23レッツダンジョン
「おー、ここがダンジョンですか」
きゃっきゃとはしゃぐお貴族さまを横目に、このクソみたいな緊急クエストに指名されたローガンパーティの男たちは、苛立ちを抑えるのに必死であった。
なにせダンジョンといえば、彼らの生死をかけて挑むいわば戦場であって、お貴族さまの道楽だかで来る観光スポットでは断じてない。
さらにむかつくことに、貴族の子供のお守りである。こんなことを任されて面白いわけがないだろう。
別に名誉でもなんでもない。貴族が、本気でダンジョンに挑む冒険者たちをまるで見世物のように扱っている。その事実に腹が立った。
「くそっ、なんだってこんなことに」
「まあ落ち着けよ」
パーティのリーダーであるローガンが、男の肩を叩き諫めてくる。自分たちをB級まで押し上げたのはひとえに彼の実力だ。
「すまねえ、でもやっぱり納得できねえんだよ」
「苛立つのはわかる。俺だってそうさ。でも少し中を見て回るだけで済むんだ、ちょっとの辛抱さ」
何事もなく済めば、である。
「どうだか。あの高飛車ぶり見ただろう。なんかイチャモンつけて俺たちを陥れるかもしれねえぜ。とんだ貧乏くじだ」
相手が子供だというのも懸念材料でしかない。
男たちにとって子供とは、まあ言うことなど聞かない動物みたいなものという認識である。彼らの周りの子供たちが、大人の言うことを素直に聞くところなんざ見たことがないし、なんなら彼らが子供の頃なんかもっと質の悪いクソガキだった自覚もある。
三人が好き勝手散り散りになって、勝手に怪我でもして、それで俺たちの所為にでもされるのだろう。そんな未来がありありと想像できるのだ。
「まあ、それでも俺たちはやるしかねえのさ。他でもねえギルマスの頼みだからな」
未だ愚図る男たちとは違い、ローガンはすでに腹を決めているようである。不安を抱えながら、それでもリーダーを信頼しついてきている男たちは、しかたねえと覚悟を決めた。
という彼らの陰口になってない陰口を聞いていたわたしたちです。
「聞こえてるんですよねえ」
「言わせておけばいい。弱い連中ほど大口を叩くものだしな」
「ん? そうです? ふつうに筋骨隆々で強そうですけどね」
B級冒険者ローガン率いるローガンパーティ。構成は剣士ローガンと、タンクの男性と、あと弓使いの男性の三人だ。
さんにんとも騎士のような鈍色の鎧を纏っており統一感がある。弓使いの男は動きやすさを重視しているのか装備は身軽で、逆にタンクの男はがっちり重装備、という感じだ。リーダーであるローガンだけ、首からオレンジ色の石がついたネックレスをつけていた。
「あのメンツで使えるのはローガンだけだし、彼も実力は中の上くらいだろう。いろいろ済んだらギルドのランクについて、少しギドに話を聞いてみてもいいかもしれないな」
どういう基準でなにを決めているのか。お姉さまのお眼鏡に叶わないのならば、B級っていうランクの価値がお姉さまの想像より低い可能性もあるわけだ。
「まあおれらにはどうでもいいことだけどね。ねえおっさんたちさあ、いつまでも突っ立ってないで中入ろうよ」
殿下、もといロックスさまがローガンパーティのひとたちに言う。すごい眼光でこちらを睨んできた。
「睨んだっていいけどさ。おれらに勝手に行動されると困るでしょ」
ただでさえ時間が差し迫っているのだ。ダンジョンに到着したときにはもう日も沈んでおり、出発するとき、ギドにあまり遅くならないようにと何度も念を押されたわけだ。ここでぐずぐずしていたら中をみる前に帰るようになってしまう。
「そう考えると、日を改めてからのほうがよかったんじゃないですかね」
「そうすると今度は私たちが来る余裕がなくなる。ギドもそこらへんはわかっているから今日どうしても強行してくれたわけだ。馬車も、帰りにギルドに一旦寄ったらそのまま屋敷まで送ってくれる手筈になっている」
その馬車は、ダンジョン横に併設されている馬小屋に預けている。これもギルドで設置した施設だそうだ。
「有能ですかよギド~、ちょっとあこがれちゃいますね」
そしてこういう施設を充実させてくれているのにも関わらず、ドラローシュ領の冒険者ギルドを過疎化させてきた先代ドラローシュ卿らである。
因みに御者さんはわたしたちが戻ってくるまで馬のお世話をして、あんまり待つようなら馬車の中で待機するのだそうだ。
で、馬のほうも魔物なので、あと三往復くらいを全力疾走できるくらいタフなのだとか。
その昔は定期便のような感じで馬車の往来が激しかったそうだが、いまはダンジョン巡りの過疎化により便も減ってしまったらしい。
「チッ、ご案内しますよ」
不機嫌を隠しもせず、弓使いの男が歩いてきた。おまえそこはローガンでいいだろ、と思ったのはわたしだけだろうか。
ローガンだったらここまで嫌そうにご接待しなかっただろうに。
まあ別にどうだっていいことである。わたしたちは男たちの後についてダンジョンに足を踏み入れた。
「……わあ」
外は暗いがダンジョンは謎の光源により昼間のように明るかった。だだっ広い空間に、ちらほらと冒険者の姿もある。
広めの体育館くらいの広さがあり、ごつごつとした岩の壁で洞窟のなかとか炭坑みたいな印象である。
見える位置に下層へ行くための階段が見えた。
「ここは比較的難易度も低くスポーンする魔物も強くない。十階層まであり、最深部に行くとこのダンジョンのボスの部屋がある。まあ、ボスの難易度の割に踏破報酬がしょぼいから、だいたい五階層くらいのところで素材集めだったり宝箱のなかみを回収して帰る感じの、ゆるく挑戦できるダンジョンだ。俺たちもたまに来る」
ローガンが補足で説明を入れながら、ずんずんと奥へ向かっていく。
「ここは駆け出しの冒険者向けの雑魚しか湧かない。B級くらいのパーティがいつまでもいると嫌われちまうから、さっさと次の階へ行かせてもらう。三階層まで行けば地上に戻れる魔導石があるから、観光はそこまでで勘弁していただきたい」
たしかに一階、めぼしいものなんにもないです。
「二階から宝箱あったりするの?」
「宝箱の出現はランダムだが、一階でも出たりする。まあ、このダンジョンの一階は一部屋しかないから、宝箱が見つかることはほぼないだろう」
若い冒険者たちの、なんだあいつら、みたいな目を素通りして、わたしたちは二階層へとおりていく。階段はなんか、凹凸がなく足をひっかけたりすることはなさそうだ。
「なんかコンクリみたいな階段ですね」
「なあにそれ」
「石を削ったというより、階段の型に均して整形したって感じ」
まあ、そんな不思議もダンジョンならではなんでしょう。ダンジョンが洞窟の見た目してるから違和感があるんですけれど。
降り立った二階層は煉瓦で区切られた迷路のようだった。
「おお~、様相がぜんぜん違うねえ」
「ここは見たとおり煉瓦の小部屋が複数ある。勝手な行動されるとすぐにはぐれて見失っちまう。湧いて出る魔物のランクも少し上がって、推奨ランクはD以上だ」
「へえ……」
はぐれて見失っちゃうってことは、好き勝手行動して困らせろっていう振りですかね。ロックスさまがそわっとし出してしまった。
「ロックスさま、手ぇつなぎましょっか」
「ええ~? いやだなあ、はぐれたりしないって」
そんな問答をしながら、わたしたちは和やかに部屋を進んでいく。途中迷っている冒険者に出くわしたり、角の生えたカンガルーみたいな魔物とエンカウントしたりしたが、特別おもしろいハプニングは起きなかった。
というか、ローガンパーティがさっき懸念していたみたいな自由行動を取ったりしないので、彼らにしてみれば拍子抜けもいいところなのではないだろうか。
因みにあっという間に倒された魔物は、素材をはぎ取って死体を端っこに寄せていた。しばらく放っておけばぐずぐずに崩れて消えるらしい。
「あっ、宝箱!」
つぎの小部屋に入ったところで、はじめて箱に出くわした。
「お、二階層で出てくるのはラッキーだな」
なんか見た目はなんにも珍しくない、木でできた宝箱である。タンクの男が近づいていって、盾を構えながら箱を蹴る。
「罠が仕掛けてあったり、極まれに宝箱に擬態した魔物もいるから、迂闊に手を出さねえでくれよ」
「はあい」
「なんだあ、つまんないの」
蓋が勢いよく開く。罠でも魔物でもなかったようだ。
「おいローガン、これ結構なレアモノだぜ」
中身を確認した男が、すこし興奮気味に言う。手に持っていたのは、布製のエコバッグみたいな、ぺらぺらの袋だった。
「お、マジックバッグか」
「それはなんですの?」
ずっと黙っていたお姉さまがはじめて興味を持った。男に近づいて手のなかにある鞄をまじまじと見る。
「中身が魔法で拡張されてる鞄だ。見た目以上にたくさん入れることができて、重さも変わらない」
タンクの男から袋を受け取ったローガンが、それをお姉さまに渡してくれる。お姉さまは中を覗いたり手を入れたりと、なにやらごそごそと物色していた。
ところが、弓使いの男が横から袋を取り上げてしまった。なにしてんだおまえ。
「おい、これは俺らの戦利品だろ。まさかこいつらに土産で持たせるなんて言わねえだろうな!」
「……別にそんな小汚い袋、いただいたとしてもいりませんわ」
取り上げられたらもう興味を失ったらしい。怒るでもなくお姉さまは手を払ってこっちに戻ってきた。ローガンが男の頭をひっぱたいている。
「アンジェ、あれ欲しかった?」
「いや、本当にいらない。あれに使われてる魔導式を見ていた」
そしてちょっと見ただけで確認できたらしく、本当にアレに未練はなさそうである。一方冒険者垂涎のレアアイテムを「小汚い袋」呼ばわりされた男たちは面白くなさそうである。
「もう興味ないわ。さっさと先に行きませんこと?」
喧嘩でもはじめそうな連中に冷たく言い放ち、お姉さまは部屋を出てしまう。慌ててわたしたちも後を追った。
「あれ、次の階段だね」
ところがこの階層は終わりなようだ。
なんとなく物足りなさを感じながら、わたしたちは三階層までおりていった。




