第5話:お昼寝スポット
うん、とりあえず春世は変わった奴だと判断させていただこうか。
いやまさか、日本人がみんなああだって訳じゃないよな?
で、噂の春世は今、相当お疲れのようだ。
「ああ嫌だ、九月いっぱいこんな生活しなきゃいけないなんて……」
「こんな生活って、大げさじゃ「ないです」……そうか」
二、三時間目が体育だったんだらしい。体育が、二時間連続。
けど……まだ二回目だろ!? お前どんだけ体育嫌いなんだ……?
食べ終わって空になった弁当箱をしまうと、「う~」とか変な声を上げながら倒れこんだ。
俺も残っていたパンを一口で飲み込んで、ペットボトルに入った緑茶を飲む――そこ、渋いとか言うな。
横目で春世の方を見やると、少し目を細めて空を見上げていた。
あれ……仰向けに寝転がってるのに見上げるって、表現違うのか? まぁいっか。
「あ、あの雲ソフトクリームに見えません?」
「ソフトクリーム?」
「ほら、あれあれ」
春世が指差した方を見てみる。……分からなくも無いな。
「アイス食べたーい……」
「……これ食う?」
飴を差し出せば、表情は変わらないけど、目を輝かせて起き上がる。
口に放り込んで「ん、ミント……」と呟いた。
「ミント嫌いか?」
「んーん、好き。ありがと」
小動物っぽくてちょっと可愛いかな、なんて思ったのは気のせいだ、絶対に。
相変わらず無表情なのに、実は感情の起伏が激しいっていうのに気づいたのは最近の話。
……まぁ、そもそも、こいつと知り合ったこと自体が最近の話だけど。一週間前だし。
とりあえず自分も飴を放り込んで、さっきの春世同様に背中から倒れこむ。
あ、いい感じに暖かくて眠くなるかも。
「ここ、昼寝できそうだな」
「ん、たまに授業中昼寝しに来ますよ」
「…………は」
俺の隣に寝転びつつ、爆弾発言投下しやがった春世の方をみると、至極普通に気持ち良さそうに目を閉じていた。
なんというか……凄く意外だな。
「それってサボリなんじゃ」
「そうともいいます」
「……そうとしかいわねぇんじゃ無いの?」
「ただの現実逃避とも言います」
「…………そうか」
「学活の時間とかだけですし」とか言いながら細目を開ける。
実は、学活とはなんなのかがいまいち把握できていないのだが、まぁいいだろう。
「あ、そういや、『舞姫』読めました?」
「さっぱりだ」
話の切り替えが早すぎる。
思わず即答しちまったけど……あれ、難しくねぇか?
なんて言われるかな、と思いながら春世を見ると、珍しくヘラリと笑っていた。
……笑われた?
「ごめん、なんか予想通りだったから……」
「予想通り?」
「ん、森鴎外ってちょっと難しいだろうと思って」
なんだ。分かってたなら最初に言えよ。
やっぱりもうちょっと読みやすいのから入ったほうがよかったんだな。
ここで金曜日にお薦めされた本を思い出した。
「で、『不思議の国のアリス』は大丈夫だってか?」
「ん……わたしが原作と読み比べたかったから」
「おい」
男子中学生が「不思議の国のアリス」は変じゃないか? と思いつつも、結局借りた。
そんで……まだ読み終わっていない。
「読み終わったら教えてくれます?」
「……『断る』って選択肢は無いもんな」