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29魔法付与



 ダンジョンでの騒動から半月ほど経った。

 まず冒険者ギルドのほうは、あれから報酬見直しや周辺の整備で、すでにかなり活気が戻ってきているらしい。

 それに伴い周辺の魔物の討伐も順調だそうで、外から冒険者以外のひとや物流も上昇傾向にあるのだとか。ギドから報告の手紙が来たとお姉さまが言っていた。

 クローニンに任せた方は、まだ半月では目立った成果はないが、改善傾向にあるらしい。報告できる段階ではないらしく、クローニンは大変不本意そうだった。すごい成果を出して褒められたいという欲求は未だ健在らしい。

 そしてドラローシュ邸の方だが、アンジェお姉さまが最低限の交流しかしていないわりに使用人たちからの好感はそこそこ高い。

 というのも、ギルドに行ってそのまま丸一日帰ってこなかったアンジェお姉さまを本気で心配したエミリーさんが、泣きながらガチ説教をしていたのを見て思うところがあったようだ。

 ロックスさま曰く、アンジェリーナさまだったら主がやることに異を唱える使用人にそれはそれはキツく当たっていただろうから、素直にエミリーさんの説教を聞いてちゃんと謝るアンジェお姉さまを見てカルチャーショックを受けたのではないか、だそうだ。

 そうでなくても、屋敷に着いた翌日にもう出掛けていって、そのまま帰ってこなかったのだ。わたしはともかく王子殿下まで、護衛もそこそこで連れて行ってしまったのだから無関心でいるほうがおかしい。そのまま嫌悪感を募らせるだけじゃなくてよかった。

 そして一番態度が変わったのが、ドラローシュ邸に仕えている騎士のみなさまだろう。


「アンジェリカお嬢様、おかえりなさいませ!!」

「うわうるさ……っ。みなさま本日もご苦労様」


 こんな感じ。

 かつて軍でやっていたことをそのまま騎士たちにやったら懐かれてしまったのだ。庭で火をおこして、てめえら肉を食らえ、ってやつ。

 ロックスさまも気になっていたドラゴンのしっぽ肉を、視察先で偶然入手したとてもいいお肉、と言ってみんなに振る舞ったのだ。ドラゴンだとわからないように皮を剥いで小分けして。

 ただ焼いて塩を振っただけのドラゴン肉は、お姉さまが言っていた通りなんかめちゃくちゃおいしかった。あんな、血は青くてどう見ても肉食獣なのにだ。魔物ってふしぎである。

 そのおかげで騎士のみなさんとも打ち解け、領主がだいたい不在で、形式だけの騎士だった彼らに警邏を任せられるようになったので、肉の力って偉大だ。

 因みにそれだけで食べきれるわけもなく、残りは厨房に投げた。

 つい最近まで調理されて食卓に出ていたし、賄いでも使ってもいいと許可を出していたからわりとすぐに売り切れたようだ。

 ただやっぱりというかなんというか、アンジェお姉さまもお肉大好きという誤解を与える結果にはなった。ただお母上とは違って、使用人たちにも施しを与えてくださる、みたいないい雰囲気にまとまっている。


「長い目でみるつもりだったけど、結構早く成果出そうでよかったねえ」


 天気のいい昼下がり、エミリーさんを早々に下がらせていつもの通りさんにんで部屋に引きこもっていた。

 お姉さまはクローニンやギドが派遣した人材からの報告書や予算の申請の書類を確認していて忙しいが、わたしたちはちょっと手持ち無沙汰である。そのため、お姉さまがくれた魔石を装備して、わたしたちは魔力操作の予習も兼ねて鉱石に魔法を付与する作業をしていた。

 お姉さまがくれた魔石というのは、「絶対防御」とかいう狂った効果を付与したもので、ドラゴンの攻撃をもことごとく防いだあの見えない障壁を展開するというものだ。

 石の色は深海を思わせる濃紺で、属性は闇らしい。

 魔法を圧縮する際にちょっと加減を間違えるとほんとうに文字通り爆発四散するので、そうなったときにわたしたちが怪我をしないようにと目の前で作ってくれた。

 やり方のレクチャーのつもりでもあったらしいですが、付与する内容がちょっと常人離れしています。

 とりあえず適正のある属性の魔力を、砕いた鉱石の破片に付与する。魔石にできた際に、きれいにカッティングしてもらう予定だ。


「ねえ~アンジェ。これってさあ、ほかの効果も付与できるんだよねえ」

「それはもちろん」

「じゃあたとえばだけどさ、状態異常? とか? そういうのもできるってことだよね」


 言いながら、ロックスさまは真っ赤な魔石をころころと転がしている。さすが攻略対象ハイスペック王子殿下、魔力の扱いもあっという間に覚えてしまった。


「状態異常というと、毒、麻痺、睡眠、混乱?」

「そうそれ。主に毒なんだけどさ。ほら~おれらって毒味必須じゃん? でも遅効性には意味ないし、毒味役が食う箇所が違ったりとかさ、とにかく絶対じゃないわけじゃん。だからその、う~ん」


 うにょうにょと手を動かしながら、なんとなく煮え切らない言い方である。


「ロックスさまがほしいわけじゃなくて、だれかにあげたいから作りたいとか?」


 一方わたしはロックスさまと違ってさっきから失敗ばかりで、魔力を暴発させまくったり石を割ったりしまくっていた。

 とくになにも考えずに相づちのつもりで言ったことばに、ロックスさまが凍り付く。


「あ、れっ」


 どばしっ!

 魔力が爆発して、アンジェお姉さまが作ってくれた魔石の効果を身を以て体感している。机も床もえらいことになるのだが、その都度お姉さまがちょちょいと魔法で直してくれていた。面目ない。


「図星ついちゃった……」

「……ティアラは早くいっこくらい成功させなよ……」


 がんばってるんですけどね! そううまく行かないのです。

 わたしが失敗しているそばで、ロックスさまが机に突っ伏した。絶対防御の魔石のおかげで爆発に巻き込まれることなんてないけれど、こんな爆心地みたいなところでそんな格好されるとなんか怖い。


「……兄上なんだけどさあ~」


 机にべったり溶けたまま、ロックスさまがぼやく。


「……将来おれが王太子になる未来があるって言ったじゃん。あれどうしても理解できなくてさ」


 わたしがまだそこに至るまでのストーリーを思い出せていないから、おふたりに話せる情報が抜けてる。そのせいでいろいろと、いろんな可能性を考えてしまっていたようだった。

 たとえば、自分が野心を抱いてしまうことが今後あるのではないか、とか。

 そもそもロックスさまが自分の評判を下げているのは、早い話王太子になりたくないからだ。

 王太子になりたくない、というか。


「兄上を陥れて王になりたくない。そんな未来、来なくていい」


 アンジェお姉さまが処刑されて、第三王子が王太子になることしかわからないのだ。

 でもロックスさまにとって第一王子殿下は、尊敬できるひとで、大切な兄弟である。ロックスさまが自分から、第一王子と対立して、最愛の兄を蹴落として。

 そこまでして王になりたいと、強く願うことなんてあるのだろうか。


「でもおれの心変わりとか? そういう要因じゃないかもしんないわけじゃん? おれが王太子になるっていうの。このまま順当にいけば兄上がちゃんと王太子になるんだよ」

「原因がロックスにないのなら、第一王子殿下の身になにか起こるかもしれないわけだ」

「そお~それ~~! それで一番あり得そうなのが毒を盛られる感じなのかなあって」


 第一王子殿下に、毒を。

 頭の端っこがちりりと痛む。


「そういう予防策として魔石が欲しいのなら、そんなにしどろもどろになる必要もないんじゃないのか」

「いや~そこはほれ、なんか、ほら。おれが、兄上大好き! みたいな感じになっちゃうような気がして、それはそれで恥ずかしいじゃん」

「……ロックスさまが、第一王子殿下のこと大好きなのは、公式なので」


 だから、毒を盛られて倒れられた、との一報を受け、好感度関係なく取り乱すのは。


「いいとおもいます、第一王子殿下に魔石のプレゼント」

「ティアラ? なんか変なとこでも打った?」

「第一王子殿下、将来絶対毒を盛られることになりますから」


 全ルート共通の、謂わばメインストーリーで必ず起こることなのだ。



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