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ついに交わる

 石造りの城の廊下を、俺は膨らんだ麻袋をじゃらじゃらといわせながら一人歩いていた。まったくぼろい商売である。たったあれだけのことで、これだけの金が手に入るのだから。


 そのうちに、華やかに着飾った貴族たちや、清潔さと落ち着きを纏う使用人たちとすれ違った。不快げに歪められた顔がこちらを向く。


 随分と嫌われたものだ。


 せめて面倒事だけには巻き込まれまいと気持ち足早に廊下を抜け、だだっ広い玄関広間に差し掛かったところ、向こうから、二人の男を従えたとある女がこちらへと歩いてくる。


 そしてすれ違う瞬間、俺は女に対して声をかけた。


「なあ軍師様」


 すかさず二人の男が俺と女の間に立ち塞がり、こちらを威嚇するように視線を向けてくる。だがそれは虚勢であると、この場にいる誰もが理解していた。


「……何の用だ」


「そこの軍師様に聞いてみたいことあってな。すぐ終わる」


 俺はそう言いながら、彼らの後ろに立つ女へ向かって軽く顎をしゃくってみせる。それに苛立ちながらも、窺うように背後へと視線を送る男たち。


「……申してみなさい」


 肩口で切り揃えられた、輝かんばかりのブロンド髪の女軍師は、その怜悧な美貌を身体ごと俺の方へと向けて、そう答えた。


 体格こそ劣ってはいるものの、傍付きの男どもよりよっぽど迫力のあるその立ち姿は、未だ二十歳の女とは思えない。


 成程こんな奴には、きらびやかなドレスなんかよりも、今着ている簡素な衣服の方が断然似合っている。


 俺は彼女に、以前から尋ねてみたかったことを口にした。


「あんたは人間か?」


「貴様っ……!」


 すぐさまいきり立つ傍付き二人。それを制し、女軍師は静かに、まるで俺の真意を探ろうとでもするようにじっと見つめてくる。そして、


「いいえ。私はもう人間ではありません」


 そう、俺も予想だにしていなかった答えを淡々と発した。


 傍付きの男たちが驚き、振り返る。


「……そうか」


「聞きたいこと、とはそれだけですか?」


「ああ。手間を取らせた」


「いえ。では」


 男二人を従え、女軍師はまるで何事もなかったかのように、俺の問いかけなど、とうの昔に越えたとでも言うかのように去っていった。



 

 


 この国は、三十年ほど前から現在に至るまでずっと、隣の国との戦争を続けていた。


 戦争勃発から十数年後。軍に属することになった俺は、今の力、兵士たちの間では悪魔の業なんて呼ばれているこの力を手に入れ、たった一年で軍からお払い箱となった。


 当然のことだ。こんな訳の分からない、人を殺すためだけの力。誰だった怖い。

だがすぐに、俺は傭兵として、単独で動く、何かあればすぐに切れる駒として、再び戦場に立つことになった。


 端的に言って、その頃にはもう既に敗戦一歩手前だったのだ。

生き残るためには、それが悪魔であろうと力を借りる。これもまた当然のことであろう。


 それから俺は、一人戦地へと赴き、一振りで何十という人間を葬った。

何度も何度も、まるで羽虫を払うように、おびただしい数の人を殺した。


 それでも、戦況は苦しいままだった。


 一人がとある百人を殺しても、他の百人を殺すために二百人を消費していれば、差が埋まるはずもない。


 誰もが負けだと、これで終わりなんだと、そう考えていた。


 そんな時、彼女、あの女軍師は現れた。


 彼女はたった四年で、俺という反則を抱えてなお劣勢だった戦況を覆した。


 彼女の指揮のもと、侵略された村や町をいくつも奪還することに成功したのだ。


 それはまさに奇跡、神の御業であると、民衆は口々に称えた。

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