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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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ホテルの夜

 お店を回って、必要なら交渉もして。明日巡る観光地も決めて夕食後ホテルに戻ってきた。

 ああ、そういえば使用人はいないから着替えもお風呂も全部私一人なんだわ。

 レイは隣の部屋、リリーは予約した人が違うためか違う階の部屋だ。ハミルトン先生は屋敷に帰っていった。

 ホテルに泊まったことがない私のためにあらかじめレイが部屋の案内時にいろいろ使い方を教えてくれた。自室の寝室より狭いけど不便はない。前世の知識はあまり役に立ってくれない。悲しい。

 浴槽に浸かりたかったがシャワーで済ませた。夜着を身に付けて、明日起きる時間を目覚まし時計で設定する。全部魔法でやった。

 結構疲れたから早々に寝ようと思ったらこつこつと扉が叩かれた。クラリス、とレイの声がする。

 寝る気満々だったので急いで上着を羽織り扉を開けた。

 レイは私が夜着だったことに驚き謝ってくれたがそれはいい。話したくて来てくれたらしい。レイもシャワーは浴びたみたいだけど服は外出用のスーツだ。

 特に不都合はないため招き入れた。感謝もしたかったからちょうどいい。ソファーに座ろうとしたら何故かレイの膝の上に乗せられてしまう。全然抱きしめられなかったから、と抱きしめられた。

 全然……? 私の記憶と違うような? まあいいわ。

「髪紐で結んでいないクラリスも可愛い」

 と早速頭を撫でてくる。


「ありがとうね、レイ。一日ですごくいろいろ回ることができて楽しかったわ」

「それなら良かった。足疲れてない?」

 大丈夫よ、と答えたけど本当は少しつらい。レイは少しだけ笑みをこぼし私の足に回復魔法をかけた。

「明日も歩くんだからこれくらいはね」

 レイに秘密は無理ね。前世のことは未知のことで分からなかっただけだわ。

「ありがとう。さすがレイね。お花畑の観光地化もスムーズに進んでいてすごいわ」

 今日一日だけで大体の方針は決まった。後は細かな調整をするだけ。令嬢である私にできることはとても少ない。レイがいてくれて本当に良かった。

「クラリスが望んだから僕は動こうと思ったんだよ。それに、正直に言えばクラリスが先生の領で作られている茶葉や食べ物を贔屓にすればそれだけでいいんだ。“イシャーウッド公爵令嬢ご贔屓”という言葉がつくだけで潤うさ」

「うん、それを最初に考えてたんだけど……そう簡単にいくかしら」

 自信はなかった。ただお父様にお願いしていっぱい買って学園内で流行らせることができればいいな、と思っていた。うちが買うだけでも結構儲かるはずだ。

 レイは何てことないように軽く言う。

「大衆なんてそんなものだよ。領の中ではウケているから品質に問題がないのは分かってるんだ。ちょっと広めればいいだけさ。まあイシャーウッド家が大衆から支持されていることが前提だから、そこはお義父様のおかげかな」

「そうだったのね。それなのにわざわざ手伝ってくれてありがとう」

「ううん、これは僕の心の平穏のためだから」

「……?」

 首を傾げると誤魔化すような半笑いで頬を撫でてきた。

「茶葉は仕方ないとして、クラリスが僕が作ったスイーツ以外を贔屓にするのが許せなかったから完全に独立させたいだけ。ワイズ領を贔屓にするって噂が立つこともいやだった。クラリスの周りに僕が関係しないことが存在することが看過できないんだ」

 カフェでの件もそれか。レイに関係しないことが存在? ああ、学園関連の嫉妬もそれなのかな。

「……レイって、結構独占欲強いのね」

「嘘でしょ、今更気付いたの?」

 驚いた声がやがて苦笑に変わり、眉を下げる。自信がなさそうな弱々しい声で呟かれた。

「…………いや?」

「ううん、嬉しい。私はレイだけのものだから、独占して当然だもの」

 抱きつけばすぐ背中に腕が回される。彼の腕の中が一番安心する。レイがすることでいやなことなんて何もない。むしろそれでワイズ領を豊かにしようと奮闘してくれているのだから、私は彼に惚れ直すばかりだ。本当に、私はレイが大好きだから不安にならなくていいのに。

「私レイのスイーツ大好きだけど、一番好きな理由はレイが作ってくれるからだと思う」

「そりゃあもう、たっぷり愛情を込めているからね」

 わざとおどけた調子で言う彼が愛しい。レイが作った物なら、例え失敗作だろうと美味しいと感じてしまうかもしれない。それを思えば彼が作り始めた時から食べられなかったのが残念だ。私が作ったクッキーを少ないからとお父様にあげたことを告げた時レイが怒ったのも今なら理解できる。

「私もレイに何かできればいいのに」

「今の台詞で十分だけどなあ。クラリスは無自覚に僕をいつも幸せにしてくれるよ」

「もっと幸せにしたいの」

 レイを不安にさせないくらいに。それなのにレイは困ったように笑った。

「これ以上? 正直結婚前だから僕の許容量を超えない程度でお願いしたいんだけど。何回か超えそうになったことあるんだよ?」

 超えたらいけないものなの?

「えっと、つまり結婚後ならいいってこと?」

「…………いいけど…………クラリス、その時は覚悟してね」

 顔をじっと見つめながら真顔で言われ、よく分からないが頷いておいた。覚悟はできてるつもりなんだけど、私の覚悟じゃ足りないの? 本当に、レイになら何をされてもいいのに。どう言えば伝わるんだろう。考え込んでいた私は、レイが疲れた顔で「だからそういうことを伝えなくていいんだよ」と呟いたのを聞き取れなかった。


「僕は嫉妬深くて独占欲が強くて、後束縛もひどいよ。それでも不安になるんだからどうしようもないって自分でも思うけど、言ったでしょ、クラリスが傍にいてくれればいいって。笑って。クラリスの笑顔が僕の安心の源だよ」

 穏やかな笑顔でそっと柔らかいキスをされる。

 ああ、本当に秘密は無理だわ。レイ、気付いていたのね。もしかしてリリーとの会話も聞こえていた? ハミルトン先生と話しながら? すごいわ。

「あの……」

「ストップ」

「え?」

 顔の前に手を置かれる。あ、あれ? 私が言ったことがあることも心の底から思ってる、って言いたかったのに。我慢しなくていい、何でもしていいって。

「聞いていなかったでしょ。そういうことは伝えなくていいから。今のこの状況分かってる? ホテルの部屋で二人きりで君は夜着で。僕結婚するまで手は出さないってお義父様と約束しているんだよ。今回のだって無言の圧力をかけられた上で君と二人きりが実現しているんだ。何かしてしまったらどうなることか。そりゃあ今抱き寄せてキスもしている僕が言うことじゃないの分かってるけどね? 僕の理性を考えて」

 そう言われるということは私レイのこと考えてないの!? 失礼なことをしてしまっているのね。

「ごめんなさい」

「ち、違うよ。ああ、不安にさせたくはないんだ。ごめんね、僕の理性がぺらっぺらだからクラリスに迷惑をかけている」

 …………?????

 な、何を言っているのか全然分からない。私はこういうところがいけないのね。レイも戸惑っている。

「えーと……僕が理性をなくしてクラリスを襲わないように、もう少し言動を控えてってことで……」

 襲う? 私レイに攻撃されるの? なんで?

「ごめんなさい。怒ってる?」

「怒ってないよ。だから、丸呑みしてしまいそうだからクラリスの発言が柔らかいといいな、と」

 子作りの言い方っていろいろあるのね。ああ、そういえば手を出すも殴るという意味がある。もう少しメイド達から聞こう。成人したのだから話してくれるかしら。

「レイはそんなに私と子作りしたいってこと?」

「……!!!!!」

 したいならしていいのに、レイ曰くダメなのよね。レイはしたいけどできなくて、それで私の発言でしてしまいそうで……理解が難しいわ。

 首を傾げつつレイと顔を合わせる。

「あの、もう少し具体的に、どんな発言がダメなのかしら?」

「……そこが微妙だから僕苦労しているんだよ。君が受け入れる台詞に暴走しそうだけど助かっている部分もあるし……僕が一切手を出さないならできるかもしれないけど、ちょっとそれは我慢の限界だし。……ごめん、キスしておいてこういうこと言うの、結構矛盾しているって気付いてる」

「……? キスは悪いことじゃないでしょ? 私レイとのキス好きよ。なくなるのはいや」

「~~っ……! ああ、押し倒したい。ベッドに沈めたい。本当にもう剥きたい」

 沈める? むく? って何?

 用語が難しい。結婚したら教わることが多い。

「早く結婚したいわね」

「本っ当にね!」

 実感が籠もってる。お父様も、レイと変な約束をしたものね。そう言ったら「いや、それは理解できる」と言われてしまった。どういうこと?


 レイの顔をじっと見つめる。レイの目が細くなり、手が私の頭の後ろに移動して顔を近付けてきた。

「んっ……」

 ちゅ、ちゅ、と角度を変えて何度もキスされる。唇を甘噛みされて、合わせる時間が長くなる。

 気持ちいい。レイの首に手を回して応えれば舌が入ってきた。

 舐め回されることも気持ちがいいけど、息はいつもより苦しい。

「ちゅ……んむっ、……はぁ……」

 開けようと思った瞼が重くなっていく。思っていたより疲れていたのか私はそのまま意識が途切れてしまった。

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