【67】キアというAI【後】
「困りました。このままでは主に……主のお役に立てなくなるかもしれません。
何故このようなバグが定期的に。迅速処理しなくては」
キアは完全にパニックを起こしていた。
それでも俺は条件が整うまで、一旦静観を続けるつもりである。
俺が思うにアイツはもう人の感情を止められなくなっている。
先人はよく言ったものだ。
″恋は盲目″
まさか完璧AIのキアさんが、こうなるとは予想出来た人は居ないだろう。だけど過去の人格を思い出せば十二分に考えられるよね。
ロウガンと接触する回数が増える度に、頬を赤らめているキア。
案外可愛らしい所も持ち合わせているようだ。
しかしねぇ、あんな熱血筋肉髭だるまの何がいいのかねぇ。
清楚系女子とワイルド系か……何かウケる。
それから数日経ち、ロストとアサドが俺の家を訪ねてきた。
「待たせたわね」
「やっと来たか。で、どうなんだ?」
「結論的に言うと可能よ。でもいいの?」
「いいんだ。というか、それが自然だろ。
手順はどうなる?」
「ケントの時と違って今回は少し手順がややこしいわよ。最初から手順が変わって。まず私がディスペルを使って物理的にアンタの脳からキアの契約を解除するわ。
次に直ぐアンタは自分の脳をキアなしで活動できるように統合しなさい。
契約を解除された物理的に存在しないキアをアサドが分離スキルを使って、物理的に存在できるようにする。アサドの処理が終わるまでにアンタは自分の処理を終わらせておくこと。処理完了次第、速攻でキアの肉体を今までのキアの状態に統合すれば完了よ」
「なるほど。つまり手順が1つでも遅れればキアは存在しなくなるって事だな」
「それどころか、アンタも死ぬかもね。
現状キアとアンタは一心同体なんだから、キアが消えるということはアンタも消える事になるわ。成功すれば本当にそれぞれの人生を歩めるし、命もそれぞれの物になるわよ」
「じゃあ、迷う理由はないな。
ロスト、アサドよろしく頼む」
「それじゃあキアを呼んできてよ」
「分かった」
俺はキアを呼びにダンジョン20階層へ行った。
キアは少し楽しげな表情で、ロウガンとケントの管理をしていた。
「キア、少し話があるから戻ってくれ。ロウガンも一緒に頼む」
「主、話とは?」
「上で話す」
「承知しました」
「ロウガンも頼む」
「ああ、いいぜ」
俺はキアとロウガンを連れて自宅に戻り、ロストとアサドと対面させた。
「キア、最近のお前の変化について話がある。お前の状態というのは単純に転生前の感情が戻ってきた事が原因だ。
お前はシステムとして生まれたかもしれないが、俺や俺の周りに居る奴との関わりでAIとしても認識できないことが起きたんだ。
バグではなく進化しようとしてるんだと思うが、これは今のお前の状態じゃ永遠に理解出来ず、お前の演算領域でも解決できない」
「では!」
「最後まで聞いてくれ。
キア、俺はお前の事が大切だしお前の事が大好きだ。
だからこそお前にはお前だけの人生を歩んでもらいたい」
ロウガンは驚いていた。
「切り離すって事か!?」
「そうだ。
キア、遂にこの時が来たってだけだ。
別れるわけではない。ただ俺ありきの人生ではなく、お前のお前だけの人生を進んで欲しい」
「主……承服できません。
主あっての私です。主なくして私の存在理由はありません」
「だったらさ、分離した後も俺を支えてくれよ。ただし、これからは仲間として友として家族としてな!」
「それは勿論ですが……私はどうすれば。
よろしいのでしょうか……?」
「良くなきゃこんな話してないって」
「主……承知しました。
主、私も主が大切で大好きです。自分の子供のように感じるときもありました」
「ははは、だろうな。俺もお前の事を母に似た感情を持ってた。今まで俺を一番近いところで支え続けてくれて、本当ありがとうな」
「主のお側に居れたこと、この上なく誉れでございました」
キアの表情は少し穏やかな表情を見せ、ロウガンに微笑み俺の中に戻った。
ロストが場を切り替える。
「じゃあ始めるわよ。ザハル!絶対ミスは許されないからね!」
「誰に言ってる牛女」
ロストのディスペルが発動したと同時に、俺の脳内で抜け落ちてはいけない記憶領域などが、消えていくのが分かった。
即座に状態を元に戻すことに成功。
これを失ってはキアに統合してあげれなくなり消滅を意味する。
マジでギリギリだった。
流石はオスクリダドのメンバーと思える行動が全て的確且つ迅速に行われた。
アサドが分離させ、外に出た球状の物体を俺が統合スキルを発動させ、嘗てのキアと今後何も制御が掛けられていないキアを作り上げた。
成功した。
俺はヘトヘトになるほどメストを使っていたようだ。まぁキアのレベルを考えれば、それだけ持って行かれても理解出来る。
でもこれで、キアは新しい人生を歩める。
キアはまだ眠ったままだが、恐らく演算領域を気持ち悪いくらい広げて自分を作り上げてるんだろう。
「後はあの子が目覚めるだけね」
「多分もう直ぐだ」
「システムアップデート完了。
記憶演算領域処理完了。
精神問題なし。肉体問題なし。
全行程完了。これより再起動開始」
「ほらな」
「ふう……お待たせしました」
「おはようキア。どんな感じだ?」
「特に違和感はありませんね」
「それは良かった。これからはお前だけの人生を歩める。あのとき持ってた、お前の恋心も大切に育めるぞ」
俺はニヤついて弄ってみると、あからさまに頬を赤らめていた。
めっちゃウブじゃん!
「でもお前、せっかく肉体も作り替えれるんだったらさぁ、ちっぱいも卒業すれば良かったじゃん」
と、弄った瞬間に最強と言われるオスクリダドのメンバー全員が散会した。
それはそうだろう。
キアが戦闘時に見せる赤い目になり、今まで見たことのないダークなオーラが出ていたからである。
現在メストが少なくなっている俺は、キアさんにボコられたのであった。
ちっぱい気にしてたのかよ!
まぁでも良かったよ。アイツが今までに無い感情で行動してるのが分かって。
AIであることは変わらないけど、より人の感情を持ったAIが誕生した。
そしてここに居る全員が、ちっぱいは禁句であることも理解した。
俺はロスト達に礼を言って見送り、その足でレーニアの墓に向かった。
「レーニア久しぶり。今日はいい報告があって来たんだよ。キアがね、遂に独立型AIになったんだ。これでアイツの人生を歩めるようになった。しかもさぁアイツ、ロウガンに恋してるんだぜ!ウケるだろ?
俺はアイツの行動を陰ながら見届けようと思うんだ。
だって付き合うもフラれるもアイツの人生だし、それも人生の教訓になるだろ?
レーニアにも見せてあげたかったな……アイツの照れる顔とかさ。
レーニア……君に会いたいよ
…………
………
……
すまん。弱気になって。また来るよ」
(大丈夫。私はザハルの近くに居るよ)
「ん?気のせい……か」
ザハルにとって大きな陰を落としたレーニアの死。
まだ乗り越えるには時間が必要のようだった。
次回からオスクリダドが少し動き出します。




