一日目
ああ、うるさい。
誰かが耳元で俺の名前を叫んでいる。授業中に居眠りしたのは悪いかもしれないけど、温厚なお爺ちゃん先生の古典の授業なんだぞ。眠くなるのは当然だろ?
「...ろ、...ルイ!」
「だーっ、うっせぇよ!そんなに大声出す必要ないだろ!」
「やっと起きた!よくのんびり寝ていられるな?」
ガバっと体を起き上がらせて最初に目についたのは、真っ黒な霧と紫の空。禍々しい雰囲気を放ったそれは、一目見るだけで心までも汚染されてしまいそうだ。どこからか炭と生ゴミが混ざったような臭いが鼻に纏わりついてくる。あれ、さっきまで教室で寝てたのに。何処だここ。森か?そして直ぐにそばにいるのは、眉を吊り上げて俺を睨む幼馴染。
「叶斗、お前がここに連れてきたのか?」
「違う。終わりのチャイムが鳴った瞬間、突然意識を失った。そして、目が覚めたらここにいた」
「なんか、ホラー漫画の導入部分みたいだな。というか待てよ、これは夢か。そんな馬鹿げたことありえない。はあ、早く起きな...いでっ!」
叶斗は俺の話を聞くなり、全力で頬をつねってきた。痛い痛い!コイツ、こんなに力強かったのか?!
「いひゃい!わはった、ゆめじゃなひってわはったから!」
彼は満足そうな表情で手を離す。クソ、絶対いつか仕返ししてやるからな。ヒリヒリと痛む俺の可哀想な頬をさすっていると、目の前に紙を差し出される。それは所々、不自然に文が塗りつぶされている。紙自体もかなり古いようだ。所々血が滲んでいて、非常に不気味だ。
「これは?」
「取り敢えず読んでみろ」
それを受け取り、早速読んでみた。
『この森で生き残るには 作‥⚫︎⚫︎
一・夜に絶対出歩くな。初日なら安全だが、二日目からは必ず身を隠せる場所を探して隠れること。物音もなるべく立てない方がいい。食料もなるべく置いた方が安心だろう。
二・決して人形に触るな。⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎に×××で祟られる。もし仲間が触ってしまったのなら、早めにその場から逃げるように。
三・夜に一人になるな。隠れても⚫︎に必ず見つかる。昼ならまだ取り返しがつく。夜が来るまで仲間と合流すればいいだけだ。もう仲間がいない場合は早めに自死すること。⚫︎に見つかるのだけは避けろ。
四・不自然に置かれた米には手を出すな。木の実などを見つけて食べた方がいい。お腹が空いていても、決して手をつけるな。
五・⚫︎⚫︎を⚫︎⚫︎るな。⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎けること。⚫︎⚫︎たら、⚫︎⚫︎時点で⚫︎⚫︎だ。
以上が私の知る限りのことだ。もう私は手遅れだが、後に来た人々に役に立つように、これを残しておく。奴らには敵わないが、絶対に』
文は途中で途切れており、何となくこの人の結末が目に見えてしまう。気を取り直すように顔をブンブンと振って、深呼吸をする。
「本当に夢じゃないなんて...。どーすんだよ、これから」
「さっき、近くで小屋を見つけた。その紙もそこで見つけた物だ。まずそこに行ってから色々考えよう」
ガサゴソ。突然草むらから音が鳴った。思わず軽く悲鳴を上げて、叶斗に抱きついてしまう。肝心の彼を見れば、顔色が深海より青ざめて、ブルブルと震えている。
どんどん近づいてくるその音に、脳内に走馬灯が流れる。そして...
突然音が止む。黒い霧は消え去り、空は金色へとキラキラ輝き始める。夜が明けたのだろうか。
「助かった...のか?」
そして叶斗を強く抱きしめていた事実に気づき、慌てて体を離した。恐怖に怯えていたとはいえ、こんな奴に抱きつくなんて最悪だ!
「あれ、叶斗?叶斗!」
彼は白目を剥いて気絶していた。ああ、忘れていた。コイツは昔から怖いのが大の苦手だった。