11.ティモシー・マリーノ
シャーロット・ガーディアンズはアメリカ東部、ノースカロライナ州にあるメジャーリーグ球団である。ティム・マリーノはその広報担当者であり、主に公式ホームページやSNSなどの管理を担当している。ガーディアンズのSNSは試合の速報、所属する選手の動向はもちろん、ベースボールにまつわるありとあらゆる情報を発信していていることで野球関係者には広く知られていた。
アマチュア大会の告知、新しいミットのレビュー、往年の名選手の動向、簡単にスコアをつけるためのアプリの紹介。今やベースボール業界に席を置く者ならばフォローするのが当たり前の情報発信サイトとなった。
ガーディアンズは、サイトの広告収入がスタジアムの広告収入を随分前に上回っている。SNSのフォロワーもメジャー他のメジャー球団を大きく上回っている。サイトやSNSをここまで育て上げたのはティムの能力があってこそである。今では情報の方から寄ってくる状態になったが、テイムはその卓越した情報収集能力、情報選別能力、そして情報発信能力を現在も存分に発揮し続けている。だからそのニュースにもすぐに気が付いた。
世界中のベースボールに関するあらゆる情報を収集、再発信し続けているティムから見ても、日本の高校生のチャンピオンシップ大会のクォーターファイナルで起きたワンマン・クアドラプルプレイには驚嘆するほかなかった。その偉業を成し遂げた高校生はユキノリ・ハナムラというケンセイハイスクールのプレイヤーだ。その名を見た時、ティムの頭脳に引っかかるものがあった。すぐさま手元の端末で検索する。
あった。
半年以上前、ティムはアプリを使った練習方法の記事をサイトに掲載したが、その記事について彼とやり取りをしたメールが見つかった。
よし。
ティムはこのビッグプレイについての記事を手早く書き、動画サイトへのリンクを埋め込んだ。もちろんガーディアンズにメールをくれた日本の高校生であることを強調した。ティムの目的はガーディアンズの存在感を高めること。ガーディアンズは遠く離れたジャパンの「有望な」ティーネイジャーも憧れる素晴らしいチームなのだ、と皆に思わせることがティムの仕事だ。
うーん、彼のキャッチフレーズがほしいな。
タイトルやキャッチフレーズは、その記事がバズるために大切な要素だ。少し調べただけで、彼がこの大会のこれまでの2試合で、満塁ランニングホームランを打ち、3塁ランナーとしてトリプルスチールを成功させたことがわかった。これらのプレイの共通点をうまく言語化できればいい。ほんの一瞬でティムはフレーズを思いつき、記事にタグを登録する。
#MrBasesLoaded
ちょっと言いづらいか? 次に、Bases Loadedを日本語でなんというのか調べてみた。
"マンルイ"
これは多数を占める英語圏の閲覧者にピンとこない。さらに調べると日本では英語風に "Full Base" という言い方もあることがわかった。マンルイと違って言いたいことはなんとなくわかるが、その分違和感も大きい。Base はせめて複数形にしろよ。だがこの奇妙な違和感こそが、逆にネットでは受けるかもしれない。ユキノリのキャッチフレーズと記事のタグが決まった。
#MrFullBase
ティムはここまでの作業を手早く終わらせると、また次の記事に取り掛かった。
セミファイナル、そしてファイルでもミスターフルベースの魔法から目が離せない。そう結ばれたティムの記事にはまたたく間に、ガーディアンズやその他のメジャーリーガーのコメントがつけられて拡散した。
「なんてことだ。こんなプレーは見たことがないぜ!」
「最後にきっちり三塁ベースを踏みに行く、クレバーな選手だ」
それを他の野球サイトが取り上げ、動画コンテンツの視聴者数の桁が増え、4大ネットワークで取り上げられる。そうなると日本のメディアの取り上げられ方も変わってくる。アメリカで話題になった高校球児、メジャーリーガーも注目。試合の翌日にはスポーツニュースでの枠を超え、ワイドショーが取り上げ始めたのだった。




