第8話:幼馴染みの話
わたしと王子様が付き合ってる、とかいうふざけた噂が――先生にネタにされることもなく――ようやく収まってきたと思ったら、いつの間にやら体育祭が前日まで迫っていた。
と、いう訳で今日は図書室もお休み――最悪だ。
「……帰ろうか、な」
あーあ、退屈。
王子様はクラスの仕事で忙しいみたいだし、先生は先生でどっかの仕事の監督に行ってるし。
わたしはすることが何にも無いから、ありがたく? 帰らせていただくことにしようか。
にしても……少し前だったら一人でも平気だったのになぁ。
この一ヶ月ほどで、王子様と先生とわたしの三人で過ごすことが多かったから、なんかちょっと寂しいかも……。
はぁっ、と小さく溜息をついて、スニーカーを履きながら上靴を靴箱の中に突っ込む。
――スニーカーの中にいくつか画鋲が入ってたのはご愛嬌。
体育祭の前日ってのは結構忙しい人が多いみたいで、この時間に帰宅する人は、ぱっと見た感じあんまりいないみたい。
普段の授業よりも早めに終わったから、まだちらほらと小学生なんかも見える……うわ、今の子めっちゃ可愛いし!
ぼんやりと小学生を眺めながら歩いてたら、突然肩に手を乗せられて、思わず飛び上がった。
「え、ちょ、そんなビビんなよ馬鹿梨亜!」
「…………誰?」
「だから無表情のまま冗談言うなって」
うん、ちょっとふざけて「誰?」とか聞いてみたけど、知らない訳じゃないんだよ。
柴村竜也。
王子様ほどではないけどわたしよりも少し背が高いこいつ、世間一般で言う幼馴染みってところかな?
まぁ普段はそんなに喋んないけど。
忘れ物した時に借りれるかな、とかそれぐらいの間柄――っていっても、大抵はわたしが貸すんだけどね。
あ、そういえば、今王子様と同じクラスなんだっけ?
「お前、今日は図書室行かねぇんだ?」
「今日はお休み」
「そ、そっか」
なんか喋ったの久しぶりかな……あ、そうでもないか、こいつ先週理科の問題集借りに来てたっけ。
……無くしたとか言ってたっけ?
ちゃんと買ったのかな?
「竜也」
「うぇっ!? お、あ、な、なんだ!?」
「……そんなビビんなよ馬鹿竜也」
「真似すんな!」
「うぇっ」ってなんだよ……。
おっと、竜也からかうの楽しすぎて忘れるとこだった。
「理科の問題集買った?」
「あぁ、あれこないだ見つかったんだ」
「……キミちょっとわたしのストレス発散の的になりなさい」
「え、ちょ、おい梨亜!? お前殴んじゃねぇ!」
うん、ちょっとイラっときたんだよ。
たまにはいいよね、たまにはさ。
ただでさえ明日体育祭だし、図書室にはいけないしで、ストレス溜まってるんだから、ね。