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修羅と鋼の魔法陣  作者: 桐生
一章
9/31

選抜戦その一 悠の疑問と沙耶の猥談

 鋼焔を含めた魔法陣クラス総勢20名(欠席あり)は校舎からテレポーターで、広大な魔術演習場に移動し、篠山講師が到着するのを待っていた。

 演習場はだだっ広いグラウンドで外周には外に魔術が漏れないようドーム状の結界が張り巡らされている。

 今日は他の課の多くも休講、ということになっており、たくさんのギャラリーが駆けつけていた。

 観客は朝早くから場所取りをしていた人もいれば、トトカルチョを行っているものもいる。

 さっそく賭け事を運営している生徒がギャラリーにブックレットを配布しはじめる、それには、魔法陣課に所属している生徒の入学当時からの模擬戦での結果や得意な魔術、魔法陣の色、簡単なプロフィールなどが記されていた。

 ギャラリーの最前列には豪奢な絨毯が敷かれており、そこには神宮寺沙耶と天城悠が陣取っていた。

 ブックレットを受け取った悠はさっそく鋼焔の載っているページを見つけるためにペラペラとめくっていった。

「お兄ちゃんは―――っとあった。えーっと、なになに天城鋼焔、年齢17歳、得意な魔術、古代魔術全般なかでも鋼、火、治癒系統を好んで使う、これまでの戦績はって――ッなにこれ!?……おい!ババアこれはどうなってんだ…」

 悠は少し震えながら、驚きそして動揺していた。

「…………」

 沙耶は答えない。

「おい、ババ……沙耶、これはどうなってんの」

 沙耶は答える。

「……悠さん、あなたはコウさんの妹なのにそんなことも知らなかったんですか?」

 沙耶は多分に哀れみを籠めた瞳で悠を見つめた。

「う、うるさい!だって、お兄ちゃんあんまり魔法陣課のこと話してくれないし、戦ってるのも家でお父様と軽く手合わせしてるのしかみたことないもん…」

「……そうですね、ちょっと前まではコウさんが入学したばかりの悠さんのことばかり心配して、悠さんがずっと話す側でしたもんね、しかたありませんよね、……グスン」

「止めろ!そんな哀れんだ感じで喋るのを止めろ!あたしがお兄ちゃんに愛されていないみたいだろうがっ」

「えっ?愛されていたんですか?」

 沙耶はまぁ驚きました、という風に目を見開く。

「――テメェ」

 悠の目つきが鋭くなる。

「まぁまぁ、そんなことより、今はコウさんのことが聞きたいんですよね?」

 沙耶は悠のガン飛ばしを軽く受け流して、ブックレットの戦績のところを指し示す。

 悠は――っそんなことだと?と思ったが仕方なく話を聞く、今は分が悪すぎる。

 

 そこには、こう記してあった。




―――天城 鋼焔 71戦 48勝 0敗 23引き分け




 悠が驚いたことは、



―――0敗。これは考えられないことだった。



 鋼焔は入学時からAクラスだったはず、しかも入学時の年齢は10歳そこらだ。

 現在の魔法陣課には在籍していないが、数年前まで数名の傭兵兼学生の人間が所属していたはずだ。他にも、古賀、宇佐美などの優秀な魔陣使いも当時からAクラスに在籍していたはずである。




―――10歳の少年がプロの魔術師に敗北しない、なんていうのは悠には想像がつかなかった。それはなにかの夢物語だろう。




 さらにいえば、どんな魔術師でも調子の悪いときはある、逆に調子の良い時も、それも踏まえると現在の鋼焔でも不敗というのは信じられなかった。


 


「だいたい悠さんの驚いたことは分かるんですが、それよりもここを読んでみてください」


 そう言って、沙耶は魔法陣の色について書かれた場所を指す。そこには、



―――天城 鋼焔 魔法陣の色『不明』



 悠はそれを読んで首をかしげた、不明とはなんだろうか、魔法陣の色は人格や精神で変化することはあるといわれているが、人格や精神はそう簡単に変わるものではない。


「……ババア、意味わかんねーよ、『不明』ってなによ不明って、この冊子作ったやつはどこみてやがったんだ」

 悠は呆れたようにブックレットをバシバシ叩きながら職務怠慢だな、と尊大な態度をとっていた。

「ですから、『不明』です、この冊子を作った人は本当に見たことがないんでしょう」

「んー、つまりお兄ちゃんの魔法陣は色が無い――無色透明ってこと?」


 沙耶はそう言った悠を、まぁ、そう思っても仕方がないですね、と思いながら、





「違います、コウさんは模擬戦で魔法陣を―――魔陣領域を一度たりとも展開していない、ということです」





と、言った。


 それを聞いた悠は一瞬呆然としたが、

「――っは、あたしを騙してどうするつもりだ?」

 どう考えてもありえないことなので、ババアまたおちょくりやがって、と思いながら睨みつける。



「では、あとで、直接コウさんに聞いてみますか?」



 沙耶がいつになく真剣な目と声音でそう言ったので、悠は今度こそ絶句した。体も震えはじめた。



 悠がさっきまで考えていた勝敗の数は、当然、魔陣使い二人ともが魔陣領域を展開しているものだと想定してのことである、誰が展開しないだろうと考えるだろうか…。だからこそ、余計に意味が分からなくなった。

 魔陣領域を展開しないということは、魔術の効果、抵抗、命中精度、全てにおいて数段劣るということなのだから――

悠は考えるのをやめた。頭が痛くなってきそうだった。




「…ところで、沙耶は見たことあるのか、その――お兄ちゃんの魔法陣を」

 やっと思考から帰ってきた悠がおそるおそる沙耶に訊ねた。



 沙耶はとても大切なものを宝箱から取り出すようにそれを思い出した後、普段、鋼焔に向けるような満面の笑みになって、



「はい、一度だけ」



と、答えた。



「ふ、ふーん、そうなんだ、…ぜんっぜん羨ましくないけどな!あたしが頼めばお兄ちゃんはあっさり見せてくれるハズだしー、あっ!そうだ2回見させてもらおっと、そしたらどっかのババアが泣いて悔しがるしー、ふふーん」

 悔しがっていた悠が徐々に勢いを取り戻す。


「いえ、無理ですよ、綱耀様によほどのことが無い限り絶対に使うなと言われていますから、コウさんも私も納得する理由ですし」

 沙耶は勢いを取り戻しかけた悠をドン底まで叩き落とした。

「むっ、お父様が……じゃあ絶対無理じゃん、ババアマジふざけんなよ…くそがぁ…」

 悠は沙耶に八つ当たりしはじめていた。


 天城綱耀は厳格な父親だった、鋼焔も悠も決められたことは必ず守っていた。

 未だに悠は父親と話す時緊張する、それぐらい威圧感のある人物だった。

 鋼焔も父と話しているときは言葉遣いから仕草、礼節についてまで徹底していた。

 その彼がダメだと言えば、自分達はそれを守るしかない。

「……ていうかあたし、お兄ちゃんのこと全然しらなかったんだな」

 天城綱耀と悠の母親が再婚した当時、悠は6歳、それから7年天城家で生活してきた。

 悠は10歳から魔術学校に通い始め、現在13歳、たった3年で死霊術士としての才能をメキメキと伸ばし、当代最高とまで言われた駿才である。

「まぁ、コウさんは悠さんに対して過保護すぎますからね、余計なことで悠さんを不安にさせたくなかっただけだと思いますよ」

 沙耶は珍しく悠に対して真面目に励ますようなことを言った。

「……たしかにお兄ちゃん優しいけどな、でも、あれ過保護っていうのかよ、毎朝着替え覗かれてるきがする、あたしエッチなのは苦手なのに…」

 悠は少し顔を赤らめながらそう言った。

 

 それを聞いた沙耶は不敵な微笑みになり、変なスイッチが入った。

「ふっ、その程度のことでエッチなんて言っているんですか?可哀想です、私なんて小さい頃からお風呂に一緒に入って見せ合いっこをしていましたからね、私の胸が膨らみ始めてからはしばらくそんなこともなかったんですが……あれは一昨年の夏でした、私の体つきがどんどん良くなっていくにしたがって、コウさんが徐々に私の胸をチラ見する回数が増えていったんです。だから私、別邸の中で逆に扇情的な薄着にしてみたんですよ、悠さんも覚えていますよね?――そしたらコウさん、私に気が付かれているのも知らずにずっと胸の谷間を凝視してくるんですよね、私はこの時にイケルと確信しました。――コウさんも限界だったんでしょう一つ屋根の下に女の子がエロい格好をずっとしてるんです、それを一週間ぐらい続けた日の夜、私、シャワーを浴びていたんですが、突然、お風呂場のドアが開いてコウさんが入ってきたんです」

 暴走気味の沙耶が一気に捲くし立てる。

「そ、それで?」

顔を真っ赤にして少し興奮気味の悠が続きを促した。

「……私はその時、覚悟を決めました。嗚呼、今日、私の初めては奪われてしまうのだと!で、お風呂場に突然侵入してきたコウさんは、背後から乱暴に私の胸を鷲掴みにしてきたんです、二人とも無言で荒い吐息だけが浴室に響いていて、鏡に映ったコウさんの眼は血走っていました。そしてもう片方の手で私の×××に指をいれてきたんです!私は歓喜に打ち震えました…。何度か前後に動かされた後、一度指は抜かれて、そしたら今度は指を三本も入れてきたんです…。私、驚きました。危うく手で×××が破かれるところでした…。初体験が手ってありなのか、無しなのか少しだけ迷いましたが、さすがに手は勘弁してくださいヒギぃって言って止めてもらったんです」

「うう、も、もう嫌だ聞きたくない、やっぱり止めろ!」

顔色がトマトのような色になっている悠が顔を伏せぎみにしながら耳を塞いでいた。

「いえ、ここからが良いところなんです、――私の処女膜がブチ破られる話しなんですが…」

「ふ、伏せないのかよ!っていうか、う、う、嘘だろその話、本当だったらあたしが一緒に住んでるのにおまえ、あたしのお兄ちゃんとなんてことしてくれてるんだよ!」

「嘘だと思うなら後でコウさんに聞いてみてください、ごまかそうとしておそらく眼を逸らしますから」

 悠にいつもの勢いは無い、声は震え自分の苦手な話に頭が沸騰しそうになっていた。

 そして、思い出す。

 ここ数年、夜中にトイレに立った時に度々沙耶の部屋から聞こえていた振動音のことを、それは昨晩も。

「ババア、テメェまさか昨日の夜も――」

「あら、どうしてわかったんですか?…コウさんったら、こうした方が明日気合がはいるからって激しくされて、なかなか眠らせてくれなくて、普段は照れてばっかりなのに、本当にやる時はやっちゃう人ですよね――あら?悠さんどうしました?」

 悠は頭からプスプスと煙を出して意識を宇宙そらの彼方に飛ばしていた。

「…なんていうか、話が脱線しすぎましたね、今日は悠さんに圧倒的な戦力差というものを教えるつもりはなかったのですが」

 そんな悠を見て、沙耶は軽く嘆息した。



 一方、魔法陣課の面々の前では篠山講師が魔術演習場に到着し選抜戦についての説明をはじめていた。

 もうすぐ一回戦がはじまろうとしている。


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