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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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邪魔をしよう

 あれ以来、魔具の授業以外でも王子はリリーに積極的に話しかけてくる。

 喧嘩腰ではない。

 まだ好感度がそれほどだからかな。どうなんだろう。

 ゲームではそもそも一年時は喧嘩ばかりだし、二年になったら両想いかもしれないという言動は増えるがそれでも喧嘩ばかりだ。

 王子ルートって、恋心を全然認めずほぼ喧嘩しているから好感度が上がっても態度が変わらなくて分かりづらかったのよね。バレンタインデーでやっと意地になっているという描写があった。せめてヒロインにテストの一つでも勝たなければプライドが許さない、と。

 ブラッドリー達に嫉妬してたりもした。他を牽制してたってこと? えー、でもレイも牽制していると言ったけど、レイはずっと私に優しくて私が喜ぶことを率先してしてくれて、悲しいことがあったら慰めてくれて……王子のような態度だったらいくら牽制されても好きにならないと思う。

 ましてリリーの好きなハミルトン先生は好意を素直に言葉に表す人。笑顔も多くてツンデレの王子とは反対よね。

 実際リリーの王子への印象はあまり良くない。最初に言われた言葉が「ズル」だし、緊張もするでしょうし。ただ恐らく本来はぶつかる予定だった、初めて会った時の印象はつまらなさそうな顔。ブラッドリーは心配しているとも。

 王子の後ろにいつもいるけどよく分かったわね。

 ゲームのヒロインはつまらなさそうな顔をしているのは何故だろう、と心配するから喧嘩しながらも好感度が上がるのよね。

 ハミルトン先生との交流もゲームと時期が違うのがいくつかあったが王子とは喧嘩しない以上全然分からない。

 ゲームでは五月のテストで個別ルートに入り、次は庭園で出会う。その次は廊下で、休みの日に東エリアで会い、王都の庭園でのシナリオもあったはず。




 *   *   *




「花が好きなのか」

 昼休み、リリーとの待ち合わせ場所に向かっていて聞こえた言葉にぎょっとした。王子がリリーに話しかけている。

 早速庭園で出会うなんて。今まで王子に会ったことなんてなかったのに。前の授業がここから遠い教室だったから遅くなってしまったのが悪かった。

「王都の庭園に来るか?」

 リリーはぶんぶんと勢いよく首を横に振っている。王族相手に緊張している面もあるけど、リリーすごくいやそう。ハミルトン先生とのデートで王都の庭園に行きたいと言っていたのに。うん、一緒に行く相手は大事よね。

 顔を背けたリリーと目が合う。

「クラリス」

 私の顔を見るとほっとした様子で表情が一転して明るくなる。これは助けなければ。ゲームではクラリスは登場しなかった。だから私が二人の間に入ることはこのシナリオの邪魔になるはず。王都の庭園のシナリオもついでに潰せるか。ゲームでは喧嘩を買っていたので現実ではあまり答えないようにとアドバイスしていた。気持ち早足でリリーの隣に行く。

「殿下、申し訳ありません。私がリリーと約束していたものですから」

 学園で良かった。王城なら王子に逆らうことは許されないけれどここは学園独自の法律のほうが強い。

「リリー、行きましょ」

 こくこくと頷く彼女の手を取りたかったものの、レイの怒った顔が瞬時に頭の中に浮かんだためやめた。もう、やきもち妬きなんだから。

「どこへ行くんだ」

 王子に背を向けようとしたらすぐ声がかかる。リリーを庇うように先に行かせて私は頭だけ振り向いた。本当はここでお昼の予定だったけど。

「図書室です」

「俺も行ったらダメか」

「……殿下借りたい本があるんですか?」

 王子に読書の趣味なんてないはず。だからブラッドリーは一人で図書室に行って、彼のルートでヒロインと交流できるのだ。そもそもリリーの迷惑そうな顔が目に入らないのかしら。多分私もそんな顔をしてる。

「……俺にそんな顔をしてくるのはお前達だけだろうな」

 王子は不愉快そうでもなくただ淡々と言っている。やはり喧嘩腰ではない。ゲームでは「何だその顔は! 失礼な奴だな。平民なだけのことはある」と大変気に障る台詞を吐いていた。よく思えばそんなことされてもリリーには迷惑だし、嫌われるだけよね。ツンデレって双方に好意がなければ成り立たないのかもしれない。

 王子のルートって、確かに王子はツンデレなんだけどヒロインに未知の魔法を教えたりいじめから守ったり好感度を稼ぐシナリオはきちんとあるのよね。特に夏休みや冬休みはヒロインに会えないことに焦れた王子が「平民を案内してやろう」と傲慢な態度でも首都の観光地を巡って詳しく教えてくれた。

 案内する中で彼の王子としての自覚ある言動にヒロインは彼を見直す。きゅんときたところで喧嘩してしまうからあれなんだけど。

 もうすでにハミルトン先生と両想いのリリーにはゲームで好感度の上がった行動をしても意味がなさそうとは思うが、念には念を。シナリオを邪魔して、まずリリーと二人きりにさせないようにしないと。図書室はいい避難場所ね、頭の中にメモしておこう。

「それでは失礼します」

 恭しく頭を下げつつ足早に遠ざかる。王子はついてこなかった。


「リリー。大丈夫?」

「う、うん……な、何なんだろう? 最近よく話しかけてくるの」

 リリーにはまだそのくらいの認識よね。ゲームのヒロインも王子を好きだと気付いたのは冬休みら辺だった。リリーが王子を好きになることはないでしょうけど。

「さあ? 魔力の高いリリーが物珍しいんじゃないかしら?」

 興味を持っている、という言い方はやめて早く図書室に行きましょうと促した。

 お昼は図書室近くの空き教室で食べることにする。どのみちお昼を食べたら図書室に行く予定だったのだから嘘ではない。

 あまり王子に関わってほしくないが、今日は魔具に関する書物を探す予定だ。授業を受けて、魔術師になるためにもいろいろ勉強したいとのこと。

 リリーが魔具を壊したことをあまり気にしていないようで良かった。ああいう一回きりの物はお手頃な価格が多いし、先生もすぐに代えを用意してくれたからかしら。リリーは最初魔法を暴発してしまったようだから、それを考えればあの出来事を気にするより次を防ぐために予習しようと前向きなのは嬉しい。リリーも魔法を使うことが日常になっているのね。

 しかし、王子のことがある分人に対してはより閉鎖的になってしまったような。王子のバカ。

 王子はリリーが魔術師を目指していることには何も言わない。これも好感度が低いからなのか魔術師になることをあまり重要視していないからなのか。魔術師になろうと王妃っていいんだっけ? 将来の王を生む可能性のある女性を戦いに、なんて魔術師は後方にいることが多いとしてもダメよね? 仮に側室だとしても関係ないはず。じゃあまだ好感度が低い可能性が高い、のかな。

 ああ、何も分からないわ。何がどうなっているのやら。


 王子のお気に入りかもしれないという噂は広がりつつあるものの、リオンの時とは違い令嬢達からのいじめは受けていない。リオンはどれだけすごかったの。

 まあ、いつぞやのオーデッツ伯爵令嬢達に対してお父様やレイがすごいことをしたらしいから、それでいくら王子のこととはいえリリーに近付こうとする人がいないのかも。彼女達がどうなったのか詳しく知らないが、少なくとも学園にはもういない。二人に感謝だわ。

 それから都合がつく日はリリーのクラスまで迎えに行くようにした。クラスは以前と変わらずざわつくがリリーからは嫌がられていないのでいい。


 図書室にはブラッドリーがいた。いつもは王子の後ろにいるけど昼休みは別。ゲームのシナリオもほぼ昼休みだった。

 彼はどうなのかしら。何も発言しないでずっと無表情のままだが、リリーのことはどう思っているのか。今日も視線は合わない。

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