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修羅と鋼の魔法陣  作者: 桐生
一章
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あさげ時々けり

 沙耶と悠の喧嘩しない宣言から二週間ほど経過したある朝。

「コッオっさ~ん朝ですよー。起きていますかー?起きていませんねー!」

 沙耶は鋼焔のドアの前に立ち小声で呟きながら、鋼焔の部屋に侵入しようとしていた。

「うふふ、ふふふ、今日こそは私、コウさんと同じ布団に入って二度寝しちゃいますよ」

 どこへの表明かはわからないが、沙耶は世迷言を吐きながら、鋼焔が眠っている布団に忍び寄っていく。

「いや、いやいや、同じ布団で二度寝、これは確かに魅力的です、捨て難いなんとも捨て難い…ですが、やっぱり今日は、私は敢えて難易度の高い『おはようのチュー』を目指したいと思います」

 沙耶は朝から何かが振り切っていた。おそらく誓約書によるストレスが原因なのだろう。

 ついに、鋼焔の布団の上に跨り、沙耶は鋼焔の唇をロックオンした。

「ああ、神よ、罪深き私をお許しください。それでは、おはようのチューいただ―ゲハッ」

 むくり、と勢い良く起き上がった鋼焔の額に沙耶の顎が打ち抜かれ、沙耶が淑女にあるまじき奇声を発した。

「…んん、ん、沙耶か、おはよう」

 幼馴染が自分の布団の上に乗っていることにもあまり驚かず鋼焔は軽く挨拶した。これが朝のお約束だった。

「ところで、ゲハってなに」

 沙耶は心の中で、チッ、さすがに三回目は失敗しました、と呟く。

「なんでもありません、コウさんおはようございます」

 顎は打ち抜かれた沙耶は、鋼焔の布団の端でうつ伏せになりながら挨拶を返した。

「じゃ、おれは悠を起こしてくるから食卓で待っといて」

「はい、わかりました…」

 沙耶なら悠さんを起こしに行くのは私が、と言いそうなものだが沙耶が天城家の別邸に同居しはじめてから五年間の内、一度しか悠を起こしたことはなかった。

 一度だけ沙耶が悠を起こした時、朝から部屋の一室がプロレスリングと化した。その日、たまたま機嫌の悪かった鋼焔がそれを目撃、激怒し朝は誰が誰を起こすかを、その朝に取り決め、破った場合は二度と互いの部屋への出入りを禁じるとしたため、ここ五年間その予定通りに行われていた。

 

 悠の部屋の前に着いた鋼焔は素早くドアをノックして、室内の妹に声をかけた。

「悠、起きてるか?入るぞ」

 鋼焔はなぜかほぼ毎朝、声をかけながらドアを開ける。

「上は、なし、下は――しまパンか、おはよう」

 変態兄は妹の裸を見ながら淡々と朝の挨拶をした。

「あ、ごめん、お兄ちゃんいま着替えちゅ――って、おっ、お兄ちゃんのドエロぉ」

 悠は羞恥と怒りで朱に染まった体を隠しながら、兄を追い出した。

 鋼焔は追い出された後、食卓に向かって歩き出そうとした。

 すると、京が現れて困惑顔で質問をする。

「……御主人、京には分からないです、なぜ毎日のように悠様の裸体を覗かれるのですか」

 すると、鋼焔は家族を慈しむように、京の瞳をみつめながら頭をポンポンと撫で――

「簡単なこと、兄には、妹の成長を見守る義務がある。ただ、それだけのことだ」

いつにない面構えで、一見美しい兄妹愛のある台詞を吐いたが、最低のクズだった。

「はぁ…、そうですか…」

 京はこの人、これさえ無ければなぁ、と思いながら溜息を吐いて姿を隠した。


「いただきます」

 三人が食卓につき、食事をはじめる。御飯、味噌汁、目玉焼き、ソーセージ、漬物が今朝の献立だ。

 今朝の話題は今週行われる予定の、連盟演習会選抜についてだった。

「コウさん、選抜って何人ぐらいが選ばれるんでしょうか?」

「んー、たぶん3人か、4人だと思う」

 鋼焔は目玉焼きに箸を伸ばしながら、そういや醤油かけてなかったなー、と思い醤油に手を伸ばそうとした。すると、すでに沙耶が醤油を掴んでおり、

「はい、どうぞ」

と、楚々とした笑顔と共に差し出してくれる、そんな幼馴染を鋼焔は好ましく思いながら醤油をかけた。

「じゃあ、コウさんは確定として、残りの三人は誰が選ばれると思いますか?」

 どうやら、沙耶の中では鋼焔が選ばれるのは決定事項らしい。

「そうだな、古賀さんが仕事じゃなければ確定として、後は委員長の宇佐美、最後の一人は正直わからないな、意外とAクラスは実力が拮抗しているから誰が選ばれてもおかしくないな」

 鋼焔も自分が選ばれる自信はあった、それだけの能力はあるつもりだ。

「そうですか、当日、私は休講なので応援にいかせてもらいますね」

「……なんだか照れるな」

「あ、コウさん口におべんとついてます」

 沙耶は鋼焔の唇の端についていた米粒をひょいと取り、そのままパクッと頂いた。

「…すまん」

 鋼焔はかなり照れながらお礼を言った。


 一連のお約束の流れをじっとりと鑑賞していた悠は、気が狂っていた。

「ババアマジ殺すババアマジ殺すババアマジ殺すババアマジ殺すババアマジ殺す」

と、呪詛の念を沙耶に送りながら、脳内でブサイク化した沙耶を100回はキルしていた。

「お兄ちゃんっ、あたしもその日お休みだから見に行くね」

 死霊術課はその日休みではない。悠は嘘つきな悪い子だった。

「うん、応援頼むわ」

 鋼焔がそういった直後、沙耶が、あら、悠さんその日ってたしか、とニヤニヤしながら言いかけたところで悠が食卓の下で蹴りを飛ばした、眼も今度こそ殺すぞ、と言わんばかりに据わっている。

 沙耶は誓約書の件もあるので、はぁ、まぁいいでしょう、とあっさりと引き下がった。

 思いのほか、誓約書の効果は抜群だった。


 朝食も取り終え、三人は登校の準備を済まし、いつも通り徒歩で学校へ出掛けて行く。


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