第30話:今更気付くとか、
「……い、た」
放課後。
いつものように図書室に向かったものの、春世はいなくって、代わりに先生が不機嫌そうな表情で腕組みをしていた。
何でも、例によって例の如く学活をさぼったのは仕方ない――仕方なくは無いと思うんだが――、ところがいつもならチャイムの鳴る頃に戻ってくるところが、戻ってこないのだという。
探しに行かないんですか、と尋ねてみれば、すれ違ったら困るし、ここなら確実に会えると思うので、と返ってくる。
何だかんだで、先生も相当適当な人だ。
なら俺が探してきます、と声をかけて、向かった先はいつもの屋上。
少し寒くなってきたから本当にいるのかは自信が無かったけれど、可能性としてはここが一番だろうし。
予想通りと言っていいのか何と言うか、屋上にいた春世は呑気に居眠り中だった。
いや、呑気にってのは語弊があるかもしれない。昼に会った時より顔色悪くなってる気がする。
「春世ー、風邪引くぞー」
「ん……」
いやいや、ん、じゃなくて起きようか。
軽く揺さぶってみても春世は一瞬身じろぎしただけで、起きる気配は無い。俺に一体どうしろって言うんだ。
まさかこのまま放置するわけにもいかないし、ひとまず自分のブレザーを脱いで被せておく。
「……春世って何組だっけ」
あぁ、四組か。少し重い扉を押し開けて階段を下りると、割と静かな屋上に比べると賑やかな廊下。
チャイムが鳴ってからだいぶ経っているから、部活に入っている人間はほとんど残っていなくて、それでも楽しそうな話声なんかは、どこからともなく聞こえてくる。
春世が起きる前に、とっとと鞄取ってこよう。勝手に鞄を取るのは失礼かもしれないけれど、状況が状況なんだから仕方あるまい、と言い訳しておく。別に鞄漁るつもりじゃないし。
とはいっても、俺は春世の席を知らない訳だ。
四組を覗き込むと、ドアの付近でお喋りに花を咲かせていた女子の集団が真っ先に反応してくれた。
「あれ、噂をすればリーズくんだ」
「春世さんならいないよー」
「あ、いやそれは知ってる……春世の席、どこか分かるか」
つーか何で春世の名前が出てく……読心術?
そんな馬鹿な。大体読心術ができるなら春世の席を教えてくれるだろう。
もうひとつ、その前に気になる発言があったのは聞かなかったことにしておくか……あぁ、俺は何も聞いてない。
「あれ、もしかして春世ちゃん見つかった?」
「……そんなとこ、だな」
「じゃあ伝えといてください、『次は絶対にさぼらせないからね!』って」
「お、おぅ……」
……凄い迫力だ。
とにかく席を教えてもらって、手早く荷物を纏めた。ごめん春世机いじる。
帰るの? と聞かれたから、あいつ体調あんまりよくないみたいだから送ってく、と告げて教室をでる。
運動場から一斉に返事をする声が、音楽室のある棟から楽器の音が聞こえ始めていた。
階段を一段飛ばしに駆けのぼる。
「はーるーせー、まだ寝てるのかー……?」
ギィ、と扉が軋むだけで、返事は無し。
ほんの少し眉を寄せた、穏やかな寝顔とは言い難い表情。
よくこんなところで爆睡できるよな、まったく。
春世の寝顔を見て思い出すのは、件のクラスメート。
それこそ彼が何をしたいのか、俺には全然分からない。そもそもなんで俺を目のカタキ? にするのかからサッパリだ。
何とか分かるのは春世関連らしい、ってことだけど。
「……お前の方が、春世と付き合い長いじゃねぇか」
前に聞いた、俺が来るまで「第一彼氏候補」だったという話。
話していた時には気付かなかったけど、確かに過去形だった。
つまり……そういうこと、なんだろうか。
俺が春世に好意を持ってるか、あるいはその逆だと思われている、って。
今更気付くとか、俺鈍いだろ。
それじゃあその誤解を解けばいい訳だ、俺たちはただの友達なんだから。
春世が柴村と話せてない、というのを彼女は気にしていた。聞いた訳ではないけど、何となくそんな感じがする。
だって、そうじゃなかったら。
「……りゅ、や、」
あんな辛そうな声で、寝言なんか呟かない。
……はい、お久しぶりです。
めっちゃ元気です、はい、更新遅くなってすいませんでした……
大学決まってから書こうとしたんですけど、間があきすぎたせいか、納得いく文章が書けないまま早一ヶ月。
ようやく書ききったものの、何となく雰囲気が変わってしまったような気がしなくもないような……。
予想以上に大学生活が忙しかったので、しばらくはのんびりペースが続きそうですが、ちょっとずつ元のペースに戻していきたいと思っています。
もしよろしければ、これからも生温かーい目で見守ってやってくださいね!
ではでは、読んでくださった皆様に精一杯の感謝を。