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三月の白/F

作者: 七人伝一






 三月の白/the fragment of Mr. Original Magi










 僕がその娘と出会ったのは珍奇な天気の日だった。時期は三月、しかも当年は暖冬で、降雪の多い土地柄でもないのに雪が積もっていた。まさに季節外れの積雪だが、その原因は彼女にあった。

 彼女は俗に言う雪ん子とか雪童子とか呼ばれる存在であり、訪れる場所は雪が降りやすくなるのである。彼女は外見からして常人の規格から外れていた。身長は30センチほどで、体形は人間というより人間をデフォルメしたビスクドールなどの類に近い。その身の丈にあった小さな蓑を身に着けていた。

 僕が発見したとき、彼女は誰かの作った雪だるまに寄りかかって寝入っていた。彼女はどうやらよく知らない街に迷い込んだらしかったが、放っておいても元居た場所に帰るだろうと思ってそのときは放置しておいた。しかし翌日、ぴーぴー泣きながら別の街を彷徨している彼女を再発見した。

 俺はそんな彼女に声を掛けた。

「迷ったのか?」

「ひぃっ!」

 さすがに悲鳴を上げるのはひどいと思った。




 さて。ここで僕について説明しよう。僕は五行機関ごぎょうきかんという退魔組織に所属していた。中学校を卒業してからは高校に入らず主に組織の仕事をこなして日々を過ごしていたのだが、さして実力が向上するわけでもなく下っ端の中の下っ端であった。当時それを打破しようと無謀な挑戦をして生命の危機に直面したのは、今でも少々苦い思い出である。

 五行機関における退魔とは、俗にオカルトと呼ばれる存在に関する厄介ごとを処理することである。だから、彼女を保護して故郷に返してやるのも僕の仕事と言えた。

 僕は彼女を引き連れて新幹線で一路北へ向かった。移動中彼女を膝の上に乗せていたのだが、人形を抱えた幼稚な男と思われているのか周囲の視線が痛かった。

 電車やバスを乗り継いで行くにつれて周囲の光景は寂れてゆく。これだけの距離をどうやって渡って来たのか疑問に思って訊ねると、

「飛行機雲に乗ってきた」

 と返された。分かるような分からないような微妙な答えだが、退魔の仕事は不可解な現象だらけなのでさして気にしなかった。これも処世の術である。

 一日一往復しかしないバスを降りると、そこは寂れた温泉だった。従業員はたったの3人で、客は僕と彼女だけ。この宿で一泊した後、僕達は雪山に入った。

 しかし僕は数時間後、非常に強く後悔することとなった。

「・・・・・・雪山を舐めていた」

 3月だというのに吹雪が発生していて、1メートル先も見えなかった。歩くのにも困る僕の前方を、彼女はてくてくと平然とした様子で歩いていた。さすがは雪童子。ここは彼女のホームグラウンドなのだ。

 そもそも雪山まで案内したら僕だけ引き返せば良かったのだが、考え無しに惰性で雪山に入ってしまった。こういった阿呆さが僕の下っ端の中の下っ端たる所以なのかもしれない。

 意識が朦朧として、気付けば僕はうつ伏せに倒れていた。彼女が耳元で叫ぶのを聞きながら、僕は寒さと疲労で気を失った。




 目覚めると僕は、見知らぬ日本家屋の座敷で布団に入って横になっていた。僕が寝ている布団の横には、これもまた見知らぬ和服を着た美貌の女性が正座していた。互いに挨拶をして自己紹介をした。彼女はあの雪童子の母親の雪女らしい。

「娘が無理に連れてきてしまったようで。誠に申し訳ありません」

 雪女はそう言って深く頭を下げた。雪女の説明するところによると、雪童子は僕を置いて宿を離れるべきだとは分かっていたが、どうしても一緒にここまで来たかったがために愚行を犯してしまったのだそうだ。

「結果的には無事だったし、一人で行くのが寂しかったという気持ちも分かります。そもそも、エスコートする側である僕の無思慮が問題だったと思いますし」

 そう言って僕は雪女と雪童子を許した。というか許す以前に、彼女達にはほとんど非は無かったと思う。それを聞いた雪女は疲れたように首を横に振ると言った。

「いえ、それが・・・・・・娘はあなたと結婚したいと申しておりまして」

 雪女の背後の襖が開く。見覚えのある面影を宿した美しい女性がそこに居た。




 彼女達の一族は、山里に降りて自分の夫を見つけて故郷に連れて帰ることで、雪童子から雪女に成長できるということ。そして、この吹雪では僕が単独で帰還することはまずできないということ。とどめに、彼女達は僕を返すつもりがさらさら無いということ。

 そういったことを、雪童子から雪女に成長したばかりの彼女から、僕は教えられることとなった。




彼らのその後は自由に想像してやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言]  本筋の話を読まずに今回の作品を読んでしまった者です。  専門的な名詞が出て来ましたが、簡潔に説明されていたのですぐにどのような感じなのか把握できました。   文章が丁寧で淀みなく、すらすら…
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