第33話 魔法学院の同期生
「なんだよ! 久しぶりに会ったんだからいいじゃねえか!」
「残念ながら私の方は久しぶりに会った気がしません。毎日のように貴方の名前を書類で見てますからね。毎日思っています。あーまだ生きてるか、と」
「あぁ!?」
……まただ。また口喧嘩が始まった。この人は、誰かと衝突しないと気が済まないのだろうかと思ってしまう。アレクサさんは我関せずという顔でクッキーを食べながらコーヒーを飲んでるし。
「……ナナキ、ちょっと」
肩をトントンと叩かれた。ペトラさんが耳元で囁く。
「あの人たちギルドの有名人でしょ? なんだか、ナナキ目当てで来たみたいなんだけど」
「え゛!」
変な声が出ちゃった。
「休憩中だからって待っててもらってたんだけど、他のお客さんから噂が広がって人がどんどん集まってきてさ。ごめん」
「いえ、全然大丈夫なんですが……」
なんで私? ギルドの勧誘はきっちり断ったつもりだったけど。
「……これは、どういう状況なのですか?」
そこへやってきたのはアミーシャだ。さすがのアミーシャも戸惑っているのか、接客用の笑顔が作れないでいた。
「あーナナキちゃんにアミーシャちゃん。どうぞそこに座って〜テレザちゃんが話があるみたいだから〜というか、ステラちゃんもテレザちゃんもこんなみんなに見られているところで仲の良さを見せつけなくてもいいんじゃない?」
「おいおいちげーよカニャ! あいつがひどいこと言うからさ、聞いてただろ、今のセリフ!」
「そうです。仲がいいわけがありません。カニャ。あっちは一ギルドのギルド長、私はヴァーサ国第一秘書官ですよ。普段は会うことのない、いえ交わることすらないのですから。私は、ただ、たまたまシューレスタット魔法学院に訪れる機会があって、たまたま少し休暇をもらえて、たまたま魔女の宴がヴィダムフェスタをやっていることを知ったのでたまたま今来ただけです」
「ほう? 偶然にしてはできすぎてるじゃねえか!」
「ええ、そうでしょうね。どっかの誰かさんがこの時間にここへ来たのはどうやら必然のようですが」
「なんだ……と……」
ふ、ふふふふ……。気がついたみたいだね。カニャさんの目が光っていたことを。あー怖い、怖い!!
ふと横を見ると、あのアミーシャの顔も青ざめていた。
「あのね。2人とも。ここは、私の店なの。そのコーヒーも私が入れたもので、私が調達した豆なの。どう? 美味しいかしら?」
テレザさんはぶるぶる震える手でコーヒーを持つと、「ああ、うまい、うまいぞ〜カニャ」とぶつぶつ言いながらコーヒーを飲み干した。
「ありがとう〜じゃあ、おかわり持っていくね〜ほら、ナナキちゃんもアミーシャちゃんも座って」
「いやあのでも、仕事中──」
「ペトラちゃんが全部やってくれるから!」
お皿が割れる音がした。誰が割ってしまったのかはすぐにわかった。直感? いいや雰囲気だ。どす黒い雰囲気が私の後ろを漂っている。
「大丈夫? ペトラちゃん、お皿割っちゃうなんて珍しい」
「いえ。カニャさんはコーヒーのお代わりを。アミーシャとナナキには私が入れてあげようか? 苦みたっぷりのブラックコーヒーを」
ふ、振り向きたくない。いや、振り向けない。振り向いてはいけない。
「あら、いいわよペトラちゃん。2人の分も私が用意するから〜しばらく1人でお店回さなきゃいけないの大変でしょう? 負担かけたくないから、カニャさんが用意してあげる!」
「……カニャさん、その言葉。皮肉っているようにしか聞こえないですよ」
アミーシャの苦言は全然届かなかった。当の本人が言葉を投げっぱなしに鼻歌交じりでコーヒーをつくりに行ってしまったからだ。
「相変わらずマイペースなやつだな! カニャは」
テレザさんは豪快に笑い声を上げた。その振動に合わせて机と椅子が少し軋む。
「そういえば、テレザさ──すみません、ヴァレンタさんは、カニャさんと知り合いなんですか?」
「テレザでいいぜ。みんなそう呼んでいる。その方が呼びやすいだろ? ヴァレンタ、なんてなんか格式ばってる感じがするじゃねえか」
「というよりも、テレザの方がしっくりくるんじゃないでしょうか。荒くれ者な感じで」
確かに。テレザの方が呼びやすい。かしこまってるヴァレンタよりも胸に飛び込んでいけるテレザな感じ。だけど、「荒くれ者」というのは……全国のテレザさんに謝れ。
「ステラはこいつで昔からこう。カニャとステラと私は、同期なんだよ。ナナキたちと同じシューレスタット魔法学院のな」
「えっ? そうなんですか?」
ステラさんはカウンターに置かれたメニュー表を眺めながら、コーヒーカップを口に運んだ。
「……昔の話。今はそれぞれ違うところにいるんですけれどね」
「ま、一言でいえば腐れ縁というやつだな。ここで揃うなんてホント何年ぶりか。まあ、今はそんなことはどうでもいい。話があるって言ったろ? ナナキ。座りな。あと、ジブール家のアミーシャ嬢も」
「は、はい……」
ペトラさんの視線が背中に刺さるのを気にしつつも、こうなったらどうしようもないと椅子に腰掛ける。椅子を引いて姿勢を正すと、テレザさんは言った。
「単刀直入に言う。生きた魔導書。あれは、手放したほうがいい」




