第13話:夢か現か
目を開けたら、青い空が広がっていた。
「……あ、れ?」
わたし、どうしたんだっけ。
50メートル走は終わって、王子様のリレーも見て、800メートル走ることになって。
……そうだ、また倒れたんだっけ。
うわぁ、また竜也が怒る。
「で、なんでこんなとこにいるの?」
二学期に入ってから、ほとんど毎日のようにやってくる屋上。
何故か、ここで寝ていたようだ。
……夢? だとしたら、どこが夢?
ふと自分の服装を見てみれば、体操服じゃなくて制服。
少し、どころかかなり寒い。さっきまで暑くてしょうがなかったのに。
ここまできて、ようやく、辺りが静かすぎることに気づく。
グランドを見ても誰もいない。
向かいの校舎にも人気は無い。
中庭には……いた。
長めの髪を二つくくりにしてる女子と、見慣れたような蜂蜜色の髪の――え、あの髪!
あの蜂蜜色は、間違いなく王子様だ。
けど、それじゃあ……もう一人の子は誰?
思わず柵から身を乗り出すけど、顔を判別するには遠すぎる。
くそう、眼鏡の度、早く直さなきゃ……。明日眼科行こう。
「何、やってるんだろ」
話をしてるかな、ぐらいは分かるんだけど……声なんか聞こえてこないし、顔も見えないから、表情から内容を予想なんてことも出来ないし。
ていうか、わたし何やってるの?
こんなにジロジロ見てたら、不審者以外の何者でも無いじゃないか。
けど、動けなかった。なんというか……金縛り? ちょっと違うけど。
目を逸らすこともできなくて、中庭にいる二人の様子を食い入るように見つめる。
あ、と思った途端、微妙に開いていた二人の距離が不意に縮まった。
……やばい、これはいただけない。心臓に悪い。
静寂を破る声には、嫌というほど聞き覚えがあった。
「……梨亜」
「え?」
勢いよく振り返る――あれ、動けてる。
なんで、竜也がここに。ていうか何で泣いてるの。
……泣いてる、て言ったら語弊があるな、けど今にも泣き出しそうな顔。
そういえば、小さい頃からずっと一緒にいたけど、こいつが泣いてるところなんかほとんど見たこと無い。
いつも、泣き出す直前みたいな表情で、必死に泣き出さないように耐えてたっけ。
今もやっぱり、ちょっとだけ眉を下げて、目を赤くして……わたしには気づかないかのように柵の方に歩み寄って、中庭の方を見つめていた。
ちょ、声掛けといてそれはないだろ!?
「竜也?」
名前を読んでみても反応なし。
……こんな竜也見たこと無いけど、何があったの?
「ちょっと、竜也ってば――――」
「梨亜!」「春世っ!」
肩に手を置こうとすると、どこからか名前を呼ばれて、動きを止める。
目の前にい竜也は口を開いていないし、名前を呼ぶ声は二人分。
辺りを見回すけど、屋上にいるのはわたしと竜也だけ。
一体、何がどうなってるの!?
訳わかんない。
ふ、と体中の力が抜けて、その場でしゃがみこむ。
目を閉じたら、額に何か冷たいものが乗せられたものだから、慌てて目を見開いた。
視界いっぱいに…………竜也の顔。
「…………」
「……な」
ばっちり目が合って、げ、とでも言いたげな顔。
暫くどっちも動けなかった――というより、竜也が動かなかったせいで、わたしが起き上がれない。
保健室独特の匂いがする。
「何やってんの、竜也」
「え、あ、大丈夫、か……?」
「てか起きられない」
「っ~~!」