第24話:何というか、フリーダム
「で、これは一体どういう状況?」
「わたしもよく分からないんですけど……ヘルプミー」
「発音変だぞ」
相も変わらず無表情のまま、ふざけたような助けを求める春世。
思わず突っ込めば白い目で見られた。
「ネイティブと比べないでよ。どうせ日本人ですから」
「は、ははは……」
「ちょっとーぉ、二人ともアタシたちの存在忘れてない?」
乾いた笑みを漏らしていると、春世の両脇に控えていたそっくりさんのうちの片方が、不服そうな表情で口を挟む。
もう片方は、少し申し訳なさそうに、苦笑していた。
……そう、俺が聞きたかったのは、この状況についてだ。
「えぇっと……市井樹菜、だったよな」
「覚えててくれたんだ! 樹菜は感激でありますっ!」
「それさっきも言ってましたよね」
キャッキャと嬉しそうに笑う市井樹菜に向かって、冷静に突っ込みを入れる春世。
一体全体どんな会話を交わしていたんだ、こいつらは。
「で、そっちは……?」
「えっと、市井陽菜です。姉がお世話になっています」
「姉!?」
姉という単語に、思わず目を見開く。
えー、ということは、市井――樹菜のほうが姉で、大人しい方――市井陽菜が市井樹菜の妹で……あれ?
「……スターチス大丈夫? 目が死んでる」
「いや、全っ然大丈夫、ちょっと頭の中がこんがらがってるけど」
「それ大丈夫じゃないよね、というか日本語変だよ」
「ネイティブと比べんなって」
「あのー……ワタシたち、お邪魔ですか?」
何かさっきと同じような会話だよなぁ、と思いつつ、慌てて手を振った。
相変わらず困ったような表情の市井陽菜に、何故かにやにやと笑って俺たちを見る市井樹菜。
そういえば、この二人は、図書室までわざわざ何しに来たんだろう。
「いやぁ、春世さん見つけたからついてきただけ!」
「樹菜ったら放っておけないから……」
市井妹、なかなか大変そうだな……。
姉のほうはといえば、大喜びで春世にまとわりついている。
……おいおい、春世の奴めちゃくちゃ困ってる顔してるぞ!?
とはいってもやっぱり無表情に近いせいか、おそらく気づいていないであろう姉。
妹にしろ、黒沢さんにしろ、春世にしろ、市井姉は周りを振り回すのが大の得意みたいだ。
うん、なんというか、フリーダム。
「……ここ図書室だって知ってました?」
「知ってる! スターチスくんと春世さんが揃うのは、図書室か屋上だもん!」
「いや、そういう意味じゃなくて……つーか貴女何でそんなこと知ってるんですか」
「新聞部なめちゃ駄目だよ!」
「よし、新聞部潰してやる」
「うおぉぉ……ブラック春世様降臨だぁ!!」
「…………」
「樹菜……」
妹のほう、最早涙目なんだが俺はどうすればいいんだろう……。
ついに春世が姉を無視し始め、姉のターゲットが俺になりそうな、嫌な予感がし始めたその瞬間、図書室のドアがいきなり開く。
慌てて眼を向ければ、見知った顔が一人と、どこかで見たことのあるような誰かがそこにいた。
「おいチビ! お前また何やってんだよ!」
「陽菜……うん、御苦労さま?」
片方はうんざりしたように叫び、もう片方は妹と同じく、困ったような笑みを浮かべている。
……あ、春世また溜息ついてら。