第23話:ツインテールじゃなくて
「はい、それじゃあ回収してくださーい」
一気に緩む空気に、思わず溜息が出る。
漸くテストが終わった。
まぁ二日間だけだし、漸くっていうほどでもないけど。
さて。
今日は図書室へ寄ろうか。
ぽけっと自分の席に座り込んだまま、ぼんやりと頭を働かす。
窓際じゃなくてよかったな、今日はとんでもない晴天で、多分こんな日差しに晒されたらまたぶっ倒れるのがオチだ。
それでまた、竜也に怒られたり……あぁ、それは無いか。
体育祭の日から、何故かあいつは一言も声をかけてこない。
ついに呆れ果てたのか。
うるさくなくていいかと思ったんだけど、何か逆に気持ち悪いことにやっと気づいたり。
でも、もとから友達とかそんなんじゃないんだし、ただ単に家が近くて親が仲良いってだけで、そこまで構う義理なんかないはずだから。
……きっと竜也がわたしに構ってたのは、同情心かなんか、なんだと思う。
溜息をついていたら、いきなり肩に手を乗せられて、思わず飛び上がりそうになった。
え、なんかデジャウ。
「えへへ~、春世さん見っけー!」
「……市井、さん」
「覚えててくれたんだ! 樹菜は感激でありますっ!」
「誰ですかまったく」
振り返って目に入ったのは、まさにこの間スターチスと話題にしていた人物。
ただし今日はツインテールじゃなくて右サイドテールだけど。
いたずら成功っ! って感じの笑顔で何故か敬礼した市井さんに、思わず溜息が出る。
自分で「樹菜」とか、中一がやったらうざいと思うんだけど、何故か市井さんがやるとまったく違和感がない。
……人格ってやつなのかな、いや、違うかも。
「で、春世さんはどうしちゃった訳、ボーっとしちゃって……もしかして彼氏のこフグッ」
「ちょっと樹菜、何やってるの!」
「あ、陽菜ぁ!やっほー!」
「やっほーじゃないでしょ、もぉ……」
ポカンと口が開くのが分かる。
だって、おんなじ顔が二つ並んでる。
違うところっていえば右サイドテールと左サイドテール、ヘラリとした笑みと困ったように寄せられた眉。
「ごめんね春世ちゃん、うちの樹菜ったら、人の迷惑も考えずに……」
「え、あ、う、ん、あ、はい?」
「陽菜ぁ、アタシ別に春世さんに迷惑かけてないよ!?」
「どう見ても困ってたじゃない、樹菜ったら……」
えっとごめんなさい、今の状況のほうが困ってます。
確かに訳わかんないこと言いだす市井さんには困っていたけど。
というか、このそっくり左サイドさんは、どうしてわたしの名前を知ってるんだろうか。
しかも春世ちゃんって何事ですか。
「……どちら様で」
「へ?」
「え、陽菜と春世さん、同じクラスでしょ?」
同じクラスでしょ?
同じクラス…………嗚呼、そういうことか。
ごめんスターチス、本当に双子だとは思わなかった。
「すいません、全然気づいてなかった」
「嘘ぉぉぉぉ!? アタシたちが双子だって知ってると思ってたのに!」
「え、あ、そう……だったんだぁ……ワタシの名前知らなかったんだ……」
驚いたのか、丸い目を思い切り見開いて大騒ぎする右サイド。
笑顔は浮かべているもののすっかり気落ちしている左サイド。
……周りの人からの視線が痛い。