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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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ルートの潰し方

 夕飯後、ケーキを持ってうちに来たレイに思わず抱きつく。レイは最初嬉しがりながら私を抱きしめ返してくれたが、私の動揺している様子を見て眉を中央に寄せた。

「何、何があったの? 何でも言ってクラリス」

 魔具の授業での出来事を告げる。せっかくレイの誕生日でチョコのムースケーキを作って持って来てくれたのに。

 出会いからなくなっていたと思っていたけど、どうして今になってルートの台詞が出たんだろう。

 王子というのが良くない。

 王子に気に入られて求婚されたら、一令嬢が断れるわけがない。それは困る。リリーには愛し愛される人がいる。二年後には順調に婚約できるはずだったのに、今そんなことを公にしたらハミルトン先生が問題になってしまう。

 レイは私を安心させるように頭を撫でつつも眉を寄せたままだ。

「そもそも彼女って元平民だし養子先も伯爵家でしょ? 殿下の相手になれるとは思えないけど。苦労する道しか思い浮かばない」

「リリーにそんな苦労絶対させたくないわ」

 愛する相手のためなら頑張れるかもしれないが、リリーはそうではないのだ。

「王妃教育ってすぐにはできないわよね?」

 リリーが社会の選択を地理にしていてよかった。歴史や政治、経済だったら王妃教育に近いことになってしまう。後体育も選んでいなくて助かった。王族は当然命を狙われることもある。王妃に相応しいのは何事にも秀でた人間だ。自身の身を守れることは大事である。いくら魔力が高くても王城は魔法禁止のエリアが多い。美術品に詳しいのはちょっと……だけど、音楽が何もできないというのもいい。

「リリー・シーウェルがハミルトン先生を選んだことで二年時の選択科目も変わったのかもね。今の授業選択は非常にいいよ。王妃から遠ざかる」

 まあ、王妃に必要な授業はほとんど受けてないわよね。

「魔術師になりたいというのはいいね。殿下のルートを潰すというなら、そこかな」

「そうなの?」

「王妃が魔術師になるなんてあり得ないからね。何としてでも彼女を魔術師にしないと」

「魔術師って卒業後よね?」

「そうだよ、それがいいんだ。卒業するまで王妃教育ができないようにするのが一番いい」

 確か王子のルートではアフターストーリーで猛勉強している、と一文で終わっていたけど大変なことよね。覚えているゲームのことをレイに話す。

「殿下のルートだと、プロポーズが二年の夏休み。アフターストーリーはさらに一年後か。まあそうだろうね。両想いで歓迎されているならいいね。もしクラリスが王女で僕が伯爵家だとして、すでに周りが歓迎してくれて君を得るために必要なのが僕自身の努力だけだというなら喜んでするさ。君に相応しくなるための努力を惜しむつもりはない」

「レイはもうすでに十分でしょう?」

「まだまだだよ。来世も一緒になりたいんだから。僕は貪欲だって言ったでしょ? これから徳を積んで、必ず来世も一緒になってみせる」

 昨夜の女神様へのお祈りって、それだったのかな。私をぎゅっと抱きしめてちゅ、と頬にキスを送られた。


「シーウェル伯爵はどうかな。王子との婚約って、いくら玉の輿でも諸手を挙げて祝うことはできないでしょ。ましてリリー・シーウェルに他に好きな人がいる状況でなんて。そっちとさっさと婚約させたくなるのが親心じゃない?」

 リリーの養父はリリーに好きな人がいることすら知らないんじゃないかしら。今は告げられないわよね。それをレイに伝えると

「……なるほど、ね。僕がワイズ領で出張ったからか」

 ぼそりと呟く。どういう意味? レイの顔を見つめたけど答える気がないらしく首を横に振られてしまった。

「そもそもまず殿下が周りから反対されるはずだよ。さすがに彼は自身の片想いの状況でプロポーズするほど浅はかな人間じゃない。ゲームでもそうだったでしょ?」

 こくりと頷く。ゲームでもプロポーズは最後。両想いと分かった後。



「国を背負い苦楽を共にする一人を選ぶなら、俺はお前がいい。――どうか、俺と生涯を共にしてくれないか」



 王子の佇まいで真面目にプロポーズしていた。詳しく書かれていないがアフターストーリーで「周りから了承を得た」という発言もあった。

 人気はあまりないが、冷めている人間がいろいろな感情を経験していく王子ルートはゲームの正ルートとも言われている。シナリオも多く、最も国の事情が書かれていてあまりに感情を持たない王子を心配していた国王夫妻がヒロインによる王子の成長を見て国の将来に安心するのだ。

 ノア王子には妹と弟が一人ずついる。ただ年が離れすぎている上に第二王子はのんびりとした人物らしくすでに陛下もノア王子を跡継ぎに指定している。第二王子は王としての教育も受けていない。……まだ御年五歳だから当然といえば当然よね。


「放っておいても殿下の片想いである限り大丈夫そうだけど、クラリスが不安ならどうにかするよ。君が悩む原因は全てなくしてあげる」

「頼りにしてるわね。お願い、レイ」

 両手を合わせて頼めばレイは力強く頷いた。

「任せて。クラリスには安心して僕のことだけを考えてほしいからね。殿下だろうと容赦しないよ。ただちょっと時間がかかるし、学園内での出来事は僕には干渉できないから。ムカつくけどクラリスはなるべくリリー・シーウェルの傍にいて離れないで。殿下が彼女と近付く要因をなくしてね」

 了承すればレイはにこりと笑う。

「僕がしたことでこうなったのかもしれないから。挽回するよ」

 挽回? レイがいつどこで失敗したの? レイは私の疑問には答えず「がんばるよ」とだけ言ったので私も頷いた。


「さ、ケーキ食べようか」

「うん。レイ、改めてお誕生日おめでとう。まず私の話を聞いてくれてありがとう」

 私から頬にキスを送る。レイは嬉しそうに準備をするとお皿とフォークを持って私に食べさせてくれた。

「んー、柔らかくて美味しいわ」

「ふふ、良かった。クラリスの不安をなくすのが先決だよ。僕にも食べさせて」

 フォークを渡され、レイが口を開けて目を瞑る。レイは普段自分で食べていた。あんなにレイからばかりだったのに、一回したらあーんの良さが分かったのかな。

「はい、あーん」

「ん。あー、美味しい。クラリスに食べさせてもらうと全部がより美味しく感じる。もっと早くしてもらえば良かった。クラリスもいっぱい食べてね」

 フォークを交互に持ちながら相手に食べさせた。……私一人だけで食べるよりいちゃいちゃしている。案の定口元にクリームがついたら舌で拭われ、レイの分もあるからかいつもより食べるのに時間がかかった。


「昨日から最高の誕生日だったよ。ありがとうクラリス」

 食べ終わり片付けも終えるとレイが唇を合わせてきた。当たり前だがチョコの味がする。

「授業は大丈夫だった? 眠くならなかった?」

「ええ、大丈夫だったわ」

 王子のことがあってそんなことは吹っ飛んでしまっていた。レイは頬を撫でてくる。

「ふーん……まあ良かったよ。ところでクラリス、明日の髪型は耳を出す予定ある?」

「……? ないわ」

 いきなり何かしら。私の答えにそう、と目を細めたレイは私の横の髪をかき上げたと思ったら耳の後ろに唇を押し当てた。舌で舐められ、吸いつかれる。ちくり、と痛かった。

「レ、レイ?」

「大丈夫だよ、見えないところだから」

 な、何が? レイは顔を離し自分が唇を押し当てたところをじっと見つめる。

「ああ、思っていたより綺麗についた。ふふ。僕の印」

「……? 私には見えないわ」

「うん、それいいよね。僕しか知らないこと。キスマークをつけたんだ」

 キスマーク? 聞いてみれば……ああ、レイが好きそう。

 つ、と人差し指で首をなぞられる。

 きゃあっ、何をするの。

「首につけると上着がいるからね。それはまた今度にするね」

 はい、と返事することしかできないくらいレイは上機嫌に綺麗な笑顔を浮かべていた。

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