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変化はここに

「ふぅ……」


 今回の仕事も滞りなく完遂した。


 目の前に広がる、見慣れた惨状。相も変わらず、傷どころか返り血一つない俺の身体。


 さて、本隊は今頃どんな状況にあるだろうか。俺は戦場を後にしながら、ふとそんなことを考える。


 今回はあの軍師様自ら前線に立ち、指揮を執ることになっていたんだったか。まあきっと、例によって例の如く、奇跡的な勝利とやらを収めている頃合いだろう。


 一切の犠牲を払わずに一人勝利する俺と、多少の犠牲を生みながらも、歓喜の声に包まれる彼女。


 随分と差があるものだ。自らの手を汚さぬまま多くの敵兵を殺したという事実に、変わりはないだろうに。


 まあでも、彼女を選びたくなる気持ちもよく分かる。


 人の形をしていながら、人かどうかも分からない俺より、見た目も中身もちゃんと人の枠に収まっている彼女の方を信じるのが人間の心理というもの。


 そんな中、自らを人ではないと評した彼女には、流石に俺も驚いてしまった。


 あの言葉を聞いた瞬間こそ、まさかこいつは——、と思ったものの、よくよく考えてみれば、奇跡だ何だともてはやされて、自分を本当に神の使いか何かだと勘違いしてしまったのだろう。


——まだまだ若い。能力は高くとも精神は年相応だったってことか。


 そんなこんなで、誰に語り聞かせるでもない思考を巡らせながら野営地へと戻った俺を迎えたのは、数人の兵士たちだった。


「あ、あんた!」


 何やら様子がおかしい。そもそも俺に話しかけてくること自体異常なのだがそれはそれとして、彼らからは、まるで寄る辺を失ったかのような、興奮状態にある時特有の、何をするか予測がつかない危うさみたいなものを感じる。


「軍師様がっ、軍師様がっ……!」


 俺の目の前まで来た兵士たちは、酷く慌てた様子でそんなことを口にし出した。


「ああ? なんだ落ち着けよ。あの女軍師がどうしたってんだ」


 俺の少し苛立ちを含んだ声音に怖気づき、一気に静かになる彼ら。


 ちょっと失敗した。別に威圧するつもりはなかったんだが、まあ今までの扱いが扱いだ。自業自得と受け取ってもらおう。


「……軍師様が、敵に捕まった」


「……なに?」


 捕まった、とはつまり捕虜にされたということか。


 これはまずいことになった。あの女軍師は、国の勝利に必要不可欠。放っておけば、兵たちの著しい士気の低下と共に、戦局が傾くどころかそのまま一気に敗北しかねない。


「頼む——いや、お願いします。軍師様を、どうか助けに行ってはもらえないでしょうか」


 一人の兵士が、まるで一国の王に謁見でもしているかの如く膝をつき、頭を垂れた。続いて、他の者たちも同様にしてこいねがう。


 だが、こいつらがどれだけ懇願し、礼を尽くそうとも、俺の行動に影響は与えられない。むしろ腹立たしいだけだ。


「……物資は勝手に持っていくぞ」


 吐き捨てるようにそう告げ、彼らの横を通り過ぎる。


「っ、ありがとう、ございます……!」


 何やら背後から、歓喜の色を帯びた、絞り出すような声が聞こえてくるが、俺はそれに視線を送ってはやらない。


——俺はお前らに利用されてやるわけじゃない。


 俺があの女軍師を助けに行くのは、ただひとえに自らの生活のため。この戦争に負ければ、今までのような生活はまず続けられないだろう。俺の場合は、特に。


 そこまで考えて、腹から湧き上がっていた思いが、一息に鎮火された。


 俺もあいつらも、結局自分が助かりたいだけなのだ。人間離れした力があろうとも、その本質は何も変わらない。


 思わず笑みが零れた。

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