【51】止められぬ戦いと覚悟の即位
ダンジョン100階層での会話。
「あの時お前、殺されそうだったけどさぁ魔王は魔王を殺せるのか?勇者しか殺せないんじゃなかったっけ?」
「正確に言うと吸収される瞬間だったって事なんだけど、結果として吸収されてしまえば俺の自我は無くなるから死を意味するのと同じなんだよね」
「じゃーなに?お前はもう魔王じゃなくて一般ピーポーになったって事?」
「いやーそれがよく分からんくてな、レベルも落ちてないし何が何だか……」
「これは1つの仮説でしかない話だから何とも言えないけどさ、お前まだ成長するんじゃね?
キア、どう思う?」
「久しぶりに呼んでもらえて嬉しいです。
主は私に興味がなくなったと思ってました」
「いやいいから……ヤンデレ出さないでよ」
「そうですね。確かにロウガンの現状は未知ではありますが、主の仮説は大いにあり得る話と言えます。
宜しければ私の所で預かりましょうか?」
「それはいいな。ロウガンを隠すことも出来るし、丁度いい」
「迷惑ばかり掛けてすまない」
「気にするな。お前は先に俗世から離れてろ。
帰る方法があるのか、はたまた一方通行なのかは分からんが、今のお前では俗世の戦いには不利な存在でしかない。
それにせっかく出来た友人に死んで欲しくないしさ。
結果としてお前はこれでよかったんだと思うよ」
「そうかな……?そうかもな……」
「それとこれからは普通に喋るように。
余とかダセーぜ」
「使ってる俺も嫌だったわ!」
こうして元魔王ロウガンは不思議な存在として生きることになった。
ここから先の戦争の話はロウガンと全く関係のない話。
両軍合わせて億の死傷者を出した、歴史に名を刻む魔王軍とヒューマン軍との大戦争の話である。
生まれてはならない魔王が誕生し世界が一変した。
至るところで魔王軍との小競り合いが頻繁に起き始めた。
レーニアも勇者として魔王軍との戦争に度々出陣している。
毎度のように死傷者も出ている。
それでも大きな戦争は、俺とキアや魔物の仲間たちで何とか回避している状態であった。
真の魔王が誕生し3年の月日も経ち、次男のラスクも成人を迎えた。長女ラムネのエニリカスはまだ迎えていないものの、あと2年でラムネもエニリカス迎える。
こんな小競り合いの戦争が3年も続いている。
誰もが理解している。
・長い戦争になる事。
・これが決戦になる事。
・相打ちか両者の何れかが死ぬ事を……
とあるジェンノ王国での出来事。
俺はレーニアに呼び出され夜風に当たりながら、久しぶりに2人だけで話をしていた。
「ザハル、何も言わないで聞いてくれる?」
「うん」
大体何を言い出すかは分かってる。覚悟も出来たつもりだ。そう言い聞かせながら俺はタバコに火をつけた。
「あのね。私ここに来て、貴方と出会えてすごく幸せになれたと思ってるんだ。感謝してるんだよ」
「うん」
「ザハルも魔王が分離するなんて予想外だったんじゃない?」
「だな」
「あの魔王はさ、止まらないよ。どっちかが死ぬまで終わらない」
「だろうな」
「今、私が暴走モードに入っても……負けちゃうよね?」
「うん。死ぬ」
「だよね……死にたくないなぁ。子供たちの成長する姿や孫たちも見てみたかったし、最期は貴方に看取られて穏やかに終わりたかったなぁ」
「だな」
「ねぇザハル……私死んじゃうのかな?」
「多分……な」
レーニアが見せた本音と涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て、胸が張り裂けそうだったのを記憶している。
思えばこれが最初で最後に見たレーニアの弱音だったように思う。
「レーニア、ギリギリまで俺が削ってやるから……何とか勝て。お前には死ねない理由があるが奴にはない。
希望も願いも守るべきものも何も無い。そんな薄っぺらい奴に負けんじゃねー」
「うん……1つだけ約束してくれない?」
「ん?」
「私が死んじゃったら、ラムネのエニリカスまでは側にいてあげてほしいの。
成人する前に両親が居なくなるのは可哀想だわ。だから……ね。お願い……」
「分かった。次の戦もフィリックスは出すのか?」
「あの子には、その義務があると思うわ」
「……そうだな。ペスカも居るし何も起きんだろう」
「そうだね」
「ああ」
そう言い残し俺はその場を後にした。
何となく、もうこういう会話が行われる事は二度と訪れないような気がしていた。
結局の所、ギリギリまで削った所で俺には魔王を殺せるスキルがない。
さらに魔王と勇者の戦闘が始まったら、誰であろうと介入できない空間が生じるようだ。
魔王スキルがどんなものかもわからない。
勇者と顔を合わせたら、違ったスキルが発動するかもしれない。
何もわからない。分からないからこそ、俺はずっと不安だったんだ。
死なせたくなくても死んでいく人たち。
助けたくても届かない手。
何をどう動いても、まるで決まっているかのようにクソエンドを迎える。
もし何も出来ずにレーニアだけ死んじまったら……俺はこの世界を許さない。
ぶっ壊してやる。
失いたくない……いつの間にか俺にとって大切な存在になっていたレーニア。
彼女が居たから夢にも思わなかった自分の家族まで持てた。
フィリックスが愛おしい。
ラスクが愛おしい。
ラムネが愛おしい。
そして何よりレーニアを心より愛している。
「こんなはずじゃなかったんだけどな。
なぁキア……俺が全力で動いたとしても、世界の修復力によりレーニアが死ぬ確率は?」
「……」
「言ってくれ」
「主が動かなければ確率は100%です。
そして主が動かれた場合の確率は80%です」
「たった20%かよ。俺が勇者だったらどんなによかったか」
「残念ながら、それを言っても詮無き事です」
「どうやったら50%くらいになるんだ?」
「申し訳ございません。何千万通り計算しても80%が限界でした」
「分かった……ならば俺は残りの20%に全てをかける」
突如斥候から緊急連絡が入る。
「伝令!国境中心地区へ魔王軍が出現!
ダラル及び魔王ブラバも確認されております!」
レーニアは伝令を聞きヒューマン連合軍とジェンノ王国全軍に勅命を下した。
「皆!憎き敵は眼前に迫った!これより全軍で奴らと対峙する!
ここで私の話を1つ聞いてほしい。私はたった今から勇者レーニアとして戦いに専念する!
よってここに、フィリックス皇太子へ王位を譲位する!」
ジェンノ王国軍は、どよめきを隠せない。
「母上!何をおっしゃいますか!母上はまだ存命でそのような事は承れません!」
「許せフィリックス。母は国王以前にこの世界の勇者なのだ。魔王が出てきた以上、母は国王としての役目より勇者として役目を果たさねばならん。
万が一に私が、死んでしまった時に国王不在では国が揺れる。
そなたが国を国民を兄弟たちの柱となり、皆の希望になってやれ」
「母上……」
「継承式をしてやれずごめんね……愛してるよフィリックス。皆をお願いね」
「母上!!!」
「止めろ!フィリックス!」
俺はフィリックスを咄嗟に止めた。
「父上……父上……」
「フィリックス、今は弱い姿を見せるな。
母を安心させてやれ」
フィリックスは泣きじゃくりたい気持ちを抑え、新王としての顔つきを作りレーニアへ微笑んだ。
レーニアもその顔を見て少し安堵した表情をし、覚悟の宣言を始めた。
俺からしたらレーニアもフィリックス本当に立派だよ。
「ここに!ヒューマン軍の総大将はフィリックス王に変わった事を宣言する!
皆、私に続けーーー!!!」
「おぉぉーーー!!!」
ヒューマン連合軍100万VS魔王軍10万。
世紀の戦いが今始まる。
どう考えても当初より予定していた、このストーリー路線に落ち着きました。




