【52】最愛の人
俺は戦場へ向かう前に魔物の仲間たちを集めそれぞれに大切な任務を与えた。
「今からお前たちに話すことは、俺からの絶対的な命令だと心せよ。
マイム家族にクラーヌはラスクとラムネの護衛だけに専念しろ。
ペスカは新王のみに専念していい。他は切り捨てろ。
ナスビはエコーの事だけに専念。子供たちはポムとポムの子供たちに護衛させる」
「分かった」
「承知したぞ」
「承知しました」
「私達の子供達の護衛まで……ありがとうございます」
「ねぇザハル、レーニアは誰が守るの?」
「誰にも守れねー」
「え?ザハルだったら守れるんじゃないの?あんなに強いんだから!」
「勇者と魔王が戦いを始めると特殊な空間が発動するらしい。それは俺が1度レーニアに斬られた時に理解出来た事だ。
あの空間が発動したら互いを倒せる者しか中には入れない」
「そんな……」
「勿論ギリギリまで削りまくるつもりだが、それでもレーニアが死ぬ確率は80%だ。
だからお前たちも覚悟をしておけ」
「あんまりだよ……レーニア、いっぱい頑張ってきたのに」
「うむ。これはなかなかキツい現実だな」
「もういいから、任務を遂行せよ。俺も戦場に行く。ヒューマン軍が到着する前に行き数と大物を殺しとかなければならんのでな。
頼んだぞ……」
俺はそう言い残し、戦場の中心部へ移動した。
「キア、俺から出て2人で最初から全力で行くぞ!」
「承知致しました。システム解放!」
全力の悪足掻きの開始だ。
俺とキアは左右の戦場に別れた。
キア側にはダラル軍。
俺側には当然魔王が居る。
キア曰く魔王が死に新たな魔王が生まれるまでは殺してしまえば、ダラルも他の部隊長も復活が出来ないとか。
だったらレーニアが必ず魔王を殺せる所まで俺が弱体化をさせるしかない。
まともに戦ってもレーニアは瞬殺される。
勇者の加護があっても結局大きな差があるレベルには勝てないのだ。
俺もキアも当然最初から全力な為、周囲の雑魚は俺達のメストに当てられただけで消えていく。
一匹足りとも逃がすつもりはない。
ヒューマン軍の本軍が到着するまで、まだ時間はある。
俺もキアも復活を繰り返す魔物や兵士を繰り返し倒していく。
魔王の魔力削りをしている。
繰り返し倒していると徐々に復活する個体数が減ってきた。
極炎スキルを惜しみなく使う俺。
キアもまた、雷撃スキルを惜しみなく使い眼前の敵を黒焦げや炭に変えていく。
俺達はこの程度で疲労なんてしない。
暫く動けなくなってもいい。
守るんだ!今度こそ!レーニアだけは俺が守るんだ!
キアの眼前にダラルが登場し、片手間でキアはダラルをボコっては殺しを繰り返しているようだ。
ナイス戦い方だ。
俺の前にも遂に真っ黒なメストを放ちながら魔王が降臨した。
コイツは何をどうしても絶対に俺の攻撃では死んでくれない。
ならば、やるべき事は1つだけ。
バラバラに解体しては復活させる。
永遠と繰り返すことで確実に弱体化していく。
時間にして30分程、同じ工程を繰り返していると、遂に周りの魔物とダラルを召喚できなくなった。
俺とキアは1つに戻り一体化した体でさらに魔王へ追い込みをかけていった。
魔王はもうフラフラの状態だ。
だが足りない。これでもキアの計算では変わらず80%死ぬ計算であった。
再生が追いつかない所まで攻撃をし続けないと、レーニアが死んじまう。
鬼の攻撃を繰り返していると、思ったより早くヒューマン軍の本隊が到着してしまうのであった。
ヒューマン軍の将軍たちは現状の魔王軍が完全に解体されている事に驚きを隠せない。
レーニアは冷静に剣を抜き一歩ずつザハルと魔王の元へ向かっていった。
「レーニア!まだ来るな!まだ早い!」
「ザハル……ありがとう。でも、そうはいかないの。下がりなさい……ザハル」
魔王は目をギラつかせ生気が戻る。
「貴様が勇者か」
「ええそうよ。魔王ブラバ、これで最後の戦いにしましょう」
「いいだろう」
「巨重結界発動!魔王ブラバ、これで周りの者に邪魔は入らないわ。
私とお前だけ。
ケリを付けるわよ」
「面白い!人間如きが余に敵うと思うなよ!」
先制は魔王。
あの弱りきった魔王の攻撃にレーニアが吹っ飛ぶ。
力の差は歴然である。
「弱い!弱すぎるぞ!勇者よ!」
「くっ……勇者暴走モード解除。
どうせ助からないんだったら、全ての生命力を使ってでも刺し違えてみせる!」
レーニア暴走モードに突入し、自分の命をスキルの餌にし覚悟の戦いを始めた。
俺とキアはこの時点でレーニアが死んでしまう事を理解した。
暴走モードに入ったレーニアはボロボロの魔王と互角の戦いを繰り広げる。
レーニアの聖剣が魔王を捕らえ、魔王ブラバの片腕が飛んでいく。
どうやら聖剣で斬られた傷は塞がらないようだ。
レーニアも顔を斬られ片目を失うと同時に魔王のコンボ攻撃が炸裂し、レーニアの腹を貫く。
苦悶の表情を浮かべ鼻と口から血を噴き出すレーニア。
その瞬間レーニアは俺の方を向いて、微かに微笑み「ありがとう」と確かに呟き、魔王の喉元に聖剣を突き刺し、そのまま袈裟斬りで魔王を解体した。
元々最弱体化までされていた魔王には修復するスキルが発動できず、魔王は即死に近い形で死亡する。
戦いの終焉と同時に結界も崩れていく中で、レーニアもまた倒れ込んだのであった。
俺は直ぐにレーニアを抱え込みスキルで回復を試みるも勇者スキルで阻まれ、回復ができない。
何を尽くしても、レーニアの傷が癒せない。
「ザハル……無理よ」
「まだだ!何か出来るはずだ!」
「忘れたの……?貴方は魔物の体を……取り込んでるのよ」
「…………」
「そう……魔物と勇者で反対の力……ザハルのスキルでは……私は治せないよ」
俺はこの時ほど無力さと後悔に苛まれた事は後にも先にもなかった。
超越者になる為に魔物の能力とフォームを取り込んだ。全ては大切なものを守る為と思ってた。
まさかそれが自分の首を絞める事になるとは思わなかった。
守る為に手に入れた力で最愛の人を守れない……
俺はもう涙を止めることが出来なかった。
「もう時間もあまりないから全て喋っちゃうね。
ザハル……泣かないで。
今まで本当に本当に幸せだったよ。
ザハルは今の今まで私達の為に、一生懸命動いてくれてたのを知ってるよ。
ザハルや子供達と会えなくなるのは辛いけど、ザハルには感謝しかないんだよ。
本当にありがとう。子どもの時、孤独だった私を救ってくれて本当にありがとう。
最期の瞬間にザハルが一緒居てくれる何て本当に幸せだよ。
一目惚れをしたあの時から最期まで貴方だけを愛せた事に感謝しています。
ザハル……最後のお願いを2つ聞いてもらっていい?」
「ああ……」
「1つはこの歪な世界を救ってあげて」
「分かった」
「2つ目は……これはザハルには酷かもしれないけど火葬の時、貴方の魔法で火葬して欲しいの」
「……分かった。他には?」
レーニアは微かに首を振り笑顔で答えた。
「ありがとう……大好きだよ……」
その瞬間レーニアの身体から力が抜け、彼女はゆっくりと目を閉じた。
二度と目を覚ますことのない永遠の眠りに。
レーニア・ジェンノは死んだ。
俺の大切な人。
俺の最愛の人。
俺が今1番守りたかった人。
俺はレーニアの唇にそっとキスをし遺体を抱き抱え、ヒューマン軍の陣へ戻って行った。
生き残った人たちが整列し、レーニアの遺体へ敬礼をしていた。
どうでもいい。
泣き崩れる人、涙を堪える人、心痛な表情の人。
色んな表情が見て取れた。
だが、どうでもいい。
人間が弱すぎるから勇者が出現せざる得ない世界とも言えるだろう。
コイツらに強いステータスがあれば、俺に魔王が倒せるスキルがあれば、彼女が死ぬことはなかった。人間だけが弱く蹂躙される世界なんて呪いのようなもんだ。
それでもレーニアは、この世界を恨む訳でもなく救って欲しいと言った。
アイツの最期の願いだ。絶対に叶えてやりたい。
でも今1番やりたい事は他にある。
魔王領となっている土地ごと消し炭にしたい。
だがやらなければならない事が先にある。
勿論レーニアの国葬とレーニアの望みである火葬だ。
最期にとんでもない願いを残して逝きやがった。
フィリックスは悲しむだろうが、アイツは王として役目を全うしてくれるだろう。
ラスクも大人だからな、何だかんだで王を支えて前に進んでくれるだろう。
ラムネは悲しむだろうな……
そんな事を考えていたら本陣付近に到着していた。
本陣の前では訃報を既に聞いていたフィリックス王が待っていた。
俺はその場で、かなり立派な即興の棺を作成しレーニアをそっと棺の中へ入れた。
俺は少し下がりフィリックス王へ委ねた。
「フィリックス……すまん。助けられなかった」
「いえ、父上が全力で魔王軍を蹴散らしている所を私は見てましたし、見てきました。
父上を恨む人など、絶対に居ません。母上もそう仰っていたでしょ……?」
フィリックスは泣きながら俺を労ってきた。
本当に立派な王だ。
「ディゼル将軍!泣き崩れるのは終わりだ。
母上の国葬もあるが、何より我々ヒューマン属は勇者レーニアの力によって魔王を討ち滅ぼしたのだ。城へ凱旋するぞ!」
「……はっ!」
メンタル豆腐爆弾のディゼル君も、今何をすべきか理解しているようだ。
それでいい。
何故なら国王が死んだわけではない。
あくまでも勇者が死亡しただけで、王は目の前に居る。
目の前の王から王命が下されたのであれば、それに従えばいい。
そう、それでいいのだ。
「皆!湿っぽくするのは葬儀の時まで取っておけ!
魔王討伐の報告を全ヒューマン属へ知らせねばならん!
早馬を走らせ魔王討伐の事実のみを伝えよ!
今だけは国民の笑顔を取り戻すことだけに専念せよ!さぁ、帰るぞ!」
「おぉぉぉーーー!!!」
「父上にお願いがあります」
「何だ?」
「母上のご遺体を父上のスキルで隠すこととか出来ませんか?」
「分かった。お前に従おう」
俺はレーニアの棺を収納ボックスへ入れた。
「感謝致します。もう1つ、母上から何か遺言とかありますか?」
「火葬の時は、俺のスキルで火葬して欲しいと言われている」
「承知しました。では火葬の時は、父上にお願い致します」
「分かった」
「それでは我々も戻りましょう」
「ペスカ、分かってんな?」
「御意。主!お手柔らかに……」
「フィリックス、お前は王であり軍の総大将だ。先に帰っててくれ。俺は1つ用事を済ませて直ぐに戻る」
「では1時間以内に必ず戻ってきて下さい」
「ああ。直接城内へ戻る」
「お願いします」
人の姿が見えなくなった事を確認して、フォームベヒーモスへ変化した。
レーニアの死んだ場所へ移動し、大量の血痕を全て吸収した。
何となくここに彼女の物を一片たりとも残したくなかったからである。
吸収と同時にスキルを獲得した。
スキル:レーニアの加護
何か特別なことができるスキルではなかったが、今はそれだけでもアイツが側に居てくれてるようで嬉しかった。
そして俺はやるべき事を始めた。
と言うよりも、もう怒りや悲しみや虚しさを我慢できずに爆発したと言ってもいいだろう。
国境から魔王領全てを火の海に変え地形も壊し、暴れまくっていた。
恐らく人間たちにも火炎の海は見えていたと思う。更に地形がぶっ壊れていく影響で多少の地震も発生しただろう。
そんなのどうでもいい。
とにかくこの場所を消し去りたい。
ただそれだけであった。
誰かが止めろって言ってる声が聞こえる。
知ったことか。
五月蝿い。キアが言ってんのか?
黙れ。もういいんだ。黙ってろ。
誰が制止する声が聞こえてきても止まらなかった俺の破壊行動が、強制的に止められた。
周りを見渡すと、そこには知らない顔が2人と知ってる顔のキア、ロウガン、それにロストの5人が俺の身体を全力で抑え込んでいた。
「主!お辞めください!」
「ザハル!やりすぎだ!」
「ザハル、これ以上暴れても何も意味をなさない。冷静になるのだ」
そして俺は30分近くの暴走状態から冷静さを取り戻すのであった。




