第6話:賑やかな放課後
「……『断る』って選択肢は無いもんな」
「え、そうなんですか?」
「だっ――や、なんでもない」
はぁっ、と溜息をついて目を閉じる王子様。
……わたしなんか変な事言った?
ぬくい。非常にぬくいです。
この天気、凄く眠くなってくる。
「……眠い、な」
「ですよねー」
なんかちょっと不思議な感じがするな……。
確かに今まで一人で過ごしてる時間の方が長かったけど、別に好きで一人でいた訳じゃない。
特に一緒にいたいと思える人がいなかったのと、周りの人が近づいてこなかったから、一人でいるほかなかったんだっけ。
けどこの一週間、一人でいる時間がだいぶ減った気がする。王子様のおかげかな。
うん……色々考えてたら本気で眠くなってきた、寝ようかな、とか思ってたら気持ち良さそうな寝息が聞こえ――ん、寝息!?
慌てて目を開けて左隣を見ると、意外とあどけない王子様の寝顔。
翡翠みたいな瞳が見えないのは残念だけど、可愛い顔が見られたからよしとしよう。
って、ちょ、わたし何考えてんの!?
同学年の男子相手に可愛いとか…………はぁ。
こりゃ結構疲れてるな。
「…………寝よう」
もう一回目を閉じる。
今日も平和だ。
いや、だった。
「梨亜ちゃんってリーズくんと付き合ってたの!?」
「は」
五時間目の予鈴に目を覚まして、ふらふらと教室まで戻ってきた私を待ち受けていたのは、なぜかたくさんの好奇の目だった。
……リーズくんって、王子様だよね?
一体なんでそんな話になったのか、誰か教えてくれないかな?
「なんか、二組の新聞部の奴が『いいネタ発見!』とか喜んでたから」
「そうですか成程話はよく分かりましたとりあえず聞いたことは全て忘れることですね誤報ですからえぇ誤報ですとも」
ふぅ。興奮しすぎて句読点忘れてましたね。
後でそいつ絞めに行こうか。
「はいみんな座って――あら、どうしたの?」
家庭科の先生が小首を傾げていた。
みんなが慌てて席に戻る。
とりあえず、この問題は放課後に持ち越しだな。
「――という訳で、新聞部の部室教えてください先生」
「あの……とりあえず落ち着きません?」
「落ち着いてますよ? わたし、いたって冷静です」
「目が据わっている……?」
「え、ちょ、リーズくんは何で国語辞典引いてるんですか!?」
うん、カオス。
いつも静かな図書室だけど、今日はちょっと賑やかだ。
まぁ、メンバーはわたしと王子様と先生の三人だけなんだけどね。
王子様は呆然とした感じの表情で国語辞典を引き出して、先生が頭を抱える。
なんかごめん、先生。
ちょっとお茶入れてきますね、と先生が図書室を出て――若干、涙目だった気がする――、王子様がパタンと辞書を閉じて、わたしはフゥッ、と溜息をついた。
「……あれ鬱陶しいんなら、新聞部脅してきますよ?」
「いや、俺はいいよ別に……べ、別に困るわけじゃないし、えっと、その」
面倒な事に巻き込んだのが申し訳ない気がして、お詫びも兼ねて提案したら、顔を真っ赤に染めた王子様に全力で目を逸らされた。
……王子様、なかなか奇妙な行動多いよね。