プロローグ|救済適合者の条件
人は、自分の命の価値を正しく測ることができない。
高すぎると思う者もいれば、安すぎると扱う者もいる。
だからこそ、試す必要がある。
ここに集められた人間たちは、偶然ではない。
優秀だからでも、善人だからでもない。
ただ一つ、共通点があった。
――救えなかった誰かを、まだ心臓の奥に抱えている。
廃病院の地下。
窓のない部屋で、十人の男女が無言のまま椅子に座らされていた。
名は呼ばれない。番号も与えられない。
ここでは肩書きも経歴も意味を持たなかった。
循環器内科医、雨宮恒一もその一人だった。
壁の向こうから、声だけが響く。
「これから行うのは試験ではありません」
機械のようでも、感情のようでもない、不思議な声だった。
「選別です」
誰かが小さく息を呑んだ。
「あなた方の中から、奇跡を扱うに値する者を見つけます。
ただし、覚えておいてください」
一拍の沈黙。
「奇跡は祝福ではありません。
それは常に、誰かの命を奪う形でしか成立しない」
雨宮は、その言葉を聞いた瞬間に理解してしまった。
ここがどんな場所で、何が行われるのかを。
それでも立ち上がらなかった。
逃げる理由が、もう自分の中には残っていなかったからだ。
声が続く。
「最後の問いに辿り着ける者は、ごくわずかです」
「そして、その問いは、こうです」
――あなたは、自分の命を使って、他人を救うことができますか。
雨宮恒一は目を閉じた。
救えなかった心臓の鼓動を、はっきりと思い出しながら。
答えは、最初から決まっていた。




