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28底のない魔石の使い道


 ドラゴンの件はいったん横に置いといて、お姉さまは別のビジネスの話をするために椅子に腰掛けギドと向き合う。未だおねむのロックスさまは長椅子のすみっこで丸くなっていた。


「トカゲ騒動のどさくさで、これを持ち帰ってきた」

「これは……」


 ギドが不快感を露わにする。そう、見た目は美しいが魔法使いキラーである、ダンジョン内鉱物の魔石である。

 貴族向けの呪具にも用いられ、魔力量の少ない人間には触れることすらかなわない。故に無価値の石ころだ。


「ああ、触れるな」

「触れるかンなもん」


 ギドもおそらく魔力が多いタイプではない。触ったら速攻気絶してしまうだろう。


「まあ、おまえのほうがよく知っているだろう。魔力を吸収してしまう魔石だ」

「きれいだからって持って帰ってこないでほしいんすけどねえ……」

「残念だが、私は宝石類に大した興味はなくてな」


 私物にも宝石は最低限しか持っていない。ギルドに赴くにあたって大したおめかしもしていないお姉さまである。身にまとってもいなかった。


「だが、これでおまえの言う「魔石と魔力不足」を補えるかもしれない」


 ただ見目がきれいな石ころよりも、実用性のあるものは大好き。ドラゴンの話をしているときよりもお姉さまが楽しそうでなによりだ。


「一応聞きます」


 そしてギドのほうも、無価値な石ころが金より価値のあるものになるなら、話は違ってくる。いまさらこの鉱石が、呪具にしか使えないだの、魔力を吸う以外の性質がないだのと言う必要もない。


「おまえたちはこの石のデメリットしか知らないだろう。では、この石が吸った魔力はどうなると思う?」


 魔力を吸うことで、人体に及ぼす影響しか知られていないのだ。彼らの言う「能なし」にとっては触れるだけで意識がなくなる代物なのだから、ことさら危険視するだけ、いや、それしかできないというべきか。


「確かに知らないな。どうなるんです」

「霧散して大気に散ってしまう」

「は」


 やっぱりただの危険物であった。


「ようは、この石には吸収した魔力を留めておく力がない。底の抜けたコップのようなものだ」

「やっぱり危ないだけの代物じゃねえか」

「まあ聞け。この石に限らず、ほかの魔石も魔力を吸収する性質自体はあるんだ。おまえにくれてやったトカゲの魔石もな」


 言って、お姉さまは机の上に置きっぱなしにされた魔石のひとつを手にとる。子供の手には大きすぎる、真っ赤な石だ。


「そもそも魔物の体内から魔石が出てくるのは、その魔物が内包している魔力が、死んだ際一カ所に圧縮されるからだ。この魔石が赤いのはトカゲの魔力が炎属性だったから、複数個出てきたのはそれだけ内包していた魔力が多かったからだと言えるだろう」


 死んでから魔石が造られるので、実は生きている魔物の腹を裂いても魔石は出てこないのだそうだ。

 そして魔石を取り出そうとして腹を先に裂いてしまってから魔物が絶命した場合、魔石が生成されないことはないが質は落ちると思われる、とのこと。


「なんでそんなこと知ってるんだろうなあ」

「魔力の流れを見ていたからだが……」


 まあいいや。お姉さまは説明を放棄して、手の中にある魔石をギドに突き出した。


「一般に普及……はされていないが、水道に取り付けられている水属性の魔石や、暖炉や調理場で炎属性の魔石、街灯の光を灯すために炎だったり雷だったりが使われるな。それらは大気中の魔素を吸収し石のなかに溜めておくことができるほかに、他者が魔力を通したときに魔法として発現することができる。そういう魔導式が組み込まれている、とでもいうべきかな」


 つまり、水を出したいと思って魔石に触れると水が出る。炎を出したいと思って触れると炎が出る。

 そしてふつうの魔石には魔力を留めておく性質があるため、魔法の発現に必要な魔力は極少量で済む。だいたい魔石には魔力が溜まっているから、使用者の魔力量が少なくとも魔石に触れたときに倒れる心配はない。

 だれかが魔力を通したときに内包された石の魔力を消費して魔法が発現する仕組みがあり、ふたたび魔力を通して「止めよう」とすると、その魔石が内包している魔力を使い切らずとも中断できるのだとか。そして使われていない間に、大気中の魔素や通行人から漏れる魔力を吸って勝手に補充する。太陽光発電とか充電できる乾電池みたいなものだろうか。

 魔石が大きければ大きいほど、溜めておける魔力量も多いのは言わずもがなだ。


「このサイズの魔石になると、一週間かそれ以上、火を灯し続けられるだろう。一度に通す魔力によっては瞬間的に高火力の炎を放射して、攻撃手段にも使える。だが、この魔石で発現できる魔法は炎だけだ」


 ほかの魔石と連ねれば、電池と同じことはできるらしい。水の魔石の後ろに連ねて継続時間を延ばしたり、魔石のキャパ以上を越える大量の水を放水したりとか。

 だから、どんな属性の魔石も価値が高い。倒した魔物が強ければ相応に大きな魔石が手に入るし、大きな魔石になればなるほど売値も高くなる。

 それに冒険者が持ち歩いて攻撃に使うには、今アンジェお姉さまが持ってるくらいのサイズが必要になるから、冒険者が持ち運ぶ必要はない。このサイズとなるとほんとうにドラゴン級の魔物を倒さないと出てこないわけだし、そんなの倒せるほどの実力者になると魔石に頼る必要もないだろう。売ったほうが賢い。


「ただ、逆にいえば炎の魔法を発現できる魔石だから、この石は魔力を溜めることができるとも言える」


 魔石からライターくらいの火力の火が発生する。そのまま机に置いても火は灯ったままだった。

 ギドが手を伸ばして火を消す。たぶんこれが、魔力を通した際に魔石で起こせるアクションなのだろう。


「こっちの、ダンジョン鉱石の魔石にはそれがない。この石には属性がないために、吸収した魔素も魔法も通り抜けて散ってしまうんだ」


 けれど、魔石には許容量いっぱいまで魔力を吸収してしまう性質があるから、溜められないのに魔力を吸ってしまう。

 結果、呪具としてしか価値がない。

 お姉さまが指先から魔石を使わず火を出して、小さい火の玉をダンジョン鉱石に向けた。ぼしゅ、とかわいい音がしたと思ったら、火の玉が石に吸い込まれて消えてしまう。

 表面が焼けたり傷ついたりもしていない。お姉さまが言うのだからすぐさま霧散していったのだろう。


「ううん。いまのところ、やっぱりこの石に呪具以外の価値はなさそうに聞こえるんだがな」

「ん~、そう?」


 いつの間にやらロックスさまがちゃんと覚醒できたようだ。相変わらずブランケットを体に巻き付けて寝ころんだままではあるが。


「ようするに属性がないから魔法が通り抜けちゃうってことでしょ? ならその石に属性をつけることができれば、その石も魔石と同じ使い方ができるってことなんじゃない?」


 そうだとすれば、魔物から取り出すよりも安全に簡単に魔石を入手できるようになる、ということだ。

 いやいやさすがに。


「ええ……そんな簡単なお話なんですか?」

「そんな簡単なお話なんだよ」


 お姉さまはあっけらかんとした様子でおっしゃって、持ち帰った鉱石のなかでも小さい石を指でつまみ上げた。こんな小石でも、わたしたちが安易に触れば倒れてしまう危険なものなのだが。


「話は少し変わるが、ローガンが装備にネックレスをつけていただろう」

「あー、なんかパーティの装備に統一感があるのに、ひとりだけアクセサリーしてて違和感ありましたね」


 そういうアクセサリーみたいなの、ローガンよりも弓使いの男のほうが好きそうなのに。みたときにはリーダーだからかなあ、くらいにしか思わなかったけれども。


「あれはローガンが、また違うところのダンジョンで見つけたっつう装備品だ。防御力上昇の効果がある、かなりレアなアイテムだぞ」


 ファッションでつけてるわけではないようだ。そりゃそうか。

 お洒落とかに気を使うタイプには見えなかったものね。


「ようは土属性の魔法が付与されている「魔石」だ。あれのおかげでトカゲに叩き飛ばされて壁に激突してめり込むような目に遭っても、脳震盪で済んでいた。あれは運がいい男だな」


 確かに、あれは死んでいてもおかしくなかった。

 世界観が乙女とは付くが「ゲーム」だという大前提があるから麻痺しがちだが、あんな勢いで壁に叩きつけられたらふつう死ぬのだ。運良く死なずに済んでも、足とか腕とか背骨とか骨折したり、内蔵がひしゃげて破裂したり。だってあれ、車に轢ねられるよりも下手したらやばい。


「魔法の付与は地上の宝石ではできない。石に魔力を込める際に強度が足りずに壊れてしまうからだ。魔物から採取した魔石でも行うことはできない。魔石には、すでに魔力が込められているから。じゃあ、ダンジョンからとれる鉱石ではどうだろうか」


 手のひらで小石を弄びながら、お姉さまが楽しそうに言う。悪巧みとかそういう類の、なんだか悪い笑顔である。


「そういやアンジェ、なんかいろいろ試してみたいって言ってたねえ」


 ロックスさまに言われて気づく。ここまでこれ、アンジェお姉さまの推察でしかないのだ。


「属性を付与するだけって、それだけの話って言ってませんでしたっけ」

「言ったけれど、まだできるとは言ってない」

「ええー!?」

「だから今、試してみるんじゃないか。どのみち屋敷に戻ったらこういう実験は後回しになってしまうし、エミリーや屋敷の使用人たちの目に触れるのは避けたい」


 そう言いながら、アンジェお姉さまは小石を膝に落とした。


「魔法の付与自体は難しい話ではない。ただ魔力を操るのに少しコツが要るんだ。とりあえず……ただ強烈に光るだけの魔法でも付与してみよう」


 両手を軽く広げて、その中央に光の束が集まってくる。


「付与したい魔法を、石に収まる大きさまで、圧縮して、圧縮して……」


 光が小さくなっていく。拳大の大きさに、ビー玉くらいの大きさに……そして、米粒みたいな大きさになるまで小さくなった。


「この圧縮でミスると爆発四散して、下手をすると大けがする」

「うおおいやめてくれ!」


 虫眼鏡で光を一カ所に集めたみたいな光の粒を、お姉さまはゆっくり膝の上の小石に重ねていく。


「……ほら、思った通り」


 ダンジョン内では光を反射してさまざまな色に輝いていた石が、光の魔法を吸い込んで、ほのかに黄色く発光していた。


「え、せ、成功です……?」

「付与する目的で魔力を込めると、ダンジョンの鉱石は魔石にすることができるようだ。よかったな、ギド。魔石問題はこれで解決だ」


 魔法を付与した魔石を、ギドに手渡す。魔力を吸われて気絶するようなことはなかった。ギドは手の中にある小石をまじまじと眺めて……こめかみに血管が浮いていた。


「こん、こんな高等技術、誰にでも真似できると思うんじゃねえ!!!」


 怒鳴りつけた拍子に無意識だろうが魔力を込めてしまったらしく、強烈な閃光がわたしたちの目を焼いたのは言うまでもない。




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