第15話:お久しぶりです
真っ白なノートを睨みつける。
静かな図書室に、鉛筆で机をカツカツと叩く音が響いた。
今日は珍しく、カウンターにはいない。
体育祭から約一週間後の月曜日。
暫くの間学校を休んでいたわたしは、今日久しぶりに登校してきた。
そこで、早くも文化祭に向けての準備が着々と進んでいることにようやく気づいたのだ。
「短編、か……」
体育祭の前に頼まれていた原稿がまだ終わっていない。
というか、話すら考えるのを忘れていた。
さて、どうしようか。
一人悶々としているところに、不意に肩に手が置かれ、思わず飛び上がる。
あれ、なんかデジャヴ。
後ろを振り返ってみれば、綺麗な翡翠と目が合った。
「春世、もう大丈夫なのか?」
「あ、お久しぶりです。まぁ……なんとか。ご心配おかけしました」
そうそう、今日のお昼は久しぶりに一人だったんだよね。
もうそろそろ寒くなってきたしなぁ……けど、意外と日当たりもいいから、あんまり寒くないんだよね、屋上。
「あんまり無理するなよ? つーか何やってるんだ?」
「あ、ちょっと」
パタンとノートを閉じて、カウンターに移動する。
なんかもう、今日はちゃんと書けないような気がしたし、これぐらいなら家でも出来るし。
先生から頼まれていたことは、王子様知らないから、不思議そうな顔してた。
椅子を引っ張り出して腰掛ける。
そしたら、目の前にきちんとラッピングされた小さめの袋が差し出されて、思わず首を傾げた。
……なんか地味に可愛いんですけど。
「えっと、これ」
「いや、今日も学校来なかったら先生にでも持っていってもらおうかと」
意外と人使い荒いなおい!
えーっと、中に入ってるのは……
「クッキー?」
「あぁ、作ってみたんだけど……」
「え、マジっすか」
まさかだ、まさかすぎる。
王子様がエプロンつけてクッキー作りに勤しむ姿を想像して――盛大に吹き出した。
え、ちょっと、なんか可愛らしいぞ……って、何考えてんだわたし。
ふと王子様の顔を見上げたら、滅茶苦茶唖然としてて、逆にこっちが吃驚。
「は、春世がそこまで笑うとこ、初めて見た……」
あ、そっちか。
さっと扉の方を見て、他の人が来る気配が無いのを確認してから、袋を開けて、ひとつだけ口に放り込む。
……一応ここ、飲食禁止なんだけど、まぁばれなきゃいいか。
「これ、ジンジャクッキー?」
小さく頷いた王子様、ちょっとだけ頬が赤く染まってる。
熱でもあるのかな?
失礼ながら、とっても美味しいとは言いがたい――というより、ちょっと微妙な出来だったけど、頑張って作ったんだろうなって思ったら、凄く美味しく感じた。