されないと、友達だよね?って思うし。
だが、未知への探求って言うの?そーゆーのも分かって欲しい。俺の我が儘か??
「何処へ行くのかも分からないのに?」
「あー確かに怖い、でもさ『燎』が巻き込まれたんだ、しゃーないだろう?」
俺は不謹慎にもちょっとばかり、いやかなりワクワクしていた。
異世界の冒険物語とかが好きだ。もちろん『行ける』としても色々と不安があるし、機会があるとしても行かないだろう。
だが今回に限って言うなら身内―恋人―が巻き込まれ、行く『理由』がある。なら行くしかないだろう。
俺は前方の小さくなりつつある『光り輝く裂け目』から目を逸らし背後に停まっているバスに向かい歩き出す。
小さくなりつつはあるが縮小率から判断して、まだ余裕がある。
「ん?どこへ行く?」
「荷物を取りに。少しは役に立つだろう」
修学旅行用に準備した荷物だ。何処とも判らない場所へ行くには頼りないがそれても“無いよりはマシ”だろう。
「取ってきてやるよ」
「ん?」
「代わりに親御さんとかに電話しろ、今生の別れになるかも知れんだろう?」
「えぇー…」
気持ちは分かるが、面倒臭い。いや、親不孝なのは判るんだけどさ。
我が親友殿は俺の言葉に頓着せず、バスに向かってしまった。
うーん。気遣いは感謝だが、正直余計なお世話だ(爆)(=_=;)
……………………………
「電話したか?」
「おう」
結局気まずくて電話してない。創作物なら家族の情を大切に描いたりするんだろうけど…
年をとると、言わなかったことを後悔すると聞くが……
別に盛り上がってる訳じゃないし、そこまで思い入れもない。
後悔しても別にいいと言い切れるぐらいには、若かった。
目を逸らしたまま荷物を受け取り頷く。
「…」
「…」
「後は任せた!」
俺は、逸らしたままの目を親友にあわせ、過去最高だろう笑顔でそう言いながら『裂け目』に向かった。
背後から
「達者でな」と苦笑したような声を聞きながら、、
◇
親友と別れ、
目の前に『裂け目』がある
入ってすぐに死ぬかも知れない。入っても燎は居ないかも知れない。
考えれば考えるほどに、碌でもないことが思い浮かぶ
燎もひょこり帰ってくるかも知れない。
――でも
…でも、
待っていて失敗するよりは、行って失敗するほうが後悔はしない。
――そう確信できる。
ネクタイを緩め、シャツのボタンをはずす。
隠していたネックレスから指輪を外し、薬指につける。
隠す必要は―もう無い。
一年間バイトしたとは言っても所詮は学生だ。
指輪も高い物は買えない――だが、それでもダイヤを選んだ。
チタンのそれなりに幅のある指輪に無数のダイヤが煌めく。
役立たずになったネックレスを投げ捨てようかと思ったが、貧乏性ゆえに捨てるのを拒む。
…まぁいつかは役に立つかも知れないしな。
そんなくだらない事を考えてたら、一気にバカらしく思えた。
為せば成る。
俺は気軽に踏み越えた。




