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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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もしかして、まさかの

 ワイズ領の料理、美味しい。スイーツはレイが嫌がるけど、料理は一応許可をもらっているので時々お弁当に入っている。王都でも段々流行ってきた。一気にすると分かりやすすぎるということで徐々に、がレイの取った手段だ。

 やはりというか食いついてきたのは東エリアから。

 リリーはかりんとうも買って食べたらしいし、ワイズ領の料理も私より食べている。彼女の味覚にとても合っているらしい。緑色の瞳を持って生まれたことといい、リリーって生まれた時からハミルトン先生のルートに行く運命だったのかも。

 休みの日にあまり外出しないようにリリーに助言しておく。王子も王城で働いていることが多いが外で出会うシナリオがあるのだから。

「窮屈かもしれないけど、ごめんね」

「ううん、全然。クラリスがいない時に会ったら私どうしていいか分からないから」

 えっと、後は……二年時は何があったかしら。王子ルートのヒロインは魔術師を目指していない。魔法も頑張るが他に体育、音楽、家庭科を選択し、特に努力していたのが体育だ。シナリオの場所も王城が多くなった。今のリリーの状況と違いすぎて……でもレイも言ったけど決定的なものが足りない。

 どうしよう、と考えているといつの間にか王子がこちらに来ていた。申し訳ないが悲鳴を上げたくなる。

 もう庭園でお昼やめようかしら。でもリリーが一番気に入っているのってここなのよね。ああ、だからここに来るのか。

「食べたのはそれだけなのか?」

 王子がリリーのお弁当を見て言う。開口一番にそれって……王子っぽいけど。

 リリーは口の中の物を飲み込みながらお弁当箱をしまう。私も口の中に食べ物が入っているから王子に返事できない。

「大丈夫か? それで栄養は足りているのか? あまりいいこととは思えないな、もっと食べるべきだ」

 うわあ……。何、喧嘩売っているの? 言い方は淡々としているけど個人の自由でしょうが。私みたいに食べても痩せるという変な人間にレイが「たくさん食べて」と言うのは分かるわよ、でもリリーはきちんとバランス良くたくさん噛んで食べているし食べているのに痩せたなんて話聞いたことがないわ。

 そもそも王子はいつお昼を食べているの? 早く食べるほうが胃に悪くない?

 私はまだお弁当を食べているためじと目で見つめて抗議する。王子は私を一瞥したがまたリリーに視線が向いた。

「王城に遊びに来る気はないか? うちの料理人ならお前もたくさん食べられるかもしれないぞ」

 いやああああ。何、なんでそこまで飛んでくるの。王子積極的! あれえ、こんなシナリオだったっけ?

 もう少し喧嘩腰で来たほうが拒否できるのに。

「ど、どうしてそんなに私に話しかけてくるんですか」

 リリーが顔を俯かせながらも言葉を発する。リリーは王子ルートのヒロインの性格とは違う。王子ルートのヒロインなら思い切り喧嘩を買って激しく言い争いをする。

 それにほっとして、私が邪魔をしようと何か言う前に王子が口を開いた。

「どうしてかは分からんがお前が気になる。……俺はお前が好きなのかもしれない」

「え……?」

 リリーも私も愕然とした。こ、こんな素直な台詞を王子は言わなかったわよね?

 片想いの状況で告白なんて王子という立場ではあり得ない。彼の真意はともかく無理矢理でも結婚すると言ったも同然だ。

 リリーの顔は真っ青だ。王子に言われたのだ、深刻さは彼女にも分かるはず。告白してその反応をされる王子は可哀想だけど。

 ここは学園。まだプロポーズではない。

「殿下。そのような発言を軽々しく仰るものでは……」

 私が注意しようとしていたらリリーが立ち上がり頭を下げた。私もつられてお弁当をしまいつつ立つ。

「す、すみません。私には好きな人がいます。……その方と将来の約束もしました。殿下には応えられません」

 リリー。私が言うより本人が拒絶したほうがいいとは思う。だけど、まさかリリーがここまではっきり言うなんて。

「婚約しているのか?」

 王子もどうしてここまで淡々としているのよ。

「い、いえ……」

「何故だ? 婚約できない相手なのか? ……すまんが、どちらにしろ俺が諦める理由にはならない」

 はい? あ、王子っぽい。傲慢でわがままだ。リリーが頭を下げたまま呆然としている。

 …………む、ムカつく。

「殿下、そのお言葉はあんまりではありませんか。貴方は好きな女性の幸せは願えない、と?」

「お前には関係ない」

 視線も合わせず言われた言葉にさらにいらっとした。

「関係ないのは殿下のほうです。聞こえませんでしたか? 彼女には両想いの方がいるのですよ。王子という立場ならリリーの幸せを奪ってもいいと? それとも自分のほうが幸せにできるとでも? それは勘違いというものです。断られながらしつこく迫る男性はみっともないですよ」

 王子の視線が私に向く。軽く睨まれたがお父様やレイの怒った顔を見たことがある私にはまったく怖くない。

「幸せにできるとお思いなら、今の彼女の青ざめている顔は殿下にはどう見えているのですか? リリー、大丈夫?」

 リリーはふるふると頭を横に振る。可哀想に、震えているわ。私が手を伸ばせば腕の中に入ってきた。その態度が何よりの王子への拒絶だ。

 私の言葉より何倍も効果的だったのだろう、王子は一瞬眉を寄せたが「すまん」と呟き後ろを振り返って去って行った。

 諦めた、ということではないわよね? 冷めた人間が初めて興味を持った人間だもの。


 王子が見えなくなってもぽんぽん、と背中を撫で続ける。頭の中のレイの怒りも王子に向いているから大丈夫。

「な、なんで? どうして?」

 とリリーは先ほどから疑問の言葉ばかりだ。そりゃあ王子に「好き」と言われたらねえ。

 ようやく落ち着いた頃、顔を上げてくれた。

「あ、ありがとうクラリス。私一人だったらあの後何も言えないままだった」

「私は大丈夫よ。安心して、絶対リリーを王子妃になんてさせないから」

 王子妃、という言葉にリリーがまた震え始める。

「ご……ごめんなさい、クラリス。私それは絶対にいや。王子を傷付けたと思うけど、それでもいや」

 ああ、あれ傷付いていたのね。いつまでも淡々としているから効果がないものかと思ったわ。リリーには分かったんだ。うーん、王子の理解者っぽくて怖い。

 それにしても、本当に個別ルートの王子らしくない言動…………あれ? そういえば、ハーレムルートの王子は個別ルートより喧嘩腰でなかったかも。この王子はハーレムルートの王子なんだ。

 ハーレムルートの始まりも王子からだったし、それならいきなりシナリオが飛ぶのも理解できる。喧嘩している場合じゃないものね。

 でも待って、確かあのルートも王子からプロポーズをされるわ。期間は一年時までだけど、王子が一番出番が多かったしプロポーズされたなら結婚する相手は王子なのでは、と考えられていた。ハーレムルートの王子のほうが喧嘩腰でない分個別ルートよりまだ人気があった。

 って、王子ルートより悪化してない?! 他の人と両想いでも王子と結婚って、まさに今の状況じゃない!?

 ゲームのバカ。素直に隠しルートに行ってよー!

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