第10話:結果から
「……」
「……」
結果から言おう、春世は余裕で一番だった。
そりゃあ、足が遅い奴らが多いとはいえ、あれは……学校全体で見たって速いと思う。
陸部の短距離にまざったって、問題が無いくらいに。
「……春世さん、凄いですね」
「ですね」
先生もどうやら知らなかったらしい。
確か春世の副担でしたよね先生、と尋ねれば、体育で50メートル計ったときは遅い方だったらしいんですけどねぇ、とか呟いていた。
……絶対、真面目にやってなかっただけに違いない。
ふと後ろを向けば、さっきまでいたクラスメイト――柴村、だったかな――は、いつの間にやらいなくなっていた。
彼は一体何しに来てたんだろう。
「リーズくんはどの種目でしたっけ?」
「えーっと、あ、800メートルリレーです」
「それならもうそろそろですね」
そういわれるのとほとんど同時に、800メートルリレー出場者の招集を促す放送が流れた。
慌てて先生と別れ、集合場所まで向かう。
集合場所にはメンバー以外の人も何人かいて、少し賑やかだった。
その中で、春世を見かけたような気がして、驚いて足を止める。
春世の性格上、こういうところに長くとどまることは無いと思ってたのに……よく見ると、誰かと話しているようだ。
「だから、竜也は心配しすぎなんだってば」
「お前が無理ばっかするからだろ!」
「無理なんかして無い――あ、王子様だ」
ふとこっちを向いて、僅かに小首をかしげる春世を直視できずに、思わず視線を泳がせる。
春世って敬語で話してるところしか見たことなかったから――いや別に、意外って訳でも無いけど……なんていうか、なぁ。
話していた相手は、さっき後ろにいたクラスメートだった……そういえば、彼もリレーメンバーだったっけ。
「ん? 梨亜、こいつのこと知ってんのか?」
「まぁ、ね」
梨亜、という名前が一瞬誰を指しているのか分からなかった。
春世のことだ、と気づいた途端、何故か少し心の中がもやもやする。
そういえばさっき、春世も柴村のこと、ファーストネームで呼んでたな。
普段の無表情と比べると、結構嬉しそうな表情で近寄ってくる――勿論、柴村も。
「800リレー、出るんですか?」
「あ、まぁ、うん」
「……アンカーとか?」
生憎俺はアンカーじゃない。
自分の順番を伝えると、じゃああそこで見てますね、といって、そそくさと姿を消してしまった。
去り際に、「頑張ってくださいね」の声も忘れずに残して。
「……俺、アイツが俺以外の男子と話してるとこ、初めて見た」
「え? そうだったのか?」
柴村がぼそぼそと呟くように放った言葉に、思わず目を丸くして柴村の方を見た。
もしかして、敬語だとしてもここまで話せるのって、結構凄いこと、だったりするのか?
じゃあ、柴村は何で……?
幾つかの疑問が、頭の中を駆け巡るから、
いつもどおり大股でさっさと歩く春世の背中を、暫く目だけで追っていた柴村は、一息つくと俺を見上げた。
「リレー、頑張ろうぜ」
「あ、あぁ……」
結果から言おう、俺達は余裕で一番だった。
他のクラスの奴ら……やる気、なかったのか?