いきなり風呂場でっ!?
美優璃が言いたい放題言って自室に戻った後、すぐに1階にあるリビングで家族揃って夕食を食べた。今日の夕食は美優璃の父が作ったチゲ鍋。まぁ、作ったって言っても食材を切ったりなんだのしたのは僕の母で美優璃の父が帰宅してくる前には一応味の無い鍋は完成していた。ちなみに僕の母は味付けをするまでの課程だけなら普通の主婦に全く退けをとらない。・・・だからいつもの料理がより残念に思えてしまう。そして、このままであればそのいつもの――ビミョーな手料理をふるってくれる僕の母であったが今まさに味付けをしようというところで美優璃の父が帰宅したのだ。帰宅して早々キッチンに入ると、今日は鍋なんだねと言って味見をしてまだ味付けがされてないことに気付くと、じゃあ今日は僕が最後に味付けをしちゃおう!なんて言ってチゲ鍋になってしまった。
そのチゲ鍋、問題の味の方はというと・・・・死ぬほど辛かった。汗の量とか今までで長距離走とかでしかかいたことのない量だった。本当に人が食べれるのだろうかという辛さだった。さっき僕は美優璃の父が作ったチゲ鍋、そう説明したがあれは間違いだ。美優璃の父がトドメを刺したチゲ鍋だ。まぁ無論、言うまでもなく僕はそれを残したが。
でも、他の3人はめちゃめちゃ美味しい!って言ってよそってある分をきれいに完食していた。美優璃に至ってはその他に2杯もおかわりしていた。
うんと・・まぁだから僕が何を言いたいのかというと僕以外の家族は皆、味覚障害なのだ。おそらく。何故こんなにも僕が今晩の夕食の話題を長々と説明したかというのは、僕の健全な感覚を誰かと共有したかったからである。僕以外がみんな美味しいって言ってるなんてこの状況だとあたから見ればどう考えても僕の方が味覚障害なんじゃないかって思われるからね。って言ってもまだまだ自分の感覚に対して不安が残るので明日、残ったチゲ鍋をこっそり弁当に入れて連に試食してもらおうと思う。
こうして今晩はいつもに増して悲惨な夕食を終えた後、僕は未だ汗だくのまま部屋で1人風呂に入れるのを今か今かと待っている、これが現在の状況なのだ。
「早く風呂に入りたいんですけど・・・・」
思わず心の声が漏れてしまった。が、これもしょうがない。美優璃が今まさに入浴中であるからだ。やつの定めた”姉弟憲法 第4条”という自分勝手極まりないルールのせいで僕は風呂場にすら行くことができない。それはつまりトイレだってできないということなのだ。
「うぅ、漏れる・・・・」
駄目だ。またも心の声を漏らしてしまった。あの辛すぎるチゲ鍋を食し大量の汗をかき、おまけに口の中にある辛さを少しでも和らげようと大量の水をがぶ飲みした結果、僕はすぐにギトギトした体を洗いたいのとトイレに行きたいのとで絶賛1人で格闘中なのである。
にしても早くして欲しい・・・僕の体が限界をむかえる前に。
そんな僕の悲痛の声が聞こえたのか部屋の外から待ちに待っていた声が聞こえた。
「遊助~、私お風呂から上がったから~次入ってもいいよ~」
待ってました!!その言葉を聞くとすぐに僕は着替え、バスタオルを片手に勢い良く部屋を飛び出した。すると目の前に美優璃が立っていて、舞い上がる僕に一言。10分後、とだけ言い残して自室に戻って行った。
そして10分後、僕はようやく風呂に入ることができました。待たされた分何故かテンションが無駄に高くなってしまい全裸になった後そのままトイレに行ってから速攻風呂に入りました。
風呂に入った瞬間、体に張り付いていた汗がサーっと取れるような感覚がしてとても気持ちが良かった。あっ、いつもはシャワーを浴びてから湯船に浸かりますよ。でも今日ばかりは特別なんです。
それでその後は普段通りの手順で頭を洗って体を洗って、それから最後にもう1度湯船に浸かってシャワーを浴びて入浴終了。
うん!これでなんとか今日の色々な疲れが取れた気がした。
それからバスタオルで体を拭きパンツを履いてっと。あれ?洗面所(風呂場とトイレがあるよ)に向かって来てる足音がするぞ?
「ガチャッ」
そこに現れたのは・・・・美優璃だった。
「げっ・・・何見てんの変態」
「いや逆じゃねえぇぇぇ!?!?」
何故いきなり美優璃がここに来たか、この際そんなことは問題じゃない。本当に色ーんな意味でこの状況・・・逆じゃない?
「え?なにが?・・・もしかしてこういうのって私が今あんたの立場であんたが今の私の立場だろ!的なこと思ってるんじゃないでしょうね!?ありえない!!あんた、どんだけ変態な妄想頭の中で繰り広げてんの?」
「・・・・確かにそれは否定できません。・・・・でも!おかしくないか?お前が勝手に入って来て俺を見ていきなり変態呼ばわりするなんて。普通逆だろ!」
そうだ!正論だ。まさしく正論を言っているぞ僕は。被害者はどう考えたって僕だっていうのに・・・こんな冤罪事件がこの世にあってたまるか!!
「だっていきなりあんたがパンツ1枚で突っ立てるんだもん。しょうがないじゃん」
「だーかーら!そうじゃなくてお前がいきなり入って来たん・・・」
「わかった。わかったわよ。今回の件に関してだけはあんたのこと許してやってもいいけどまたいきなり私にこんな姿見せたら容赦なく殺すわよ」
「あ゛ぁ゛!う゛・・・・・もうそれでいいです。美優璃様の寛大な心に感謝します・・・」
「あらそう?ならこれからも感謝を忘れないように」
「えぇ・・・!」
・・・・えー、皆さんもご理解できると思うが、この僕の怒りをまるで薄い布切れのように飄々と振り躱す美優璃に僕はこいつにぶつけることのできない怒りを必死に納め努めて冷静に会話をすることに徹したのだ。
「ってか、あんた結構ガタイ良いんだね。服の上からだとあんま気になんなかったけどうちの学校の男子の中じゃかなりマッチョな方じゃない?」
「・・・お前が結局見てんじゃん」
「え?なんて?」
「あ、いや何でも。昔ちょっと空手やってたから」
「へぇ~そうなんだ!私結構マッチョ好きなんだよねー」
「まじですかー」
「テレんなって!別に好きって言ってもあんたが好きってことじゃないから喜ぶことじゃないからね」
「そうですかー」
「・・・・そうだった!ここに忘れてた化粧液取りに来たんだった!・・・あ、これこれ~!・・・・じゃあ用事も済んだしじゃあね~。あはっ」
そう言って彼女は何事もなかったかのように花唄まじりで洗面所をあとにした。
それは嵐だった。嵐の如く現れの如く去っていった。残ったものと言えば、その嵐に対するぶつけようのない怒りだけであった。
僕はそんな嵐が拡大するもっと凄まじいスピードで彼女のことを――秋瀬 美優璃を敵対していくのだった。