第22話:分かったこと
「という訳で、図書館オリエンテーション始めまーす」
「何だよいきなり、何でそんな棒読みなんだよ!」
もう駄目だ、訳わかんねぇ。
終礼が終わり、カバンを引っ掴むと真っ直ぐに図書室へ向かう。
それでも春世のほうが何故か早くて、既にカウンターの定位置に座っている彼女は、俺を見るなりいきなり口を開いたのだった。
……あくまで、淡々と。
「『という訳で』の使い方が違う気がするんだけど」
「気にしたら負け。話すときにいちいち文法気にする人なんかいないでしょ」
「いや、そうだけど、そういう問題じゃないって」
俺の言葉を綺麗に無視してくれた春世、スッとカウンターから出ると、図書室の入り口近くにある……なんか、デカイ板みたいなやつを指し示す。
……これなんだっけ?
「他の国は知らないけど」
少し戸惑っている俺に向かってそう告げ、続けて、自分も完璧に覚えてるわけじゃないからと前置きすると、大きく一回深呼吸した。
「日本の公立図書館とか学校の図書室では、日本十進分類法っていう分類法が使われてるの」
「に……日本、ジュッシンブンルイホウ?」
「日本十進分類法」
これには――ここで、春世は板みたいなのをコツコツと叩いて見せた――その分類が書いてあるんだけど、まぁ高々中学校のだし、そんなに詳しくは書いてないんだけどね。
前にも一回話したことあるけど、本の背表紙に、三桁の数字が書いてあるでしょ?
そこの数字はこれに従って書いてあるから、その数字を見たら、大体の内容が分かるって訳。
例えば……そうだな、これ。
いつになくよく喋る春世に茫然としていたら、ついこの間俺が返却した本を突き出された。
えっと、これをどうしろって?
「読んだばかりだから中身覚えてるでしょ、数字と照らし合わせてみて」
まったく意図が理解できないけれど、いつになく生き生きとしている春世の視線に押されて、小さく頷いて数字と日本語の羅列に目を向ける。
読んだのは小説だから、「文学」――九類だろう。
で、作家は確かドイツ人……じゃあドイツ文学か。
ということは……
「940?」
「正解」
これまた珍しくにっこりほほ笑むと、本の背表紙を指し示す。
なるほど、この数字ってそういう風に使うものだったのか。
「まぁこの図書室にはそんなにたくさん本が置いてある訳でもないし、本棚を片っ端から見ていけば見つかるんだけどさ」
「じゃあこれ意味無いんじゃ……」
「整理するときに、数字が同じ奴を集めればいいから楽でしょ?」
「あ、そっか」
公立の図書館とかだと冊数も増えるし、と言われてようやく納得。
春世に教えてもらわなかったら、こんなのに注意することなんて無かったのかもな。
にしてもこいつ、なんか色々知ってるよな……絶対頭いいんだろ、春世って。
「イギリスではどんな分類法が採用されてるんだっけ……デューイ十進分類法?」
「何だそれ」
「あ、けどデューイってアメリカ人か、違った?」
「知らないって」
そんな情報、一体どこで仕入れてくるんだろう。
やっぱり今日も、春世梨亜についての謎は深まっていくばかりだ。
けど一つだけ分かったことがある。
……こいつ、自分の得意分野のことになるとかなり饒舌だ。
日本十進分類法に関しては一応色々調べてみたので、間違っては無いと思いますが……何かおかしかったらこっそり連絡していただければ幸いです(笑)