表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/66

第45話 打ちのめされた心

「ナナキさん!」


 アミーシャが声を上げてくれたことで、直感的にステラさんが姿を消したことに気がついた。後ろ──。


 ──いない。薙ぎ倒した木と雪ばかりが広がっている。


「外れです」


 耳元から声がした。独特な香ばしい香りがふわっと広がる。真横にある真っ赤な唇が次の言葉を告げた。


「終わりです」


 指先が背中をなぞる。雷が突き抜けていく。


「うわぁっ!!」


 痛みは我慢できる程度。手加減してくれているから、だけど。早く、考えなきゃ。何をする。


 視界が緋色に染まった。焔が空気を燃やしながら飛んでくる。ステラさんの香りが離れていった。


 今だ!


 まずは距離を取ること。アミーシャと合流して、あの作戦を。駆け出そうとしたそのとき。


「また、終わりです」


 眼前で濃い紫の雷が踊った。


 拳が胸に直撃する。放たれた雷は全身を回り、足が勝手に後退していく。雪を踏む音が聞こえた。


「さらに、終わりです」


 また後ろからの雷撃。前、横、前──。


「また」「また」「また」「また」


 一際強く、雪が踏まれた。


「終わりです」


 頭上からの声。雷を纏った黒拳が輝く太陽の光を背に猛スピードで降ってくる。風の魔法でもないのに、空気が渦巻き頬を切った。


 やられると、そう思った。思うことしかできなかった。見上げただけで何の反応もできずに、何の魔法も浮かばずに、対策もできずに、ただ攻撃が当たるのを雷に打たれるのを待つことしかできなかった。


「どんなに強い力でも、当たらなければ意味がないのです」


 ああ、ダメだ。言葉を受け入れてしまう。意味がない。私の頑張りは意味がなかったってこと? じゃあ、どうすればいいんだ。


 わかんないよ。


「飛電!」


 ステラさんの拳が当たる直前。魔法で移動したアミーシャが私の体を抱きかかえて逃してくれた。冷たい雪の上をゴロゴロと転がっていく。


「ナナキさん! 反撃ですわ! 私が攻撃に向かうので、ナナキさんはその場でタイミングを見計らって光球を! 大丈夫です。いくら早くても止まった瞬間に当てることができれば──ナナキさん!?」


 ごめん、アミーシャ。私は立ち上がることができないや。


「痺れが残っているんですか!? なら、少し休憩して! その間はなんとか堪えてみせますので!」


 違う、違うんだよ。アミーシャ。痺れてるわけじゃなくて、私はもう。


「それは無駄な足掻きというもの。今、その子は立ち上がれないのではない。立ち上がることを諦めてしまったのです」


 頬を伝ってポタポタと落ちてゆく涙が雪を溶かしていく。とても冷たい涙だった。





「レッシュベル! 大丈夫か!?」


 駆け込んできた声は、マハーチェ教授だった。


「聞いたぞ! なんてムチャを! 国王の秘書官とまともに戦えるはずがない! 昨日も話した通り──」


 心配してくれているのはわかる。だけど、何を言っているのかはわからなかった。わかりたくなかった。


「レッシュベル!」


「無駄ですよ。今、彼女に何を言っても」


「なんだって、どういう意味だ!」


「そのままの意味です。立ち上がることをやめた者に何を言っても言葉は届かない。経験はおありでしょう? 圧倒的な力の差に打ちのめされた魔法使いがどうなるのか。そう、楽な仕事に逃げるか、魔法使いであることを辞めるのです」


「何を言っている! 一生徒に言う言葉じゃない!!」


 やめて。


「それは貴方の立場の話でしょう。私は、秘書官として、戦力になるかならないかを見極めていただけです」


「こんな追い込むようなひどいやり方があるか! まだ入学したばかりなんだぞ!」


「ですから。私は教師の立場ではありません。それに、先の試験も同じように生徒を追い込むようなやり方だったと理解していますが。実力のない者を戦場に送れば犬死するだけ。そうでしょう?」


「だからといって──」


 やめて。もう、やめて。怒りが込められたやり取りが耳を突き刺す。


 先生。それ以上は言わないで。ステラさんは何も悪くない。悪いのは、ついていけなかった私。力が足りなかった私。弱い私。


「ごめん、なさい……強くなれなくて」


 静かになった。会話が止まって重苦しい沈黙が医務室を覆う。破ったのは、ずっと何も言わずに付き添ってくれていたアミーシャの声だ。


「ナナキさんは、弱くなんてありません! 私が認めた力を持っています! 少し休めばまた、戦えるようになるはず。……そう、ですわよね」


 「うん、そうだよ!」と言いたい。だけど、口を開けばきっとまた泣いてしまう。アミーシャの思いに、なんで応えられないのか。


 わからない。どうしたらいいのかわからない。時間がないのはわかってるし、動き出さなきゃいけないのもわかっている。


 でも、こんな私が行って何になるの? 弱い私は邪魔になるだけ。アミーシャは強いのに、私は弱い。弱いままの私じゃ、ダメなんだ。


「明日で3日目です。それでは」


 ステラさんはそれだけ言うと、ドアを開けて部屋を出ていった。入れ違いに入ってきた誰かの靴音が聞こえる。


「あなたは! どうしてここに!?」


 カルルカ? カニャさん? タイゼン? どれも違う。


「話を聞きました。イーストへ向かうとのこと。生徒会長として、その意志を確認しにきたのですが……そういう状況ではなさそうですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ