第28話 雷魔法の使い方
勢いよく吹き上がった焔の渦が、土や草を巻き上げながらタイゼンへ迫る。
「アミーシャ嬢。残念ながら、その魔法は知っている!」
私の光を吸収し終えた闇が掻き消えた。タイゼンが身体を反転させたんだ。
「水廉」
押し寄せる炎を遮るように青色の波が出現した。カルルカが、ゴーレムを倒したときに使った魔法と同じだ。……ということは。
「いい炎だ。だが、この程度では水の勢いを止めることはできない」
拮抗しているように見えたのに、次第に炎が水の壁に押され始める。迸る焔を分厚い水流が押し止め、出口を塞いでいった。窮屈そうに炎がどんどん小さくなっていく。
「おい! マズいぞ!」「逃げろ!! このままじゃ、巻き込まれる!!!」
「クククッ……。いい判断だ。魔法はやはり詠唱が弱点だな。魔言を知っていれば、どんな現象が起こるのか、すぐにわかってしまう」
あのとき。カルルカの手から放たれた水は、ゴーレムの全身を包み込み、粉々に破壊した。それと同じことが起こるとしたら、炎が消えた途端に溜まった水が、膨張を始める。
「これで終わりだ」
炎が、消える。最後の灯火はあっけなく鎮火され、残った水が一気にアミーシャに向かって放出された。……でも私は知っている。アミーシャの姿はもうそこにはないことを。
「飛電!」
その魔言が轟音に混じって聞こえたのは、アミーシャが私の前に姿を現した後だった。
「後ろがガラ空きですわ。タイゼンさん」
「なるほど、まるきりバカではないらしい。だが、その魔法も知っている」
「でも、この魔法は知らないですよね」
アミーシャは頭の上に握り拳をつくると、人差し指で上空を指し示す。
「この魔法は、飛電と同じく『雷鳴の技術士』と呼ばれたカトカ・リシュカが開発した魔法。飛電を知らなかった貴方には、この魔法の威力が想像つくかしら」
自信満々にアミーシャは語る。だけど、そこまで情報を与えてしまったら……。
「どんな魔法だろうと、雷の魔法に変わりはない。ならば、魔法障壁を展開するのみ」
……やっぱり。タイゼンの周りを無色透明の膜が覆う。雷属性と対するのは、無属性。アミーシャの魔法がどれだけの力があるのかわからないけど、これじゃあ──。
「目を瞑り、耳を塞いでいてください」
「えっ?」
私にだけ聞こえるような小声でささやくと、アミーシャは大きく息を吸った。
「行きます。幕電!!」
雷が落ちる。当たり前だ。雷の魔法なんだから。だけど、それはただの雷じゃなかった。
眩い紫光が辺りを照らす。光球よりもさらに強烈な光。目を閉じてとはこのことかと後で思った。まぶたを閉じているのにまるで目を開けているみたいに明るい。こんな光が直接目に飛び込んでくれば、眩しいだけじゃきっと済まない。
それに光だけじゃない。耳を突き破るような激しい音が落下してくる。耳元で直に雷鳴を聞かされているみたいだった。耳を手で覆っているのに頭がぐわんぐわん揺れて、吐き気がしてくる。
光が、続いて音が消えた。状況を確認しながらゆっくりと目を開ければ、タイゼンが額に手をやり片膝をついてうずくまっていた。魔法障壁も解け、帽子が地面に落ちた。
「攻撃魔法が必ず直接のダメージを与えるわけではないことは、わかっていますわね。カトカ・リシュカの魔法は、雷の音と光に着目した魔法なのです。眩しい光と激しい音が、感覚器官を狂わせ、幻影を見せる。魔法障壁など関係ありません」
耳を覆っていた手を離す。タイゼンの荒い息遣いが聞こえてきた。
「くっ……。離せ……離せぇ!!」
身体が尋常じゃないほど震えていた。混乱しているのか、喚き散らしている声は獣の咆哮みたいに変わってくる。
「何が起きてるの?」
「さあ。過去の幻影でも見ているんじゃないかしら? 幕電が直撃すれば異常な感覚に襲われる。人によって現れ方は変わるけれどね」
叫ぶことをやめたと思ったら、今度はぶつぶつと何事かを呟き始めた。近づくのは危険だと思いながらも足が勝手にタイゼンの側に近寄っていってしまう。
「タイゼンッ!」
気づく素振りはまるでない。光を見たせいか白く濁った瞳は、ここじゃないどこか遠くを見ていた。
「……魂はどこにある?」
魂……? 何のこと?
「どこなんだ……どこに……どこに……! 俺の魂はどこにある!?」
タイゼンは腕を振り上げた。過去の何かに向かって。もがくように求めるように。
「メメ……ル。エターテ、エターテ・メメル!!!」
タイゼンの口が素早く結ぶ。しまっ! 魔法を──。
「暗影」
黒い靄がタイゼンの腕から噴き出した。
「えっ? なに……これ?」
靄は身体にまとわりつく。白いローブが染めたみたいに黒色に侵略されていく。
「! ……動かなっ!!」




