1.ふたりは同じ?
ある冬の日の午後。
ヌーッティはアキの部屋のベッド上でごろごろしながら、鏡の前に立つ女の子の小熊の精霊キルシを見ていた。
キルシは首に巻いたスカーフを結んだり、ほどいたりしながら、鏡の中を覗き込んでいた。
都会に強い憧れを抱く森に住まうキルシは、3日前からヘルシンキ中心部にあるアキの家に遊びに来ていた。
この日は、前日に購入した——正確には、アキに買ってもらった何枚ものスカーフを試着していた。
鏡の前で様々なポーズをとるキルシを、ヌーッティは不思議そうな面持ちで眺めていた。
「似てるヌー……」
ヌーッティはぽそりと呟くと起き上がり、ベッドを降りてキルシの側に駆け寄った。
鼻歌交じりのキルシの肩をヌーッティがとんとん叩くと、キルシは後ろを振り返った。
「なんですか?」
キルシに問われたヌーッティであったが、返答することなく、じっとキルシを見つめた。
「わたしがとっても可愛いからってそんなに見つめないでください。ヌーッティに見つめられると不気味ですわ」
そう言ってキルシは顔をぷいっと逸らした。
「似てるヌー。キルシとヌーッティはちょっと似てるヌー」
「はあ?」
キルシは訝った。
そのとき、ヌーッティは鏡に映るヌーッティを見た。
まじまじと見入った。そして、次にキルシを再び見た。
「似てなかったヌー」
ヌーッティは照れ笑いをした。キルシはやれやれといった表情でヌーッティを見た。
「あたりまえですわ。わたしのほうが……」
「ヌーのほうが可愛かったヌー」
「はあっ⁈」
キルシは驚いた顔をヌーッティに向けた。
「ヌーのほうがとっても可愛いヌー。間違えてごめんだヌー」
ヌーッティはキルシの肩をぽんっと叩くと、背を向けて立ち去ろうとした。だが、
「お待ちなさい!」
キルシがヌーッティの腕を引っ掴んだ。
「何か用ヌー?」
ヌーッティは首を傾げて尋ねた。
「ヌーッティのほうが可愛い⁈ わたしのほうが比べようのないほど可愛いですわ!」
怒気を含んだ口調でキルシの言葉に、ヌーッティもカチンときたようで、
「何を言ってるヌー? ヌーのほうが可愛いに決まってるヌー。世界で一番可愛いのはヌーだヌー」
当然といったふうにヌーッティは反論した。
「いつもそう言ってますけど、ヌーッティが可愛いって誰が言ったんです?」
「言わなくてもわかるヌー。みんなの心の中の可愛いはヌーだヌー」
ヌーッティは新たな意味不明の理論をムカムカしているキルシに向かって繰り出した。
そこへ、がちゃりとドアの開く音がした。
「ヌーッティ、キルシ。おやつ持って来たよ」
トレーににおやつを乗せてアキが部屋に入ってきた。
「みんなで食べよ」
アキの肩に座っているトゥーリが、睨み合うヌーッティとキルシに呼びかけた。
「ちょうど良かった! アキとトゥーリからも言ってあげてください! ヌーッティが自分は世界で一番可愛いって言い張ってるんですよ⁈」
怒っているキルシがヌーッティを指さしながら、アキとトゥーリに言った。
「いつものことじゃん?」
アキは返答しながら、大きなデスクにトレーを置いた。
「トゥーリならわかってくれるヌー! ヌーのほうがキルシより断然可愛くて、世界一なんだヌー!」
頬を膨らませながらヌーッティがトゥーリに尋ねるように言った。
「わかるわけないでしょ? まったく」
トゥーリは呆れた面持ちで、アキの肩からひょいっとデスクへ飛び移った。
「先におやつ食べちゃうよ?」
「それはダメだヌー! だから、ヌーのほうが可愛いってキルシを説得して欲しいヌー!」
「『だから』の使い方、間違ってない?」
アキは呆れた顔をヌーッティに向けつつ、椅子をデスクから引き出し腰掛けた。
「……こうなったら白黒つけるしかありませんわ」
不気味なほど静かに言ったキルシに、ヌーッティとトゥーリ、アキの3人は目を向けた。
キルシは鋭い目をヌーッティに向け、びしっと指さした。
「勝負よ、ヌーッティ! どっちが可愛いかはっきりさせてあげるわ!」
宣戦布告を受けたヌーッティもキルシを見据え、びしっと彼女を指さした。
「望むところだヌー! 受けて立つヌー! ヌーが宇宙一可愛いって証明するヌー!」
ヌーッティとキルシはくるっと顔をトゥーリとアキに向けた。
「審査員をお願いします!」
「厳正な審査を頼むヌー!」
こうして、トゥーリとアキを巻き込んだヌーッティとキルシの勝負が始まるのであった。




