第五十三話 リア充だったの、、、?
『オファーOK出ましたよ』
『ありがとうございます。では、明日の17時からでお願いします』
『了解です』
俺の憧れの人、その名は【夏風 瑠璃】。
握手会の時に、飲み会へ来るという情報を受けていたが、結局どこにいるのかがわからなかった人。
というか、俺がただ単に、トイレにこもっていていただけなのかもしれないけど。
とにかく、俺はその人と話がしたい。
俺の人生を変えてくれた人。
あの日、あの時、話したあの人と声が似ていた。
あの1日だけ、あの1日だけ話したあの人。
最後に言った言葉を今でも鮮明に覚えている。
しかし、もう会えないと知っていながらも、淡い期待を抱き『いつか、会える』という、謎の自信に満ちていた。
そんな時、配信を見ていた時、夏風さんの声が入ってきた。
あの日あった日と、ほぼ同じ声をしていた。
情熱のこもった声、一言一言に重みを感じる、あの声。
努力の証と言っていい、フォロワーの数。
そして、有名配信者と呼ばれるまで、上位に追い詰め、あと少しで100万人を達成しそうなあの人。
ーーー全てが感じとられる。
あの配信をみた時、目頭がじんわりと熱くなったのを覚えている。
そのぐらい、大切な人。
もしかしたら、その人かもしれない。
「ぼーっとして、どうしたんですか?」
生徒会室でそう言われた俺は、頭を振って自分の顔を思い切り、叩いた。
甲高い音が部屋中に響いた。
「びっくりした〜。急にどうしたんですか、会長」
「いや、なんでもない」
「なんでもない方が、心配なんですけど、、、」
そして、キーボードに手を添えて、再び作業に戻った。
★☆★☆★☆★
有名になればなるほど、孤独になっていくのが、肌で感じ取れるようになったのは、今から3年前のこと。
世間では【天才配信者】という名が広まり始めた頃のことだった。
ネットでも楽しく会話ができない。
自分がいると、周りに気を遣わせて、迷惑になっている。
そう思った。
過去の自分は必死に自分が一人じゃないということを、自分自身の中で言い聞かせ、一人を避けた。
しかし、現実、そんなこともすぐに終わってしまう。
仲良くなれる人なんて、誰もいなんだ。
諦めよりも先に、呆れが出てきた。
「瑠璃ちゃんとコラボするの?楽しみ〜」
「いや、美鶴ちゃんがコラボするわけじゃないでしょ」
「配信が楽しみって話。この前の配信仕事で、見れなかったから、、、。彼女だから、彼氏の配信ぐらい一回は見たいじゃん?てか、八剣健斗は私にとって、憧れでもあり、好きな人でもあるから」
「そ、そっか(?)」
俺に彼女がいる。
それだけで、十分おかしな話なのに、それに、今ではこの業界で関わってくれる人が多くいる。
そう、本当の自分を隠しているからだ。
誰もが、本当の俺を知ったら、離れていってしまう。
でも、そんなことにはさせない。
楽しく関わって、みんなで作り出すのが世界。
楽しく、気楽に、でも頑張って、みんなで支え合って盛り上げていこう。
無意識のうちに、そのようなことをTmitterで呟いていた。
「明日に向けての準備とか色々あるから、今日はちょっと忙しくなりそうだから、家のこと頼める?」
「もちろん。頑張ってね、和也」
「じゃ、よろしく、春人」
俺はそう言って家を出た。
行き先はもちろん、この前使ったドームよりも大きい、日本最大級のドーム。
もちろん、スタッフなどもそこにはいる。
1ヶ月後のドーム公演に向けて、俺もリハーサルなどをして、調整していかないと行けない。
当日のバンドメンバーの皆さんにも、挨拶をしなければならないから、色々とやるべきことが沢山ある。
それに、俺のスケジュールには、ほとんどの生徒会の仕事なので、できる時にやっておかないと、後々大変なことになってしまう。
新学期からスケジュールが詰まっている、生徒会の仕事は過酷を極めており、前会長を思わず尊敬してしまうほど、ハードなもの。
差し入れを持って、現場へ向かう。
俺が出演する現場のルールは『定時に帰る』『仲良くする』『協力する』の3つ。
まぁ、大人でも出来ない時はあるから、しょうがないこともあるんだけど、現場ぐらいは穏やかにいこうねっていう、俺の気持ちの表れでもあった。
正直、これを守れなかったら、その場で帰ってもらうことになる。
現場の空気が悪くなれば、効率も悪くなるし、何より、仕事をしていて楽しくないからね。
今回の公演に関わっているスタッフは約200人。
受付、物販、裏方、整列などを余裕を持って、考えると、そのぐらいの量になった。
そして、警備員の人は、6時間ごとに交代してもらい、ライブの2日間はずっと見張ってもらう。
そして、遠方からきた人が前泊するであろうホテルやネカフェの周りの交通規制を厳しくする。
空港周辺も交通規制をすると言っていた、そう、あの人が。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
今回初となる、俺が顔を出して、登場するイベント。
スタッフも俺の顔を知らない。
なので、顔合わせの意味も込めて、現場に入ることにした。
「こんにちは〜」
「本物だ、、、!」
「わお」
現場はざわつき始めた。
現在地は関係者しか立ち入れない、楽屋のような、プレハブの建物。
そこには、約5名ほどいた。
そして、、、。
「和也くん、やっほ〜」
「有闇さん!?なんでこんなところに!?」
「いやぁ、だって、彼氏がここにいるんだもん」
「え?彼氏?」
周りを見渡すと、マネージャーとその他、知らない人がいる。
「もしかして、、、」
「奈々餅さんだよ!」
「彼女いたんですね」
「健斗さんも、そうじゃないですか」
「いや、俺は彼女(仮)だから」
「美鶴さん、かわいそう、、、」
「俺の精神的なことも考えて、この判断にしているんですよ。真剣に付き合うと、俺の精神が持たない気がしますし、今の状態でも危ない時あるのに」
「健斗さん、昔っからそうですよね〜。顔いいのに」
ふと鏡を見る、すると自分が映し出されているのが見える。
別に、イケメンってわけでもないんだけどな、、、。
困り顔を浮かべた。
「まぁ、二人とも頑張ってくださいね」
「「了解です!」」
そして、ドーム公演に一歩近づいたのであった。
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