6.コルバトゥントゥリ
「今なんて言ったヌー? じょうしって言ったヌー?」
ヌーッティが狼狽えた様子でトゥーリに尋ねると、トゥーリはこくりと頷いた。
ヌーッティはトゥーリの両肩をがっしりと掴む。
「なんで教えてくれなかったヌー⁈ ずるいヌー! プレゼントもらい放題だヌー!」
トゥーリはヌーッティの胸を片手で押しやると、肩からヌーッティの手をどける。
「プレゼント貰い放題なわけないでしょ! しつこいといい加減怒るよ?」
トゥーリの言葉には怒気が含まれていた。それに気づかないヌーッティではないが、何しろ今回はプレゼントがかかっていて、そう簡単には退けない。
その時、ヌーッティの脳裏に妙案が閃いた。
ヌーッティはトイミに視線を移すと、
「トイミ! 本物のヨウルプッキにトゥーリが会いに来たって伝えて欲しいヌー!」
力強く頼んだ。
「ちょっと嘘つかないでよ! 私はヌーッティの監視でついてきただけでしょ⁈」
即座にトゥーリが反駁する。
ヌーッティはにやりとほくそ笑む。
「いいヌー? ここでヌーッティが本物のヨウルプッキに会えないなら、トゥーリはいつまでたってもアキのところに戻れないヌー? これは取り引きだヌー。アキのところに早く戻りたいなら、ヌーッティをヨウルプッキに合わせることだヌー」
それを聞いてトゥーリは言葉に詰まった。事実、ここでヌーッティがごねるとアキの元へ戻るのが遅くなる。けれども、
「それって、ヌーッティもアキのところに戻るのが遅くなって3つの試作ケーキを食べられないってことだよ?」
トゥーリの発言にヌーッティの勢いが止まると、
「忘れてたヌー!」
再び時が動き出し、ヌーッティは先程よりも大振りで慌て出す。
トゥーリは目を細めて溜め息を吐くとトイミに顔を向ける。
「トイミ。私が直接ヌーッティと一緒にヨウルプッキのところへ行って事情を話すよ。だから、道を開いて。お願い」
トイミは髭を撫でると、一つ頷いた。
「トゥーリの頼みなら断るわけにもいかないし、父も会いたがってるだろう。わかった、道を開こう」
そう答えるとトイミはズボンのポケットから黒いスマホを取り出し、電話をかけた。
「父さん? 驚かないで聞いて欲しいんだが、あのトゥーリが、今私のオフィスに来ているんだ。……え? ああ、わかったわかった。だから落ち着いてくれよ。今からそっちへ案内するから、トゥーリたちのことよろしく頼むよ」
そう言って電話を切ったトイミはトゥーリとヌーッティに顔を向けて、
「さあ、父のいるコルバトゥントゥリへ行こうか」
ウインクを送った。
ヌーッティは大いに喜び、他方トゥーリは気乗りしない面持ちであった。
トイミはトゥーリとヌーッティを抱え持つと事務所を出てサンタクロース村の裏手へと向かった。裏からこっそりと出たトイミは、人気の少ない場所へ向かった。
「さて、ここの辺かな」
トイミは言いながらトゥーリとヌーッティを雪で覆われた地面へそっと下ろした。そして片手を薄暗い空へとかざし、詩を歌い始める。
Näytän tietä isäni maille
ーーわれ示さん、わが父の土地への道を
Aukaisen sen laulullani
道は開く、わが歌によって
Laulan käskyn maailmalle
われは歌い、命じる、世界へ
Avaa portti Korvatunturissa!
開け! コルバトゥントゥリの扉よ!
歌によって一陣のと強い風が巻き起こされトゥーリたちの視界を塞ぐ。
トイミが腕を振り下ろすと、その動きに呼応して風が四散するように収まる。すると、トゥーリたちの前に一件の古びたログハウスが突如現れた。
「さて、私の案内はここまで。あの小屋の扉の先に父が、ヨウルプッキがいるよ」
トイミの魔術によってサンタクロース村から、わずかな者しか知らないヨウルプッキの自宅へと、トゥーリとヌーッティはやって来たのであった。
トゥーリとヌーッティは案内をしてくれたトイミと彼の第一小人のカティに感謝を述べて、別れの挨拶をした。
トイミたちは手を振りながら数歩後ずさると、空間に溶けるよに姿を消した。
「行こう」
トゥーリは緊張した様子のヌーッティの手を取って小屋のドアの前に立つと、大きな力でドアを叩いた。




