百合初心者である作者が百合初心者に捧げる純愛ストーリー 〜コメディ風味、テンプレを添えて〜
『あなたに話すことはない。帰って。』
荒れ果てた城の大広間。その王座に一人、少女がポツンと座っている。かつては輝いていたであろうドレスは土埃によって汚れ、裾のレースは所々ほつれていた。しかし、少女の内側から放たれる輝きはその程度では損なわれず、むしろ少女を薄幸の美少女へと転じていた。少女から発せられた言葉は大広間に響き、魔法によって廃墟となった城門の前に佇む女に伝わる。
女はその言葉に目を見張り、その顔を苦痛に歪めた。
『そんな......姫様......!どうかこの門をお開けになってください!どうかお側に侍ることをお許しください!』
『くどい。もう私に近づかないで。遠くへ行って。顔も見たくない。』
少女は目を瞑った。柔らかくも深い輝きを湛える彼女の宝石のような瞳は、その動作だけで隠れてしまう。
魔法によって少女の様子は女に伝わった。その途端、少女への愛と慈しみで満たされていた女の心は、空虚な穴となった。女が身じろぎ、鎧がこすれる音がする。次の瞬間、女の脳はこの理不尽な世界へ対する怒りに支配される。
女は気がついてしまったのだ。あの美しくも悲哀を湛えた瞳を、少女はこの世界から永遠に隠してしまうつもりだとということに。自身を呪い、永遠の眠りにつくことを決心してしまったのだということに。
その時、女はこの世界への復讐を誓った。少女をそのような思考に至らせ、この絶望へと誘ったこの理不尽な世界こそが、女が打倒すべき悪なのだと気がついてしまったのだ。
もはや空虚となってしまった女の心に響き、染み渡るのは少女の声のみである。少女が眠りにつけば、その声ですらも二度と聞くことができなくなってしまう。
女は絶望した。その絶望の果てに、行き着く先は何処なのか。それは神のみぞ知ることである。
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広く青い空から煌々と光が射し、雲の絨毯の上で天使が飛びまわる。それが天界だ。
しかし、今日の天界の様子はいつもとは違う。
「これは大変かもしれないわね......。みんな集合〜!」
水晶を覗き込んでいた女神が声を張ると、3柱の神々が水晶を取り囲むようにして現れた。
「なになに、どうしたのアリスちゃん?」
「突然の召集、かの有名な勇者魔王案件以来なので......1000年ぶりでは?」
「ほんとめっちゃ久しぶりだね!今夜は飲んじゃう?秘蔵のワイン持ってこよっか?500年ものだよー!」
「シルバー、グレイ、フィー!水晶を視てちょうだい!ゆーちゃんが闇落ちしかけてるの!!!」
その言葉が発せられると同時に、天界に激震が走った。雲でできた床は震え、そこかしこに飛んでいる天使たちは空気の震えによろめく。晴れた空には、雨雲もないのに雷鳴が飛び交う。
神々は水晶を覗き込み、人間界の状況を確認するなり一斉に話し始めた。
「え、やばすぎじゃん。勇者ちゃんが闇落ちは流石にやばい。魔王ちゃん諦めモードだし、ストッパーいないじゃん」
「これは......危険ですね。下手したら天界ごと世界が滅びますよ。」
「アリスねえさまこれは大変!テコ入れしなきゃ!ていうかほんとなにがあったの!?」
「端的に言うと、魔神が魔王ちゃんの記憶戻して、恋には障害物が必要!とかいいだして魔物を活性化させて、さらには敵国が魔王ちゃんの国を攻めて、そのストレスで力をコントロールできなくなった魔王ちゃんの魔力が暴走して勇者ちゃんを拒否して、勇者ちゃんも記憶を取り戻して闇落ちした!!!」
「うっわ、最悪のパターン......魔王ちゃんってあれだよね、確か今世ではお姫様に転生してて、勇者ちゃんは女騎士として魔王ちゃんに付き従ってるっていう」
「ちょっと魔界行って魔神をシメてきます!!!」
「......処す。」
「え、フィー......?」
女神アリスの言葉に三者三様の反応を返しながら、3柱の神々はこの世紀の大事件の対策を練ろうとした。
そんな中、女神アリスは中性神フィーの発言に耳を疑う。天使のように無垢で純真な中性神フィーから、とんでもない言葉が飛び出してきたのだ。
その反応に中性神フィーはハッと我に返り、慌てて男神グレイに話しかける。
「っじゃなくて!......グレイにいさま、魔王さんを懲らしめるよりもまずは勇者さんのケアしなきゃ!」
「そうね!そうよね!ゆーちゃんを正気に戻さなきゃね!どうしましょう、神託を下せばいいかしら?」
「そうだね〜、勇者ちゃんに神託を下して、『魔王ちゃんを助けるための力を授ける。』とでも言えばいいんじゃない?」
「僕もそれに賛成です。アリスさま、お願いします。」
「よし! じゃあ行くわよ〜」
女神アリスの唇が震え、美しい祝詞が紡ぎ出される。それまでのふわっとした雰囲気は搔き消え、荘厳な雰囲気に満ちたその姿は、まさに女神というにふさわしいものだった。
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一方、人間界にて勇者の生まれ変わりである女騎士は絶望の淵に佇んでいた。
彼女の暗く淀んだ心を唯一浄化できる存在も、今は深い眠りについている。
そんな女の眼前に、突然光が差した。
神々しい光は渦を巻くように女騎士に巻き付いたと思ったら、次の瞬間には女騎士の体内へと吸収される。その途端、彼女はとてつもない力が体に宿ったことを感じ取った。
この力があれば、城の結界を壊せる。いや、結界だけではない。姫様と私を引き裂いた、あの野蛮な者共の国だって滅ぼせるに違いない......。
凶暴な考えが彼女の脳を支配する。その時だった、女神アリスの祝詞が女騎士に届く。
〈我が子よ。勇者の生まれ変わりであり、今世でも魔王と縁を結びし者よ。よくお聞きなさい。そなたに神託を授けます。
魔王の生まれ変わりを救いたくば、この世界の住民を誰一人として殺してはいけません。先ほど、かつて勇者であったあなたから預かっていた力を返還しました。生まれ変わってなお賢く清廉たるあなたならば、その力の使い方を間違えずに世界を平穏へと導けるでしょう。決して暴走しないように。我が子よ、うまくやるのですよ。〉
女神アリスの言葉が女騎士の体に響き渡る。
勇者だった頃の記憶を取り戻し、その力を取り戻した女騎士は、勇者だった頃に抱いていた感情をも取り戻した。勇者と魔王。敵対する者同士として国から、いや世界から定められていた前世の彼女たち。
勇者として魔王の城に訪れ、魔王と相見えた瞬間。彼女たちは、恋に落ちた。許されない恋だった。女性同士ならまだしも、彼女たちは勇者と魔王。結ばれることは決して許されない、宿命の二人だったのだ。
勇者と魔王という身分を捨て、二人で誰も知らない土地を目指した。追っ手は大勢いた。中には、彼女たちの友や師匠、同胞もいた。かつては仲の良かった者たちでさえ、彼女たちの関係を、思いを、願いを許してくれなかった。だから彼女たちは逃げた。この世のしがらみ全てを取っ払い、その身二つで。
長い逃亡生活の末、彼女たちは北の地へと追いやられていった。美しかった金の髪と黒の髪は痛み、衣服は磨り減った。食べるものもなく、次第に彼らは痩せ細っていった。けれども、彼女たちは幸福だった。
北の地では、誰にも邪魔されることなく、彼女たちは一つになれたのだ。
そんな彼女たちの様子を見守るものがいた。天界に住む、4柱の神々だ。
神々は彼女たちに温情を与えた。痩せ細った体を抱きしめあい、北の地の洞穴で凍死しようとしていた彼女たちに、祝福を与えたのだ。
彼女たちの魂をそのまま転生させて、来世を与えるという祝福を。
人間は死ぬと、魂が天界へ向かう。天界では天使たちが魂に休息を与え、修繕を施す。そして、修繕が終わり、健康になった魂は魂の泉へと連れて行かれるのだ。
魂の泉では、魂が混ざり合い、一つになる。
そして、人間界で新たな命が生まれる時、天使は魂の泉からカケラほどの魂をすくい取り、魂の形に形成して、新たな魂として人間界へ連れて行くのだ。
よって、魂の泉で他の魂と混ざることなく、勇者と魔王として純粋なままの魂を引き継いで転生した彼女たちは、例外中の例外。人間界のみならず、天界、地界にとっても特別な存在である。
そんな二人が再び引き裂かれようとしているのを、どうやってみているだけでいられようか。
そんな事情から、地界の魔神は彼女たちにちょっかいをかけ、天界の神々は彼女たちを救おうとしているのである。
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さて、神々から力を受け取った女騎士は思考した。
彼女たちにとっての幸福な結末とは、一体なにを指すのか。
女騎士のとっての幸福は、姫と結ばれて幸せに暮らすことである。
では、姫にとっての幸福とは?
女騎士は考えた。姫はこの国を、この国に住む全ての国民を、さらにはこの世界を愛している。愛しているからこそ、姫は自分の力でこの世界の終焉を導かないように、眠りについたのだ。
果たして、この力で世界を滅ぼして姫と自分は幸せに暮らせるのか。
女騎士は考える。
そして、女騎士は心に決めた。
この世界は滅ぼさない。ただし、姫と自分を害するものは、害したものは容赦無く、この世界から抹殺すると。
そう決めた女騎士の行動は早かった。
彼女はまず、彼女を襲った近隣諸国、並びにそこに住み着く魔物を成敗した。
姫の記憶が戻り、力の暴走を抑え込むために眠りにつくことを決めてしまった原因。それは、近隣諸国が姫の納める国に戦争を仕掛けてきたからである。
女騎士は敵国の王城に乗り込むと、その絶大なる力を持って玉座の前と侵攻する。立ちはだかる騎士や兵士をなぎ倒し、ついには敵国の王と女王に対面した。
女騎士は王と女王をかつての勇者としての、『誓いの言葉』を持って断罪した。
『誓いの言葉』は呪いであり、祝福だ。誓いの言葉を持って約束したことを守れば、もしくは過去に違反したことがなければ、そのものは罰せられることがない。むしろ、誓う前よりも強い存在力をこの世界で得ることができるため、神々に注目されやすくなり幸運が舞い込んできやすくなる。
しかし、誓いの言葉が破られたとき、その祝福は呪いに転じ、誓ったものに牙を剥く。
女騎士が王と女王に誓わせたことは、『自国の国民を故意に傷つけるべからず』というものだった。彼らが善良で、女騎士の愛する国を侵攻したということも彼らの国のため、国民のためというノブレスオブリージュに収束されるものであれば、この誓いによって彼らが害されることはない。しかし、もし彼らが自分たちの、貴族の傲慢のためだけに他国へ攻め入っていたとしたら、彼らには呪いがまとわりつくだろう。
結果、王と女王は呪われた。
呪いは彼らの顔に刺青を入れる形で現れる。神がまだ信仰されているこの世界において、神に背いた大罪人ということを示す刺青だ。彼らの人生は幽閉されるか処刑されるか、その二択しか残っていないだろう。
女騎士は敵国の王と女王の結末を見届ける気はさらさらなかった。それは、彼らの国民が決めることだと思ったからだ。
彼女が気にすることはただ一つ。
彼女の想い人、姫の存在だけである。
こうして、女騎士は敵国を去った。
姫を襲う憂いがなくなったいま、女騎士は姫を長い眠りから覚まそうと決めたのである。
女騎士は王城へ降り立った。姫の魔力によって結界が張られ、なんびとたりとも近づくことは許されない。姫は愛するものでさえ、拒絶することを誓ったのだ。
そんな結界を、女騎士はたやすく切り裂く。その聖なる力を持って、彼女は姫の眠る玉座の間へと足を進めた。
玉座の間へたどり着く。
女騎士はその顔を決意で彩り、眼前に広がる扉を開けた。
扉を開けた先、玉座にちょこんと収まり、座るようにして眠っていたのは姫であった。
その美しい尊顔は安らかな表情を形作り、滑らかな頬は桃色に彩られている。華奢な手足は玉座へと投げ出されており、女騎士は跪くと、姫の左手をとりそのひたいにこすりつけた。
女騎士のひたいから、光が溢れ出す。
その光は姫の左手へと移ると、体全体を駆け巡った。
最終的に、光は姫の心臓のあたりでふわっと吸い込まれていく。
その時、透き通るように白い姫のまぶたが揺れ、その長くて麗しいまつげが動き、姫の瞳は開かれた。その潤むような瞳を向かられた女騎士は、握ったままであった姫の左手に思わず唇を落とす。
「クリス、私は......」
「姫さま......いえ、マリア。いいのです。全てはあなたがこの世界のためを思って決断したこと。私はそれを受け入れられず、無様にも神にすがりついて前世の力を望んだ結果、あなたを救うことができたにすぎません。」
「しかし、私はあなたに、また......」
「どうか気に病まないでください。前世も今世も、私は私の望むように生きているだけ。ですが、もしあなたが私に申し訳ないと感じているのなら、どうか私があなたを愛すことをお許しください。......前世で敵として出会い、ともに朽ち果て。今世で再び巡り会い、運命に引き裂かれそうになってなお、私はあなたのことを愛しているのです。」
そういうと、女騎士は姫の両手をとって握りしめ、姫の言葉を祈るように待った。
「クリス、私もあなたを...... いえ、あなただけを愛しているのです。この国のことは、国民のことは我が子のように慈愛を持っています。私が彼らを傷つけるなんて、考えられないほどに。......ですがクリス、私が心の底から愛しているのはあなただけです。あなたを私のものにするためならば、私はあなたさえも傷つけられる。傷つけたいと思うほどに、それも仕方ないと思ってしまうほどに、あなたは私の唯一。運命の相手なのです。」
女騎士は姫の気持ちが痛いほどにわかった。魔王の魂に宿る、その残虐性。彼女が必死に押さえ込もうとしている、他者への嗜虐的な行動。自身が忌み嫌うその特徴を解放しても手に入れたいと思うほど、姫は女騎士を愛しているのだ。
長い眠りから覚め、魔王としての記憶が完全となったいま。魔王の魂を完全なるコントロール下に置いた現在。姫は女騎士に対する愛を、その真の姿に気がついたのである。
「姫さま、あなたのその魔王たる魂ごと、あなたを愛して私のものにしたい。」
そういうと、女騎士は姫の体を包み込むように抱きしめた。姫も女騎士の華奢ながらもしっかりとした腰に手を回し、柔らかな丸みを保つその胸に顔を強くこすりつけた。
そのまましばらくの間、かつての魔王と勇者は互いの温もりを感じながら、身を寄せ合う。
その間にも女騎士の勇者たる魂は、勇者の力を持って魔王を組み敷き、自身の統制下に置くという使命を忘れていなかった。
それは姫の魔王たる魂も同様で、その魂は勇者に立ちはだかり、その力を下して自身の統制下におくという執念を爆発させる。
きつく抱きしめあったままだった女騎士と姫は、その拘束を少し緩め、お互いの顔を見つめ合う。彼らの瞳は美しく輝き、かつての勇者と魔王を思わせる力を宿していた。
次の瞬間、どちらともなく顔が近づき、唇が交わる。姫の薄く開いた唇に、女騎士はかぶりつくようにして少し開いた唇を寄せた。その赤く色づく唇からは、勇者の力の根源に最も近いと言われる、誓約魔法が注がれる。
姫はその誓約魔法を薄く色づく桃色の唇を少し開けて受け止め、自身の体内からは魔王の力の根源たる呪詛魔法を放出する。薄暗く光る呪詛魔法は、魔王の愛らしい舌に乗って、勇者の口内へと運ばれた。
そのまま、女騎士と姫は互いを自分の支配下に置くように、自分に縛り付けるかのように魂から滲み出る魔法を乗せて深い口づけを交わしたのだった。
悠久とも思えるほどの長い口づけが終わり、女騎士と姫はその場に座り込む。玉座の間のふかふかな絨毯が彼らを優しく受け止めた。
「......ふふ。マリア、やはりあなたを丸ごと手に入れるのは難しいですね。」
先ほどまでの深い口づけを全く感じさせないような、さらりとした口調で女騎士が姫に話しかける。ただ、姫に向けられたその瞳には情熱が宿り、彼女の姫に対する思いを物語っていた。
「それは私の台詞よ、クリス。今度こそ、あなたを私で満たすことができると思ったのに。またの機会にお預けかしら。」
雪のように白い頬を桃色に染めた姫は、甘えるような声で女騎士に返答した。その瞳は先ほどまでの息苦しさに潤み、姫の愛らしさをさらに引き立てている。
女騎士と姫は、互いの瞳を覗き込む。それは、瞳を通して彼らの魂を覗きあっているかのようだった。
唐突に、彼女たちはクスクスと笑い出した。その笑いは次第に大きくなり、玉座の間に反響する。その反響がおかしくて、彼女たちはまた笑った。
「ふふっ、そろそろあなたの愛しい民に姿を見せてはどうですか? 国王様とお妃様もさぞかしあなたの心配をしているでしょうに。」
「あら、あなたが言えたことかしら? どうせまたご家族に何も言わないで暴走したんでしょ。」
「全く、違いありません。さてと、では二人で謝りに行きましょうか。『迷惑かけてごめんなさい』ってね」
「それはいいわね。私は申し訳なさそうな顔をして、あなたは殊勝な態度で私をかばう。それを見てみんなが同情する。いいシナリオじゃなくて?」
「おやおや、それはまた策士なことを。あなたの演技力には皆が騙されますでしょう。......さて、お手をどうぞ。お姫様。」
姫が女騎士の腕に手を絡ませる。そのまましとしとと玉座の前をでて、王城の門に歩いて言った。王城の外からは歓声が聞こえる。その歓声の中には姫の両親である国王とお妃、女騎士の家族である近衛隊長とその妻、そして兄がいるようだ。
閉ざされていた城門を、女騎士が開ける。
その直前、姫は女騎士の腕を引っ張ると、二人の唇は混じり合った。
彼女たちはふふっ、と笑うと、愛すべき国民の前へ躍り出て、これまでの経緯を多少の脚色と少しの嘘、ほんのちょびっとの秘密で彩った物語を、お涙頂戴の演技を込めて披露するのである。
めでたしめでたし。
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さて、天界ではこの幸せの結末に湧いていた。
「なんて......なんていい結末なのかしら......」
女神アリスは涙を流して人間界を見守る。その表情は慈愛に満ちていた。たおやかな指先で涙を拭うと、女神は女騎士と姫が結ばれるように祝福を授ける。
「いや〜、感動的かつ合理的な結末だったね。勇者が世界を滅ぼす思想を持った時は、どうしようかと思ったよほんと。」
男神シルバーは盛大な拍手をすると、女騎士と姫を祝福した。
「勇者様と魔王様。愛らしい女性が結ばれぬ運命を乗り越えて愛を結ぶ...... 何でしょう、この胸の高鳴りは......」
男神グレイは心を踊らせるナニカに戸惑いを隠せない様子で、彼女たちの恋を祝福していた。......きっと彼は良き百合の信奉者になることだろう。周囲にぷかぷか浮かんでいる天使のうち数匹は、彼に何事かを教えたがっているようである。
「ね、ほんと良かった! 勇者さんと魔王さんも幸せになれたね! ......それにしても、魔界の奴らは一回シメる」
中性神フィーもこの結末を祝福していた。ただ、ボソッと聞こえる彼女の本音には、魔界の魔神への本心が見え隠れしているようだ。
四柱の神々は思い思いの祝福を人間界に授ける中、天使たちはその対応におおわらわしている。
やがてその作業がひと段落すると、女神アリスが口を開いた。
「ふぅ〜。これにて一件落着ね。シルバー、グレイ、フィー、可愛い天使たち。手伝ってくれてありがとう! さて、みんなでお茶にしましょう」
女神アリスがそう宣言すると、雲の床の上におしゃれなケーキやみずみずしい果物、美味しそうな紅茶など、様々な嗜好品がテーブルに乗って現れた。
「そういえば、フィーもそろそろ分化するんじゃなくて?」
女神アリスが中性神フィーに話しかける。
分化とは、中性神として生まれた神が女神になるか男神になるか選ぶ行為を指す。中性神フィーも生まれて千年は経つ。そろそろ分化の時期である。
「はい! そろそろ分化だと思うんですけど、フィーはすごく迷ってて......」
「あらあら、フィーはなにに迷ってるのかしら?」
「そのですね、フィーとしては女神としての体は柔らかくてふかふかで優しくて好きなんですけど、男神としての力強くてしっかりしたつくりの体もいいのかな〜って最近思い始めて...... アリスねえさまはどちらの体が好きですか?」
中性神フィーは女神アリスを見つめる。純真な瞳のその奥で、何か深くてドロドロした感情が見え隠れしていた。
「そうねぇ、どちらの体もいいと思うけれども...... うーん、私は女神として生まれ宝、女神の体しか知らないのよねぇ。そうだわ! グレイに聞いてみたらどうかしら? グレイはどちらの体も経験しているはずよ。」
話題に上がった男神グレイは、『えっ』となりながら中性神フィーに向き合う。
「グレイ、フィーが分化で迷っていてね、ちょっと助言を与えてあげてちょうだいな。」
そういうと、女神アリスはふわふわと漂いながらお菓子が山積みになったテーブルに近づいていった。
「あー、フィーさん。分化に迷ってるというのは......」
「......ううん! 大丈夫! グレイにいさまありがとう!」
そう言って男神グレイににっこり笑うと、中性神フィーはグレイを置いて女神アリスを追いかけた。
その様子をみていた天使たちは、コソコソと話し合う。
「フィー様だけどさ、絶対にアリス様のことがすきだよね? これって、数億年ぶりのドロドロ展開きたんじゃないかなぁ?」
「あー、それな。フィー様の性質って人間よりだな〜って思ってたけど、やっぱりか〜」
「絶対愛しちゃってるよ。間違いない。だって俺、人間界恋愛対策部門だけど、さっきのフィー様の態度ってヤンデレにそっくりだよ。」
「え、ヤンデレってなに? 最近の流行り?」
「きみヤンデレ知らないの? ヤンデレってのはね......」
「それよりさ、フィー様がどっちに分化するか、これって結構おおごとじゃない?」
「え、別にどっちでも同じでしょ」
「いやいや、違うでしょ! もし女神に分化したら百合だよ! 百合信奉者としてはやはり......」
「あぁー! そうじゃん! やばい、ぼくフィー様女神分化を応援する。」
「いやでも、フィー様はどちらでもお美しいとぼくは思うな」
「なに言ってんの。ぼくは断然......」
天使たちの会話は、お茶会が終わるまで続いたのでした。
人間界の恋愛劇はハッピーエンドを迎えました。女騎士と姫は結ばれて、幸せに暮らしたのです。
では、天界の恋愛劇は? 女神アリスと中性神フィーは一体どうなるのでしょうか?
そのお話は、また別の機会に。
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クリスティーナ 勇者の生まれ変わり
勇者だった頃はただのクリス
男みたいな名前だな〜って自分では少し思ってる
ちなみに勇者として選ばれたのは、アリスティティーナと同じく『ティーナ』で名前が終わっているから、ということも考慮された結果。両親が敬虔なアリス神教徒だったため、こんな名前に。
マリアローズ 魔王の生まれ変わり
魔王だった頃はただのマリア
魔王にしては聖女みたいな名前だけど、それがうけて魔神に魔王として選ばれた。名付け親は姉。
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アリスティティーナ 愛称:アリス 女神
素直、純粋、純真、うつくしいめがみさま
この世界の生命は皆等しく私の子供ってことで愛称で呼ぶ。
エルシルバー→シルバー
ラスグレイ→グレイ
ジャックフィオーネ→フィー
勇者(姫様、少女)→ゆーちゃん
魔王(騎士、女)→まーちゃん
エルシルバー 愛称:シルバー 男神
チャラい、フィーは幼いので「ちゃん」付け 実は結構真面目
この世界の生命は皆等しくおれの子供ってことで「ちゃん」付け
アリスティティーナ→アリスちゃん
ラスグレイ→グレイくん
ジャックフィオーネ→フィーちゃん
勇者(姫様、少女)→勇者ちゃん
魔王(騎士、女)→魔王ちゃん
ラスグレイ 愛称:グレイ 男神
真面目......に見えて意外と熱血漢というか猪突猛進、力こそパワー型
「さん」付けとけば丁寧だろ!!!(脳筋、敬語厨)
アリスティティーナ→アリスさん
ラスグレイ→グレイさん
ジャックフィオーネ→フィーさん
勇者(姫様、少女)→勇者さま
魔王(騎士、女)→魔王さま
ジャックフィオーネ 愛称:フィー 中性神
神々の中で一番幼いけど、実は一番したたかで有能。口も一番悪い、ある意味で一番人間に近いと言える
勇者と魔王に「さん」付けなのは、フィーの中で偉いのはアリスシルバーグレイだけだから。
二人には敬意は持つけど自分より上とは思ってない。
アリスティティーナ→アリスねえさま
エルシルバー→シルバーにいさま
ラスグレイ→グレイにいさま
勇者(姫様、少女)→勇者さん
魔王(騎士、女)→魔王さん
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