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二日目

「はぁ、重かった。」

 ビビリすぎるあまり気絶してしまった叶斗を、小屋らしき所に運ぶ。近くにあったのですぐに見つかった。中を見渡してみれば、ベットや机などが置いてある。床のカーペットは所々破けていて、木の壁には大きな傷がいくつもあった。少し小さい上に汚れているが、隠れて過ごすには十分と言えるだろう。

 

 何となく、彼の眠り顔を見つめてみる。サラサラと靡く暗い茶髪。肌はきめ細やか、顔の一つ一つのパーツが完璧だ。幼馴染フィルターなしにしても、なかなかこんなイケメンはいないだろう。コイツ、顔だけはいいんだよな。顔だけは。

 

 頬をつねられた仕返しに、少し頬をつついてみた。すると、彼は嫌そうに顔を背ける。ちょっと面白いな、これ。つい楽しくなってしまって、何回も何回も繰り返していると、外からまたあの物音がした。

 

「なんだ、さっきの草むらにいた奴か...?」

 声もなるべく潜めて、窓からこっそり外を覗いてみた。

 

「...っ!」

 何だあれは!ボサボサの長い金髪に、ひび割れた顔。両目は探し物があるのか...いや、多分俺達を探しているんだろう。ギョロギョロと辺りを見渡している。不気味に上がった口角がなんとも気味が悪く、フリルが沢山ついた服は血で薄汚れている。多分、フランス人形か?そういえば、人形に触っちゃダメだって書いてあったよな。あれのことだろうか。

 

 辺りは一気に静かになり、フランス人形がブツブツと独り言をしているのがよく分かる。するといきなり立ち止まって、首を不自然な方向まで曲げ始める。そして、その視線にあるのは...

 

 (まずい、見つかった!)

 窓を素早く閉めて、部屋のドアを家具で塞ぐ。小屋はいきなり地震でも来たかのように、揺れ始める。さすがの叶斗も目を覚ましたようで、何が起きているのかと混乱している。

 

「叶斗、敵に見つかった。逃げる準備をしておけ!」

「はっ、敵?嘘...」

「ビビってる場合じゃない、もしも敵が入ってきたら、俺を囮にして早く逃げろ!」

「馬鹿、お前を置いて逃げられるか!」

 

 どんどん大きくなる揺れに、ドアを叩く音まで混ざり始める。囮にして逃げろだなんてカッコつけてみたけど、やっぱり怖くて体がうまく動かない。冷や汗が背中を伝う。もうここまでかと2回目の覚悟を決めた時...

 

「やっと見つけた!ルイ、叶斗!」

 

 一瞬静まったと思えば、強い風と共にドアが吹き飛ばされる。人形が、やけに嬉しそうに弾んだ声で名前を呼んできた。


 

「酷い、私を敵だなんて。貴方達の味方なのに」

 人形の名前はセレンと言うらしい。どうやら敵ではなく、俺達の味方のようだ。やけに優雅な佇まいをしていて、姿をのぞけば本物の貴族のように見える。たまにギギっと首を動かすのが怖いが。

 

「えっと、セレン。どうして僕達がここにいるのかは知っている?」

 叶斗は怯えながらも、少しホッとした様子で尋ねる。

「ええ、分かるけど、話が長くなるからまた今度ね。二人とも、元の世界に帰りたいでしょう?その手伝いをするために、私はずっと貴方達を探していたの」

「元の世界に戻るには?」

「100日が経つまでに、この森の化け物達から逃げて隠れて、謎を解明すればいい」

 セレンは話し終わると、少し重いため息をつく。

 

「聞きたいことは色々あるでしょう。少しの間だったけど、ひとまず今日は戻らなきゃ。また数日後ね。ああ、ここにあった紙は見た?あれさえ守れば、最初は大丈夫だから」

 彼女はヨタヨタした足取りでドアへ向かい、すぐに姿を消した。

 

「なぁ、本当にアイツを信じていいのか?どうして俺の名前を知ってたんだ?」

「さぁ。どうして僕達の味方をするのか分からないし、怪しいけど。今は何も分からない状況だ、ひとまずは信じてみるしかないだろう」

 叶斗が言うことだ、俺も信じてみるか。居心地の悪いベットでゴロゴロ寝転がっていると、彼は少し重い足取りで近くへやってくる。

 

「何だ?」

「ルイ、食料を探しに行こう。腹が減ったら何もできない」

 そっと手を差し伸べられる。なぜか昔のあの頃を思い出して、少し照れ恥ずかしくなった。

 

「子供じゃないんだし、一人で起き上がれるよ」

「朝はいつも、お母さんに起こしてもらってるんだろ?どの口が言うんだか」

「おい、誰から聞いたんだよそれ!」

「あはは、顔真っ赤になってるぞ!」

 

 俺を挑発する叶斗はどこか楽しげに見える。こんな状況なのに、懐かしさと幸せを感じてしまう自分に不信感を抱くのだった。

 

 

 

 湿った風が頬を掠る。金色に輝く現実離れした空は、少し時間が経って赤みが増したように見える。

 

「なぁ、このキノコって食える?」

「それは毒キノコだからダメ。それよりもこっち。あの林檎を取ってきてくれ」

 

 彼が指差した木の上には、いくつもの林檎があった。少し探索して分かったのは、食べ物は現実にあるものだと言うこと。

 

「おいしょっ、と」

 慣れた手つきで木に登る。いくつかしかない林檎を全てもぎって、下で待っている叶斗へと投げた。

 

「ルイ、全部取った?降りてこれる?」

「ああ、取った。今降りるよ」

 無事に地面へ着地すると、叶斗はスタスタとどこかへ歩いていく。

 

「もう戻るのか?」

「あの黒い霧が出始めた。早く小屋に戻ろう」

 辺りを見てみれば、よく目を凝らせば見える程度に霧が漂っている。夜が来る予兆なのだろうか。来たばかりの頃のように濃くはないが、確かに戻った方がいいだろう。少し遠くなった叶斗の背中を慌てて追いかけた。

 

 100日まで残り98日。

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