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修羅と鋼の魔法陣  作者: 桐生
二章
20/31

『潜伏先』

 

 五年前。


 天城家本邸の道場で天城鋼焔と天城鋼耀の二人は向かい合っていた。


「―――それで、話とはなんだ」

 鋼耀は先ほどまで体を動かしていたのか、汗を拭いている。


 そして、鋼耀は息子が何について話に来ているかは、半ば分かった上で続きを促した。


「はい、……神宮寺のことです、鋼耀様、どうか、もう一度考えてはもらえないでしょうか」

 鋼焔は正座し、じっと父親を見ながら思い詰めた表情でそう言った。

 時刻はすでに九時を回り、窓からは月明かりだけが差し込んでいる。

 そして、薄暗い室内の中でもハッキリと分かるほど、鋼焔のまぶたは腫れていた。

 先ほどまで泣いていたのか、目も真っ赤になっている。


「……また、そのことか」

 鋼耀は呆れたように呟いた。

 こうして自身の息子に頼み込まれることが、彼是一週間も続いていた。


「鋼焔、お前にはまだ分からんのかもしれんが、俺には日鋼を治めている者としての立場というものがある、息子に頼まれたからと言って簡単に決定を覆すことはできないんだ」


「……お願いします」


「無理だ、分かってくれ」


「…………お願いします」


「……すまんが――」

「お願いします」

 繰り返し何度も同じことを言った後、土下座をした。

 鋼焔は父親が折れるまで何度でも、いつまでも、こうするつもりでいる。

 自分が子供の我が侭を言っているのは重々承知で。

 

「……はぁ、分かった分かった、仕方が無い奴だなおまえは、俺も鬼じゃない、お前がこの国に対して、それ相応の働きをしてくれるのなら考えんこともない」

 鋼耀はそうは言ったが、妥協案を提示するつもりは無い。

 息子ができない事を提案して諦めさせるつもりでいた。


「……なにをすればいいのですか!?」

 鋼焔は土下座していた顔を上げて、必死の形相で鋼耀に問うた。


「そうだな――情報を持ち出した者二十名全てとは言わん、三つの研究の根幹に関わっていた人間――黒田、赤羽、神宮寺、誰か一人でも良い、探し出してここに連れて来い。生死は問わん」

 鋼焔は、よく沙耶に連れられて魔術研究所に遊びに行っていた。

 鋼耀が名前を挙げた三人も、挙げなかった他の人間も全てが鋼焔に良くしてくれていた。

 忙しい父親よりも長い時間遊んでもらっていた。

 それを分かっていて、捕まえて来い、と。

 しかし、見つけることができたとしても必ず抵抗される、殺すか殺されるかしかないのだ。

 

「……本当にそれを果たせば、沙耶――神宮寺の件、考えて下さるのですか」

 条件を聞いて、鋼焔は複雑な表情になった。

 瞳に涙が溜まり始めている。


「ああ、嘘は言わんよ、神宮寺の娘の除籍は必ず取り消そう」

 沙耶は、彼女の父親たちが国を裏切って捨てたため、武鋼魔術軍事学校からは抹席され、住居も接収されることになっていた。

 母は亡くなり、彼女に資産は無いため、今後、戦争孤児と同様の扱いを受ける予定になっている。

 そして、そこで裏切り者の娘がどういう扱いを受けていくかは想像に難くない。


「……鋼耀様、ありがとうございます―――――では、さっそくですがお願いします」

 

 鋼焔は瞳から涙を零しながら、笑っていた。


「京」

 後ろに控えさせていた京を呼ぶ。


「ご、ごしゅじん、……うう」

 小さな少女が両手で大きな包みを持っていた。

 京は怯え、青い顔をしながら恐る恐るソレを運んでくる。

 鋼焔は自身の前に置かれたその包みを解いた。

 悲しくて泣きながら。

 嬉しくて笑いながら。



「―――っ、……お前」

 その包みから現れた物を見て鋼耀は瞠目した。

 木造の家屋にふさわしくない濁った悪臭が漂い始める。


「黒田響、赤羽奏、両名の首です」


「黒田は、神宮寺家の地下に隠してあった資料を回収しに来た所を待ち伏せ、殺害しました」


「赤羽は、黒田の護衛から合流場所を聞き出し同様に処理しました」


「他十五名と護衛に付いていた者十名、全て殺害。神宮寺信夜と残り二人の所在は分かりませんでしたが」


「―――これで文句はありませんよね、鋼耀様、約束は必ず守ってください」

 鋼焔の涙は止まらない。

 視界がずっと滲んでいる。

 声も震えていたが、強く鋼耀の目を睨み付けるようにしながら言い切った。


「……わかった、約束は守ろう。……だが、除籍を免れたとしても神宮寺の娘はどうなるかわからんぞ、お前はそれを分かっているのか」

 場所が変わるだけで沙耶は迫害の憂目にあうだろう。


 

 一瞬、鬼堂灯美華の顔が脳裡を掠めた。



「……神宮寺沙耶には天城の家に入ってもらいます、……自分がずっと傍にいます、それで誰にも文句は言わせません」


「……お前な、そういうことを勝手に決めるな、それに鬼堂の娘との縁談はどうするつもりだ」


「自分が、話を着けておきます」


「……はぁー、もう知らん、勝手にしろ」

 鋼耀は頭を掻きながら、道場を出て行こうとする。


「鋼耀様、ありがとうございました」

 出て行こうとするその背に礼の言葉を投げかけた。


「……まぁ、これだけ揃っていれば周りの人間は黙らせるには十分だろう、あいつらの研究結果はもとより、本人が他所の国であのふざけた研究を続ける方が危険だったろうからな、……お前はよくやったよ」

 そう言って今度こそ、鋼耀は出て行った。

 

 

 静寂が訪れる。



「……京、ごめんな、運ばせて」

 まだ涙を流しながら鋼焔が、ポツリと呟く。


「……京は大丈夫です。御主人の方が……」

 主の方を心配しながらも、京の顔は優れない。

 彼女は、この日初めて人が目の前で死ぬのを目の当たりにした。

 自分達が殺した。


「……もう寝ようか、それで明日、沙耶の意識が戻っていたら報告しに行こう」

 しかし、目に、脳に、その手に焼き付けた光景と感触が、眠ることを許してくれそうにはない。

 

「……はい」


 その夜、二人は一睡もできなかった。

 鋼焔はずっと泣いていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 連盟演習会から一月以上経ち、武鋼魔術軍事学校は日常を取り戻しつつあった。


 そして、天城鋼焔と火蔵明人は午前最後の講義、魔術史学概論を受けている。


「コウ、見ておけ、これがおれの秘策だ」

 そう言って、明人はシャーペンを鋼焔に見せ付けるように掲げた。

 

 今日、二人は美人講師の神速の板書速度に対抗するため、練りに練った作戦を互いに披露しようとしている。


「どっからどう見ても、なんの変哲もないシャーペンじゃないのかそれ」

 鋼焔は訝しげにそれを見た。


「かぁー、これだからコウは素人の域から抜け出せないんだよ、これはシャーペンなんて柔な物じゃねぇ、鉄でできてんだよ、鉄でな」

 そう言いながらシャーペンを折ろうと全力で力を入れている。

 鉄ペンは全くしならない。

 鋼焔に見せ付けた後、それを渡す。


「ちょ、これ重すぎだろ、これじゃ逆に書くの遅くならないか」

 細いシャーペンが二キロ近くあり鋼焔は衝撃を受けた。なんらかの魔術も付与しているようだ。

 これでは数分で手首が悲鳴をあげるだろう。


「ふふ、ふ、まぁ見ていろ、ここからだ、おれのリベンジが今、始まる」

 そう言って鋼焔から鉄ペンを受け取り、ノートに写しだす。


「……なっ、速い、明人の手が見えない!まさか、武神術を使っているのか!?そのためにシャーペンの耐久性を上げていたというのか!」

 鋼焔は棒読みで説明している。

 

 そして気が付く。


「明人、さっきから凄い勢いでノートが破けてる音がするんだけど」

 最初の数行は書けていたが、それ以降、鉄ペンがノートを彫り始めていた。


「…………………ふぅー」

 明人は急停止して溜息を吐き、鉄ペンを置いた。

 無事なのは右側だけで、左側のページ群は表紙に達するほど鉄ペンによる破壊の痕跡が深く刻まれていた。


「明人、おまえ、どうしてぶっつけ本番でやったんだ……練習してこいよ」

 明人の目は死んでいた。


「おれは今日、この日のために練習に練習を重ねて来た――お前とは違う、明人よ、恐れ戦くがいい」

 鋼焔は腕を組み、両目を瞑った。

 不敵に微笑んでいる。


「……見せてもらおうじゃないか、コウ」


「【Ark Urt Arl Tyn Idr Irx】」


 そして、鋼焔は『天下五剣』を詠唱した。


「なん……だと……、コウ、おまえまさか、……刀の先に鉛筆を付けて、五本同時に違う文章を書いていくつもりか!?」

 明人が棒読みで説明する。


「その通りだ、明人、そこでおれが書き終えるのを、指を咥えて待っているがいい」

 隣に座っている明人に高らかに宣言した鋼焔は、切っ先に鉛筆をくっ付けた五本の刀を動かし始め――たところで、


「天城くん」

 美人教師が板書の手を止めて鋼焔に声をかけた。


「はい、なんでしょうか」

 

 鋼焔が応えると美人教師は冷淡な笑顔になり、親指でクイっと廊下を指し示した。


「あ、はい」

 一転、目が虚ろになった鋼焔はトボトボと廊下に出て行く。


「コウ、アホだろ、講義中にそんな物騒なもん出すやつがどこにいる……」

 明人の悲しい呟きが、廊下に去っていく鋼焔の鼓膜を揺らしていた。

 


 それから数分後、講義終了の鐘が鳴り昼休みに入ろうとしていた。



「コウ、昼休みに話がある、今日は屋上についていくぜ」

「ああ、付いて来い、むしろ、こちらからお願いしたいぐらいだ」

 鋼焔はいつも沙耶、悠の三人で昼食をとっているため、明人とは別々だった。


「あー、……やっぱ駄目だ、教室で話をしよう、クレアさんも屋上にいるんだろう?」

「……ああ――そうだけど、……彼女に聞かせられない話なのか?」

「微妙なところだが、彼女の協力が必要になる話でもある」


 明人は一度大きく深呼吸した後、口を開く。


「神宮寺さんの父親、神宮寺信夜の手がかりを見つけた―――場所は」


「――インスマス王国ってことか」

 鋼焔が明人より先に答えた。


「ああ、インスマス王国の西大陸に近い『騎士領』で見つかったらしい」

 騎士領とは、インスマス王家が管理している領地だ。

 入るにはそれなりの手続きを踏まなければならない。


「目撃情報があったとか?」

 以前もそうだったが、沙耶の父親の目撃情報はどれも信憑性が低い。

 もしそうなら、わざわざ遠くまで行くのは馬鹿らしいと鋼焔は思ったが。


「いや、違う、死体が見つかったらしい――異常な量の爬虫類の死体だ、しかも目撃した次の日には全て処分されていたらしい」


「王家の騎士領に大量の爬虫類の死体、罠かと思うぐらいに不釣合いだな、しかも西大陸寄りか、本人の目撃情報なんかよりよっぽど信頼できそうだ」

 鋼焔は思い出す。

 神宮寺家の地下にあった、異形の爬虫類の亡骸の数々を。


 神宮寺信夜が行っていた研究は、魔術と遺伝子工学を組み合わせてこの地上に『龍』を兵器として蘇らせることだった。

 

 そして、彼は西大陸に留学し魔術遺伝子工学を学んでいた。

 研究情報を流そうとしている先も、西大陸ではないかと言われている。

 

「たしかに、怪しいけど、それだけじゃまだ騎士領に入れてもらうのを交渉するのには踏み切れないな……」

 鋼焔は、情報は嬉しかったが、苦い表情でそう返した。



「……まだある、これを言うとおれの頭が可哀想と思われそうだから言わなかったんだが、……三mぐらいのトカゲみたいな生き物が二足歩行していたらしい、……映画か何かの見過ぎだと言われてもおかしくはないだろ」

 明人もその情報を父親から聞いたとき、ボケてしまったのかと思った。


「一気に胡散臭くなった――、と、言いたいところだが、沙耶の家に残っていた研究資料にそんなものが載っていたな……」


「……コウ、どうする?」


「……行ってみよう、だが、その情報が本当ならインスマス王家が神宮寺信夜を匿っている可能性が高くないか」


「その可能性もある、だからクレアさんに話すのは慎重になった方がいい、そこはコウに任せる」


「……わかった、どちらにせよ、彼女の協力は必須だろうからな、少し考えとくわ」

 鋼焔は少し難しい顔になって唸った。


「へへ、じゃあ、おれも準備しとくぜ」

 

 明人は若干、旅行気分に浸れそうだと浮かれ始めていた。

 二人は分かれ、鋼焔は屋上に向かって行く。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 その頃、屋上には三人の少女がいた。


 屋上のド真ん中に豪奢な絨毯を敷き、その上には神宮寺沙耶と天城悠が、

 その隣には、ハンカチをお尻に敷いて、クレア=インスマスが座っている。


「…………なぁ、なんで毎日毎日毎日、ドリルさんはここに来てるの」

 悠は凄い嫌そうな顔で、半眼になりクレアを睨みつけている。


「? ………ドリルってもしかして、わたくしの事ですか……?」

 その髪形からドリルと言われたクレアは、周囲を確認して、沙耶を見て、悠を見た後、自分を指差して首を傾げながら訊ねた。


「テメェ以外に誰がいるんだよ! そんな立派なドリル二個も装備しやがって」

 悠は、ここ最近、毎日のように屋上に来て一緒に食事をしている彼女にムカムカしている。

 ただでさえ、沙耶がいるせいで兄との会話が削られているのだ、もう一人追加など許容できるものではない。

 そして、嫌味が完全にスルーされてしまったことでヒートアップし始めている。


「悠さん、落ち着いてください。一応の一応ですが、悠さんは腐っても天城家の長女、外交問題に発展しますよ」

 沙耶は止めるつもりがあるのかないのか、火に油を注ぎながら嗜める。


「……一応でも腐っても無いわ、ババア!」


「まぁまぁ、ここは私に任せてください。……インスマスさん、本当にお礼のためだけに来ているんですよね」

 荒ぶる悠を受け流して、クレアの方に真剣な目を向けた。


「ええ、そうですわ。個人的なお礼と、命を助けて頂いたお礼です」

 鋼焔は傀儡術の礼ならともかく、命云々の方は自分に責任がある、と頑なに遠慮しているのだが。


 しかし、クレアはそんなの関係ありません、と毎日のように実家から送られてきている高級食材を携えて屋上に来ていた。


「別に、下心があるわけではないですよね?」

 沙耶は少し、探るような眼つきになり訊ねる。


「……それはどういった意味ですか?」

 

「コウさんに好意がある――いえ、恋愛感情を抱いているのではないかと言っているんです」

 沙耶は、まどろっこしい策は採らなかった、単刀直入に切り込んでいく。


「べ、別にそういうことはありませんわ、ただ、純粋にお礼がしたいだけです」

 いきなり、ストレートにそう聞かれたので頬を朱に染めながら答える。

 

「――そう、ですか、なら特に私からはなんの異存もありません、仲良く昼食を頂きましょう」

 沙耶は彼女の表情をじっくりと見て、たしかに恋愛感情ではなさそうだと判断した。

 それから、安心しましたと言わんばかりの満面の笑みになり昼食の用意を始めようとする。

 

 しかし、悠は、


「待て! あたしは異存ありまくりなんだよ、この女、絶対お兄ちゃんに色目を使いに来てるし! しかもここ最近ずっと餌付けしてるじゃん!」

 全く納得しておらず、一国の姫相手に失礼な言葉を吐きまくる。


「……こ、この女? 餌付け? ……少々言葉が過ぎるのではないですか? いくら天城様の妹君とはいえ―――」

 クレアは額に青筋を立てて、礼儀のなっていない年下の少女に説教しようとするが。


「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。――そうです、まだ自己紹介もしていませんでしたし、仲良くなるための第一歩を進めていきましょう」

 沙耶は、二人の間に流れる空気を無視して、笑顔で場を仕切り始めた。


「では早速、私から、神宮寺沙耶です、所属は神聖術課、―――コウさんの婚約者です」

 最後のところを強調して言った、と同時に、クレアの表情を伺う。

 沙耶はまだ探りを入れるのをやめてはいない。


「……婚約者、だったんですか、わたくし『護衛』か何かだと思っていました」

 不意を突かれたクレアは、沙耶の判断を迷わせるような複雑な表情で語ったが、さきほどから探りを入れられているのに気が付いたのか『護衛』のところを強調してやり返した。


「……それに神聖術士だったんですね、刀をお持ちになられていましたから、てっきり武神術士だと思っていました」

 クレアは本当に珍しいと思ったのか、表情を変え、以前の一戦のことを思い返していた。


「よく間違えられます、日鋼人の、しかも刀を持った神聖術士なんて私ぐらいでしょうから、じゃあ、次はインスマスさんお願いします」


「は、はい、クレア=インスマスですわ、魔法陣課に所属しています、最近は生け花を嗜んでおります」


「じゃあ、一応、悠さんもしときます?」

 沙耶は、どうでもよさそうに髪の毛をいじりながら悠に話を振る。


「――ふん、天城悠、死霊術課、好きな人はお兄ちゃん、嫌いな人は『おまえ』と『こいつ』」

 おまえ、と言ってクレアを、こいつ、と言って沙耶を指差した。


「悠さん、本当にやめてください、外交問題になります」

 沙耶はその無礼な悠の人差し指を掴まえて、曲がってはいけない方向に曲げ始める。


「イタッイタタタタッやめやめぇ、お、おれちゃうぅおれちゃうううぅ」


「……はぁ、神宮寺さん放してあげてください、『子供』の言うことです、別になんと言われてもわたくし気にしませんし、その程度で問題にはしませんから」

 クレアは呆れたように深々と溜息を吐いた。

 

 『子供』と言われた悠は、痛がりながらもクレアに鋭い眼光を飛ばしていた。


「そうですか? インスマスさんが良いというなら放しますけど……」

 沙耶はまだまだわかっていませんね、という表情でクレアの寛大な措置に従った。


「……ッイテテ、ほんっと年増垂れ乳女は無茶苦茶するな、それに比べてこっちの『メス豚クソドリル』は話しがわかりそうじゃん、よろしくね」

 悠は、曲げられていた指の安否を確認したあと、嫌らしい笑顔になりクレアに向かって握手を求める。

 

 クレアは一瞬、頬がヒクッとなったが、握手を求めるその手を取った。


「――ええ、よろしくお願い致しますわ」

 と、言った瞬間、彼女は神聖術で握手している右手の力を限界まで引き上げた。


「――――っふぎゃぁぁあああぁあああああああああ」


 メキャメキャっという、何かが砕けそうな音と、悠の叫び声が屋上に響き続けていた。


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