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30考察












『アンジェリカ・ドゥ・ドラローシュ。兄上に……第一王子殿下に毒を盛ったのは貴様だな ▼』

『あら、嫌ですわロレシオ様! わたくしはこの通り、とてもか弱い令嬢ですのよ。一体どうやって、第一王子殿下のお食事に毒を入れたと仰るの? ▼』


 どのルートを選んでも、誰の好感度を上げていようとも、物語の終盤でそれは必ず起きた。

 戴冠式を目前に控えた第一王子殿下が食事に毒を盛られて倒れた、と。

 この事件により第一王子殿下は、一命こそ取り止めたものの王位を継ぐことは不可能となってしまう。

 主人公と攻略対象は協力して、アンジェリカの悪事の証拠を集めるべく奔走する。特に謎解き要素もない固定イベントだ。

 貴族が毒を入手するとなるとだいたい足がつく。特にアンジェリカは世間知らずで、行動範囲は屋敷か学校周辺くらいしかない。

 毒の入手先、混入方法、その動機。いくつかの場所を巡ってそれらのパズルを埋めていく。いわゆる「作業パート」である。内容を読んでいなくても話が進んでいく上に、勝手に好感度も上がっていく。

 そもそも悪役令嬢の犯行動機とか、一周目に一回読めばもうじゅうぶんだ。SNSでも「作業入ったので片手決定連打で違うソシャゲのデイリー走ります」っていうひとは多かった。

 もちろん進行上で妨害キャラが現れたりなぜか魔物が立ちはだかったりするのだが、この固定イベントで、そんな妨害を受けて詰んでしまうことはまずないと言っていいだろう。プレイしていれば順当にレベルも上がるし物理レベルで殴れば大した障害にもならないからだ。

 なので逆ハーレムルートを達成するためにはここで、一番好感度が低い攻略対象を選んで一緒に行動するのがマスト。攻略対象はデフォルトでもそこそこ強いので、好感度の調整ができるのだ。

 しかしこの作業パートの真の主人公はプレイヤーではなくメインヒーローといっても過言ではないので、一緒に調査する相手に第三王子を選択すると、ほかの攻略対象と違い、主人公に向けた対応が2パターン用意されている。

 好感度が低いと、冷静だがすこし冷徹な殿下を。高いと、気が逸って口調も荒い、主人公に一切気を使う余裕のない殿下を見ることができる。

 話の内容も、主人公が殿下に心から寄り添い事件を解決するために尽力する、といった展開になっていた。



「なるほど、それで私の処刑に繋がるわけか」

「ナイスティアラ超ナイス。よく思い出した」

「まあ、まだどうやって毒を入手したとか盛ったとか、そもそもの動機とかって思い出せないんですけど……」


 おふたりはいったん魔石づくりも書類作業も中断して、わたしが思い出した内容を聞いてくれる。


「動機なんて、おれを王太子にしたいからじゃん?」

「第二王子殿下もいらっしゃるのを考えると、博打みたいなものだな」

「いや~本編のアンジェは絶対そこまで考えてないでしょ」


 しかし権力に固執しているのはアンジェリーナさま由来の、いわば遺伝子レベルの執念なので、動機はおそらくその通りなのだろう。


「まあ私は、ロックスを王に据えようと画策する必要がないから、第一王子殿下に毒を盛ることも今後ないわけだが……。ほんとうにそれが起きたとき、第一王子殿下の毒殺未遂の犯人を捕まえた方が王位に近づくことにはなるだろうから、第二王子殿下をスルーしてロックスが王太子になるのは、そこまで不自然ではないかな」

「アンジェならそもそも毒なんて盛らなくても国家転覆余裕そう」

「荒野の王になって砂の城に住みたいのならやっても構わないぞ」


 世界を滅ぼした方が手っ取り早いとか言い出してしまった。お姉さまならほんとうにできそうだからまったく笑えない。

 わたしとロックスさまがちょっと引いてるのを見て、お姉さまは「冗談だ」と笑う。冗談に聞こえないのよ。


「そもそも本編の私がそこまで王に固執することが理解できない。王妃になった場合の公務は今の比ではないだろう」

「それな」


 今すでに忙しくしているのに、こういうことに加えて茶会開いたり各地に視察に行ったりとか、とにかく想像の範疇だけでも大変そうなのに、疲れただの大変だだのと態度に出すことも許されない。さらに今お姉さまは侍女のエミリーさんをそばに置かないが、そういうこともできなくなるのだ。

 そう考えると、貧乏男爵家出身の主人公が王妃になるだなんて、現実的に考えたらとんでもない話である。


「夢がないなあ」


 乙女ゲームに限らず、この手の童話や絵本でも「王子様と結婚して幸せに暮らしました。終わり」の後が描かれないのも当然である。ブラック企業もびっくりの激務が待っているよ、なんてだれも知りたくないだろう。


「それはさておき。第一王子殿下が私以外のだれかに毒を盛られない、とも言い切れなくなったな。ゲームのストーリー通りに軌道修正される可能性がある」

「それなんですよね」

「作ること自体は簡単だが……、そうだ。ロックス」


 なにかを思いついたらしいお姉さまが、ロックスさまをまっすぐ見る。


「自分で作って第一王子殿下にプレゼントしてみないか」


 机に溶けたままだったロックスさまが、唐突にそう言われてがばりと身を起こした。


「え? おれにもできるの? それ」

「私がかつて研究していたのは、魔導式を用いて術者の属性と異なる魔法を発現させられるかどうかだ。そしてそれはすでに、魔法陣に落とし込むことで発現が可能だという結果を得ている。魔法陣さえ用意できれば、おまえたちでも魔力を通すだけで望んだ結果を得られるだろう。あとは、別物に変質した自分の魔力を魔石に付与できるかどうかだ」


 そういうお姉さまは、これ以上ないほど生き生きしている。

 きっと作業の息抜き、もとい、現実逃避だ。たぶん書類作業に飽きているのだろう。すごく乗り気になっている。


「アンジェ、面白がってる?」

「ふふ、そんなことはない」


 違うな、たぶんわたしたちで、というかロックスさまで実験してみたいだけだ。

 もともと研究者気質のお姉さまである、こういうことのほうが書類とにらめっこするより楽しいに決まっている。

 そしてお姉さまの頭の中ではすでに出来上がっている術式なのだろう、まっさらな羊皮紙を取り出してくると慣れた様子で魔法陣を描いていく。


「ロックスたちは魔力量が多いから、簡素な術式の魔法陣で済むから楽だな」


 簡素、とは言ったが、すらすらと描かれていく円の中に、この世界では見たことのない文字と思しき記号を大量に並べたりさらに円を描いたり直線を引いたり、見た目ぜんぜん簡素じゃない魔法陣が仕上がっていく。

 逆にいえば、この複雑さで「簡素」なのだから、もっと要素を足せばさらに複雑怪奇な図形になるということだ。

 そりゃ、お姉さまにしかわかるわけない。

 その上恐ろしいのが、コンパスや定規を使ったかのような図形のすべてがフリーハンドで描かれているということである。


「この魔法陣の中心に魔石を置いて、魔力を通す。術者の魔力の性質を変換し「状態異常無効」の効果を発現できる」


 完成した魔法陣は、なんか邪神でも召喚できそうな禍々しさがあった。


「物は試しだ。やってごらん」


 邪神召喚をやってみろって言ってる? と半ば本気で思っているわたしたちである。ロックスさまがおっかなびっくり魔法陣が描かれた羊皮紙を目の前に引き寄せて、言われたとおりに空の魔石を置いた。


「ねえ、邪神とまでは言わないけど、悪魔出てきたりしないよね」

「? 出てくるわけないだろう」


 魔法陣に手をかざして、少しずつ魔力を通していく。描かれた図形が、じわじわと光を帯びていった。

 禍々しい黒い光を。


「うわうわうわ、お姉さまこれ本気で邪神出てきませんか!?」

「だからおまえたちは、どうしてこう……。相手の能力を打ち消したり、そもそも効果を無効にするのは、魔の眷属が得意とすることだ」

「つつつまり!?」

「闇属性で構成してある。闇は扱いが難しいから気をつけろ」


 言ったそばから、ロックスさまは魔力を暴発させてしまっていた。






自問自答のコーナー!




どうやって空の魔石を持ってるの?


→ピンセットみたいな器具を使用してるよ!




どうして空の魔石をいちいち砕いて小さくしてるの? いっぱいおっきいほうがお得だよ!


→でかいと内包できる魔力が多すぎて気絶するだろうがいい加減にしろ




イメージとしては石と同じ大きさまで圧縮してる感じ。圧縮が足りなかったり、石に内包できる魔力量を越えると石が欠けて失敗するよ。


じゃあ大きめの魔石を使えば圧縮が足りなくてもうまくいくかといえばそうでもなく、魔石化できなくて魔力がただ霧散するよ。


アンジェはともかく殿下とティアラはもともとの魔力量が尋常じゃないから、小さい魔石くらいだったらいちにちで百個とか二百個とか作っても魔力は枯渇しないよ。ただそこまで集中力が保たないよ。平均は三十個くらい作ったらたぶん気絶してるよ。


もしその二人が魔物だった場合、死んだときに出てくる魔石はあのトカゲの比ではないよ。




アンジェのはなしは?


→まだしないよ



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