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美少女と密室に閉じ込められた。「助けてくれたら付き合ってあげる」と言われたけど、この事件の犯人は俺だったりする

作者: 墨江夢

 6月22日。俺・野村八弥(のむらはちや)はクラスメイトの鷲尾(わしお)ユキとに密室に閉じ込められていた。


「ここは……どこなのかしら?」

「部屋の造りを見るに、校内であることは確かなんだけど……それ以上のことは、わからないな」


 窓がないことを考慮すると、多分地下なのだろう。

 出入り用のドアはあるものの、内側からは鍵の開閉が出来ない仕様になっており、現状ドアとしての役割を果たしていなかった。


 クラスメイトの異性と、密室で二人きり。しかもその相手が好きな人なわけだから、男子高校生としては願ったり叶ったりの状況だ。

 胸に手を当てると、先程から異常なくらいドキドキしているのがよくわかる。

 これは好きな子と一緒にいるという高揚感からくるものなのか、それともこの密室から出られるかわからないという不安からくるものなのか。多分、両方なんだと思う。


 こういう状況下では、吊橋効果なるものが働いて互いの距離が近づくものだ。

 不安を軽減させる為手を握り合ったり、抱き合ったり、そして最終的にはキスをしたり。ラブコメの世界では、そういうのがお決まりなんだけど……


(この状況じゃ、とてもじゃないけどキスなんて出来ないよなぁ)


 俺たちの目の前に置かれているのは、ティッシュボックスサイズの箱。箱の表面にはカウントダウンを続ける制限時間が表示されている。


 制限時間がなくなると、どうなるのか? 目の前の箱が――爆弾が爆発するのだ。


 爆弾の側にはテンキーが置かれており、4桁の解除コードを入力することで、カウントダウンを止めることが出来る。

 逆に言えば、解除コードがわからないければ俺たちは――


 命の危機に瀕した状況でイチャイチャ出来るほど、俺たちの肝は座っていない。

 そう。俺たちの今置かれている状況は、ラブコメではなくサスペンスなのだ。


 密室に閉じ込められて、およそ1時間半。ドラマだとそろそろ犯人が判明する頃合いなのだが、この監禁事件においては未だ解決の糸口すら見えない。


 ……というのが、客観的に見た俺たちの現状である。

 しかし俺には、二人とも無事に生還出来ることがわかっている。なぜなら――この爆弾を用意したのは、他ならぬ俺なのだから。


 最初に言っておくが、爆弾は勿論偽物だ。カウントがゼロになっても、クラッカーが鳴るだけで爆発なんてしない。

 第一解除コードを知っているので、カウントがゼロになることだってない。


 次に動機だ。どうして俺が自分と鷲尾を爆弾(偽物)の設置されている部屋に閉じ込めたのかというと……俺の魅力を鷲尾にアピールする為だ。


 俺は鷲尾が好きだ。だけど普段の俺はヘタレだから、彼女にこれっぽっちも良いところを見せられていない。

 たまに勇気を出して話しかけても、「はぁ?」と返されてそっぽを向かれるのがオチだし。


 だから時限爆弾という危機から鷲尾を救い出すという演出をすることで、彼女に俺の男らしさを知って貰うのが狙いだ。

 もっと言うと男として意識されるのが希望であり、好きになって貰うのが願いだ。


 解除コードを推理するフリをしてそんなことを考えていると、突然鷲尾が俺の背中に抱き着いてきた。


 高鳴る心音を抑えながら、俺は「どうかしたのか?」と尋ねる。


「うん。私たち、もう助からないのかしら? そう考えたら、急に不安になっちゃって」

「大丈夫だ」


 俺は断言する。だってこの爆弾、偽物だもの。


「何があっても、鷲尾は俺が守るから」

「野村くん……」


 ギュッと、俺を抱き締める鷲尾の力が強くなる。


「私はまだ、死にたくない。だから生き残る為に、何だってするつもりよ。例えば、そうね……もし助けてくれたら、付き合ってあげる」


 ……はい、言質いただきましたー。


 鷲尾と交際出来る確約が取れた以上、もう偽物の爆弾に用はない。解除コードを打ち込んで、カウントダウンを止めるとしよう。


 解除コードは、忘れないよう自分の誕生日を設定してある。俺の誕生日は10月17日なので、『1017』の4桁の数字をテンキーで打ち込んだ。

 果たしてカウントダウンは――止まらなかった。


「……あれ!?」


 どうして解除されないんだ?

 もしかして、解除コードを設定する時に数字を一つ押し間違えていたのか?


『1018』や『2017』など、酷似した4桁を数パターン入力してみる。それでもカウントダウンは、一向に止まる気配がなかった。


 一体、何が起こっているというんだ……?





(フフフ。困ってる困ってる)


 必死になって爆弾の解除を試みる彼をすぐ近くで見ながら、私・鷲尾ユキは微笑んだ。


 制限時間が少なくなっていく一方で、肥大していく焦りと不安。「私を守る」なんて豪語しちゃったわけだから、焦燥感は想像以上のものになっていることでしょうね。


 でもね、野村くん。そんな焦りも不安も、本来不要な感情なのよ。だって――この爆弾を用意したのは、他ならぬ私なのだから。


 私が偽物の爆弾を用意したのには、やむにやまれぬ理由がある。その理由とは……野村くんと付き合う為だ。


 私は野村くんが好きなのだけど、いつも素直になれず、冷たい態度を取ってしまう。

 本当は話しかけられて嬉しいのに、顔を見続けていると心臓が破裂してしまいそうになるので、すぐにそっぽを向いてしまう。

 きっと私は、ツンデレってやつなんだと思う。デレたことなんて一度もないけど。


 本当は野村くんともっと仲良くしたい。お喋りだって、私の方から持ちかけたい。

 だけど今まで素っ気ない態度ばかり取り続けていたのよ? 今更どのツラ下げて、デレデレなんて出来るのよ。


 そんな私でも、命の危機に瀕した状況を演出すれば、素直な気持ちをさり気なく伝えられるかもしれない。そう考えたのだ。


「あー、クソ! これも違う! 解除コードは一体何なんだ!」


(多分)私を助けたいという一心で、野村くんはテンキーを押し続ける。

 諦めないその姿に、私はまたもキュンとしちゃったりして。


 何回間違えても、この爆弾が爆発することはない。そもそも偽物だし。

 だけど当てずっぽうでやっても時間を無駄にするだけだし、だったら私に告白した方がずっと効率が良いというのに。


 ていうか、早く告白しなさいよ。好きって言いなさいよ。

 その為にこんなアホみたいな事件(?)を起こしたのよ? 今だってこうして羞恥に耐えながら抱き着いているのよ?


「助けてくれたら付き合ってあげる」とか、告白同然のセリフも口にしちゃったわけだし、今更後に引くことなんて出来ない。


 制限時間時間は、残り20分。この20分の間に、何が何でも「好き」って言わせてみせるんだから!





 もう何十パターンもの4桁の数字を入力してみたが、どれも正解ではない。

 残り時間が15分を切ったところで、俺は一つの予想を立ててみた。


 もしかしたらこの爆弾は、俺の用意したものとは別物なのではないだろうか?


 俺の作った爆弾では、残り時間が15分になったタイミングで一度警告音が鳴る仕様になっている。

 警告音は「あと15分で爆発するぞ」という脅し……というのは表向きの理由で、実際はもし俺の想いが鷲尾さんに通じて、この場でイチャイチャし始めてしまった際、爆弾解除を忘れずにする為に設置したのだ。


 しかし目の前にあるこの爆弾からは、警告音が鳴っていない。それはつまり、俺の用意した爆弾ではないということで。

 そうなると、俺の誕生日を打ち込んだところでカウントダウンが止まる筈もなかった。


 俺の用意した爆弾でないとなると、これが本物の爆弾である可能性も考慮しないといけない。

 回数制限があるかもしれないし、これ以上闇雲に数字を打ち込むのは危険だな。


 ……よし。

 あと一回だ。あと一回テキトーな数字を打ち込んだら、その次は時間ギリギリになるまで熟考するとしよう。


 俺は鷲尾さんを背中から離す。

 もしかしたら、その一回が原因で爆発するかもしれない。だから彼女を少しでも遠ざけておく必要があった。


「野村くん?」

「鷲尾さん。鷲尾さんは、「助けてくれたら付き合ってあげる」って言ってくれたよな? その気持ちに、嘘はないか?」

「嘘だなんて! 私は本気よ。この部屋を生きて脱出出来たら、本当にあなたの彼女になるつもりよ」

「ありがとう。その言葉だけで、俺は十分幸せだよ。……鷲尾さんを絶対に助ける。その約束を違えるつもりはない。だけど、俺は助からないかもしれない」

「えっ……」


 鷲尾さんが不安そうな顔になったので、俺は慌ててセリフを続けた。


「大丈夫! 鷲尾さんは何が何でも守るから! ……でもその為に自分の命を犠牲にしなくちゃいけないんだとしたら、俺は喜んで死を選ぶ。そう思えてしまうくらい、君が好きなんだ」


 鷲尾さんを守れるのなら、未練はない。そう言えたらどんなにカッコよかったことか。

 だけど俺はそんなにイケメンじゃない。ここで「好き」と告白しないと、死んでも死にきれない。


 もし神様が本当にいるのなら、奇跡を起こしてください。今から入力する4桁の数字が、解除コードであってください。


「鷲尾さんは離れていて。気休めかもしれないけど、机とかを盾にして体を守って」

「……嫌よ、そんなの」


 鷲尾さんは俺から離れるどころか、再度俺に密着する。


「折角「好き」って言って貰えたんだもの。付き合う前に離れ離れになるなんて、そんなの死んでもゴメンだから」

「死んでもゴメンって……この状況じゃ、冗談に聞こえないな」

「だって、冗談じゃないもの」


 これは多分、何を言っても鷲尾さんは俺から離れないな。

 彼女を危険に晒しているというのに、俺は嬉しい気持ちでいっぱいだった。


 やっと両想いになれたんだ。こんなところで死んでたまるか。


 俺は祈りを込めて、4桁の数字を打ち込む。すると……カウントダウンが止まった。


「止まった……」

「えっ、嘘?」

「本当だよ! パッと思い浮かんだっていうか、その、絶対忘れちゃいけない数字をダメ元で打ち込んだだけなんだけど……」


 その数字を言ったわけじゃないのに、鷲尾は顔を真っ赤にする。


「そっ、そうなんだ」と、反応もどこかぎこちない。

 その時、俺は全ての謎が解けた気がした。


 もしかしてこの爆弾は、鷲尾さんが用意したものなんじゃないだろうか?


 だから鷲尾さんは解除コードを知っているし、その数字……彼女の誕生日を「絶対忘れちゃいけない数字」と言われて、真っ赤になった。


 ……何だよ。何が何でも鷲尾さんを守らないとと焦っていたのに、とんだ茶番じゃないか。

 だけど彼女を責められないな。俺だって、同じことを企んでいたわけだし。


 それに鷲尾さんがこんなことをした理由も、理解出来る。そうまでして俺と付き合いたかったのだと考えると、怒りなんて自然と消え去っていく。


 だけどやられっぱなしは癪なので、今年の鷲尾さんの誕生日にちょっとしたサプライズを用意するとしよう。

 誕生日プレゼントの中に、偽物の時限爆弾を用意して。


 解除コードは、そうだなぁ……今日の日付を表す、『0622』にする。俺と鷲尾さんが恋人同士になった、大切な記念日だ。

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