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修羅と鋼の魔法陣  作者: 桐生
一章
8/31

傀儡術と灯美華

 魔術には適性がある。

 例えば、天城悠は死霊術の適性が高く、古代魔術も基礎までなら扱える。だが、神聖術の適性はなく一切使用することができない。

 神宮寺沙耶は神聖術の適性が高く、古代魔術も悠と同じレベルで扱える。逆に、沙耶の場合は死霊術の適性はなく一切使用することはできない。


 天城鋼焔は古代魔術の適性が高く、その次に陰陽術の適性が高い。

 死霊術、神聖術の適性は無く使用することはできない。

 そして、鋼焔は術の属性――鋼の系統の術の適性がずば抜けて高かった。

 そういった突出した属性を持った魔術師がその系統の術を使用すると『固有魔術』になる場合がある。

 例えば、日鋼にいる普通レベルの鋼系統の適性を持った魔術師が鋼のクラス4の古代魔術を使用すると、無銘の刀が具現化する。

 西大陸の普通レベルの鋼系統の適性を持った魔術師が鋼のクラス4の古代魔術を使用すると、なんの変哲も無いロングソードが具現化する。

 東の人間と西の人間、生まれ育った文化の違いでも同じ術の発現内容は変わる。

 


 しかし、高い適性を持った人間、――鋼焔が同じように鋼の古代魔術を使用すればクラス1~10全ての段階で様々な銘入りの名刀や、妖刀、神剣が具現化するのである。


 

 そして、この鋼の系統の術と相性が良い傀儡術かいらいじゅつの講義を鋼焔は受けていた。魔法陣課とはまた別の講義である。

 

 傀儡術は詠唱する必要がない術である。精神を集中し物体の制御をする術であった。

 特にこれを習得していない魔術師が鋼の古代魔術を使用すれば刀が具現化して、そのまま対象目掛けて飛んでいくだけである。

 傀儡術をマスターしたものが同じように術を使用すると、まるで刀が生きたように――優れた剣士が刀を振るっているかのように動かすことが可能になるのである。

 傀儡術とは術の補強・補助をする術という一面を持つ。



 鋼焔は広い空間のある実習教室で傀儡術の演習をしていた、今日の授業は年度初めの実力試験である。

「じゃあ、最初は天城くん前に来てください」

 呼ばれた鋼焔は席を立ち、講師に指定された場所にたって演習を開始する。

 教室中の視線が集中し、鋼焔は少し緊張した。

「では、はじめてください」

 講師に促された鋼焔は演習の内容を説明する。

「えーっと、おれは5本の刀で殺陣たてをやります」

 そう言った、鋼焔は深呼吸して緊張を解き軽く精神を集中させ鋼のクラス4の古代魔術『天下五剣』の詠唱を開始する。


「【Ark Urt Arl Tyn Idr Irx】」


 鋼焔の詠唱は成功し、鋼焔の周りに抜き身の五本の名刀が空中に具現化した。

 これを見た何人かの学生は歓声をあげた、おそらく『固有魔術』をみたのが初めてだったのだろう。

 そして、鋼焔は空中に浮いた五本の刀をウォーミングアップするかのように、クルクルと回転させ始める。ついで、刀の位置を離しはじめ、剣士が構えたかのようにそれぞれの刀に特徴を持たし始める。

 正眼、上段、下段、八相、脇、とそれぞれの刀を完全に空中にピタリと制止し構えさせてから、殺陣を開始させた。


 空中で刀同士がぶつかり合えば、鍔迫り合いが起こり、刀の持ち手がいるだろう場所を互いに斬り合えば、斬られた方の刀はくるくると回転して地面に落ちる、斬った側の刀はそのまま通り抜け再び構えをとる。

 それはまるで、見ているものからすれば透明人間が居て、刀を実際にあつかっているのではないかと思うほど精密な動きであった。

 

 一人の人間が五本の刀をここまで自在に動かせるというのは、なかなかに珍しいことだった。

 

 鋼焔の殺陣が5分ほど経過したところで講師が終了を宣言した。

 教室中から拍手が起こる。

「出だしから好調ね、上出来、席に戻ってよろしい」

「ありがとうございます」

 鋼焔は講師に褒められ照れながら礼をして席に戻っていく。

 席に戻ると近くに座っていた、鬼堂灯美華に声をかけられた、彼女も傀儡術の講義を受けていた。

「さすが、鋼焔くんやるねー」

「…いや、灯美華さんに言われると嫌味にしか聞こえないんだけど」

「ふふん、まぁ年の功よ」

「二つしか変わらないのに?」

「そうよ!…というか次、私の番だからいかなきゃ」

 そういって、灯美華は呼ばれて前に移動し演習の準備をはじめる。

 灯美華は陰陽術を扱う。

 両手に30枚ずつ計60枚の式符を用意して式神を召喚した、のっぺらぼうの人サイズの紙が具現化する。

 その60体が規律正しい動きで、教室の端から楽器を持ち出してくる。これだけで彼女の傀儡術のレベルの高さを推し量ることができる。


 灯美華の式神は西大陸の楽器を60個ほど設置した。かなり多い。オーケストラを始めるつもりなのだろう。

 

 そして、灯美華は演奏を開始した。

 綺麗なメロディでどの楽器もミスをしない、本場のオーケストラそのものが再現されていた、どの楽器の奏者も少しずつ特徴をつけるなど恐ろしい工夫がなされていた。

 教室の皆がもう少し聴いていたいだろうと思っていたが講師が10分ほど経過したところで終了を宣言した。少し時間を取りすぎたぐらいだ。

「さすが鬼堂さん、素晴らしかったです」

 褒められた灯美華は笑顔で席に戻ってくる。

「鋼焔くんどうだった?お姉さんすごかったでしょ?」

「はいはい、すごいすごい」

「もー、なによそれぇ!」

 鋼焔が少し嫉妬しながら生返事を返した、灯美華は笑いながら怒る。

「しかし、本当に凄いな、おれの殺陣が児戯に等しい」

「もー、そんなに褒めないでよー、お姉さんはこれぐらいしか取り柄がないからねー」

 灯美華はデレデレになっていた。

 

 そして急に真剣な顔つきになって、鋼焔に訊ねる。


「ところで、鋼焔くん、調子はどう?演習選抜で勝つ自信ある?」


「うん、いつも通りやればいける自信はある」

 鋼焔は力強い返事を返した。



「そっか、それならよかったよー」



そう言った、灯美華の顔は可愛らしい笑顔をしていたが、なぜか鋼焔はその笑顔に違和感を覚えた。



――まるで小さい頃の自分と彼女を見ているようだった。


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