【55】ザハルの旅立ち
ザハルは子供達には何も言わず、密かに荷造りをしていた。魔物の仲間達は皆には既に伝えている。それだけに居なくなったら居なくなったで、旅立ってしまったのか。と思ってくれるだろうと思っている。だが最後に少しだけアイツらの顔だけでも見て行こうかな?とも考えていた。
荷造りと言っても殆どのものは置いていくつもりだ。この世界に写真とかもない。持っていくものは本当の私物のみで、殆どがタバコと甘い物である。次々にアイテムボックスへ放り投げていく中、昔レーニアが使っていた短剣が、ぽろりと出てきた。
「これアイツが子供の時に使ってたやつやん。
懐かしい、あん時は弱くて何回も死にかけたり逃げ回るヘタレお餅姫だったよな。
ふふ、懐かしい物が出てきた……これは持っていくか。というか、元々俺のだし!
大分片付いたな。さてキアさんや、ボチボチ行きますか」
「ペスカとマイムに会っていきますか?」
「だね。もし王に聞かれた時は会う方法を教えておいてもいいだろう」
「敢えて王になるための試練の間とか作っちゃっても良いんじゃないですか?」
「いいねーそれ。採用。面白そうじゃん」
「そうしたら次代の王候補の子孫達に会えますね」
「だな!まだ時間もあるし祠の場所とかは追々考えるか」
「ですね」
「最初にペスカの所へ行こう。遠目で見るだけでいい。思念を伝達すればアイツは分かってくれる」
俺とキアは挨拶がてらペスカと王の仕事風景を遠目で眺めていた。ペスカは俺の存在に気付いていたらしく、逆に思念を送ってきたのであった。
「主……行かれるのですね」
「うん。行く」
「主に出会えて、王と絆を繋ぐ事が出来ました。本当に感謝しております。たまにご連絡させて頂きますが、どうかお達者で……」
「ありがとな。フィリックスを頼むよ」
「御意……」
「さて次は院長先生だね」
「外からそっと見ていきますか?」
「気付かれると思うけど、そうしよう」
俺とキアはマイムが院長を務める王国病院へ足を運んだ。
病院の近くには立派なお家。
マイムの家族が暮らしているとか。
仕事ぶりをみようと思ったが、彼は生涯現役らしく、事務作業は妻に任せ、講師をしたり施術をしたりと大奮闘。
アイツは疲れすぎると変な癖があるから、それの注意だけして行くとしよう。
「マイム、疲れすぎるとぷるんぷるんに戻ることがあるから、人と接している時は注意しなさいよ」
「ん?ザハル!?あれ?居ない……
そっか……行っちゃうんだね」
「ああ、皆を頼むな」
「大丈夫だよ。ザハルも気を付けてね!ケガをしたら呼ぶんだよ!」
「ふっ……ありがとな」
「クラーヌにはよろしかったので?」
「まぁアイツはお前の傭兵とも関わりあるからちょいちょい連絡取るだろ」
「そうですね。ガイコツマンとビッチは放置で行きましょう。何よりビッチは子育てで忙しいでしょうし」
「それもあるね。最後に寄りたい場所が2つあるんだが、いいかね?」
「ええ、勿論ですよ」
当然というか、どうしても最後に寄りたい場所というか寄らなければならない場所があった。
俗世と離れるにあたって決別しなければならない場所が、俺には2つある。
1つは城から少し離れた山頂にある国王だけが眠る場所。所謂、歴代国王の墓である。
別に歴代国王に興味はないが、俺の大切な人が眠っている。彼女に任務の完了と出奔することを伝えねばならない。
「久しぶりだねレーニア。と言っても結構頻繁に来てるか。前にも話したけどね、一応親の責務とレーニアから言われてた約束は果たしたつもりだよ。もう君も居ないし、子供達にも成長したから思い残すことはないかな。だからさ、俺も俺が本来やらなければならないことに専念しようかなぁって思ってね。でもたまには遠目で子供達の様子は見に来るよ。
レーニア……君と出会えて本当に良かった。
とても有意義な時間だったよ。
ありがとう……さようなら、レーニア」
「もうよろしいので?」
「うん。次はパピーとマミーの墓に行く。
それで最後だ」
シガレット領内にある墓地。
アルコ・シガレットとベリー・シガレットが眠る地。
「ここも丁寧に扱われてるな。エコーがしっかり管理してるんだろう。感謝しかないな。
父上、母上。私はこれより私だけに与えられた任務に全うしようと思います。
人として生まれながらも、人の能力を超越してしまった私にとって、最も最適な役目があるとここ数年で知ることが出来ました。
人の為に何が出来るか?ではなく、世界のために何をしなくてはいけないか。という考えで今後は動いていくつもりです。どうか親不孝な息子をお許しください」
(思うまま生きなさい)
(ザハルの人生はザハルだけのものよ)
「父上、母上……ありがとう。
あなたたちの息子で生まれたことを誇りに思います」
俺が墓を後にしようと振り向いた時、そこにはマイム、クラーヌ、ビッチ、ペスカとポム。
更にはフィリックス、ラスク、ライムとライディン。
そしてシガレット家当主のエコーが立っていた。
正に全員集合していたのである。
「何してんだよ、お前ら」
フィリックスが答える。
「何してんだ?ではありませんよ!黙って行くなんてあんまりですよ!」
「……」
「もう別に父上の行動に何も言いませんけど、ペスカから大枠は聞いてますんで。
ただ一言くらい言わせてください。全員を代表して言いますね!
貴方のお陰で今の私達があります。
貴方のお陰で平和な世の中が訪れました。
心より感謝申し上げます。
そして、お気を付けて。たまにはお顔を拝見させてくださいね」
「ああ」
そして俺は皆の前から立ち去って行った。
「主、もうよろしいので?」
「うん。さてさてキアさんや。待ち合わせ場所はまた80階層とか言わないよね?」
「最初はそう言ってきたんですけど、丁重に却下させて頂きました。待ち合わせ場所は100階層です。ロウガンの修行場でもありますし、偵察がてら」
「丁重に却下って……相変わらず竹を割ったような性格なこって……あ、ロウガンね。今レベルどのくらいになったの?」
「1年前に聞いた時で900って言ってましたから、そろそろかと」
「はや!早すぎじゃない!?上がるスピード!
って事は、やっぱりそういうことだったって訳か……」
「ええ。恐らくは」
俺とキアは城を後にし、ロウガンやロストの居る100階層へと向かった。
その前に少し寄り道をした俺とキアは、ジェンノ王国全体が見渡せる場所に居た。恐らくは今後仕事や手助けなどで二度と戻ることがないだろう。
本当にファンタジーの世界のような国の美しさに見惚れながら、俺とキアはその場を後にした。
俺は心より子孫や一族の安寧を願って戻らぬ旅立ちをしたのであった。
そこに後ろ髪引かれる気持ちは一切なかった。
「さて、キア。新しい物語の開始だ!」
「ええ、新社会人の気持ちです!」
「それはちょっと違うような気が……」
「同じです」
「あんまり新しい門出で言い争いたくないけどさ、それは絶対違うぜ」
「同じです」
「いや、だから……」
「同じです」
「あ、はい」
何かよくわからんグダグダな展開で、俺は新しい門出を迎えたのであった。
いいの?こんなんで!?
次回新章突入です!




