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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
一章 ゲーム開始前~レイ×クラリス~
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二重奏②

 ディーン・アリンガム。

 初期からいる、先輩ポジションのキャラ。そういえばレイモンドとは親友だった。

 魔法でも音楽でも天才なんだけど、いかんせん口が悪く、ほとんどの人間が自分よりバカだと思っている。最初はヒロインの才能に目をつけて、それから何かと目をかけるうちに恋が芽生えていくというストーリーだ。俺様のわりには常識人で、ヒロインと切磋琢磨して魔法の研究に打ち込む、まさに頼りになる先輩といったシナリオ。王子のルートよりも見初められたシンデレラという気分が味わえる。落ち込むヒロインに普段の口の悪さを潜めフルートを吹くスチルは圧巻の一言だし、卒業時にヒロインからだけ花束を受け取り

「あんたの卒業まで待ってやる。攫いに行くから覚悟しろ」

 と跪いてプロポーズするのも素敵だった。

 私一番好きだったのよね。

 ちなみに親友という関係上、「さっさと告白しろ」とディーンをせっついたり「君はディーンだけ見ていればいいだろ。クラリスは僕の婚約者だ」と嫉妬するストーリーは彼のルートで出てくる。一番クラリスとレイモンドがラブラブっぷりを見せつけるので「レイモンドルートを見てしまうとつらい」といった理由で敬遠されてしまいあまり人気が出なかった。とんだとばっちりだ。


「もう二度と会わないのに自己紹介なんていらないだろ」

「てめえなあ……ん? いや、年齢的には数年後に学園で会うだろ。確か二つ下だよな?」

 頷こうとする前にレイが口を挟む。

「学園が一緒だからって会ったり話したりする機会なんてないと思うけど。学生が何人いると思ってるの?」

「いや、だから偶然会うこともあるだろうが。さっきからてめえは……」

「もういい。後日また予定を組むから、お願いだから今日は帰ってくれ。クラリスと話してほしくないし君がクラリスの視界にいるのもいやだ」

「………………てめえ」

 完全に呆れている。

 ディーンが攻略キャラな以上会うとは思うけど、それを今言うわけにもいかないし。レイが私に他の男性と話してほしくないのはいつものことだが同年代ということもあって当たりが強い。とても早口だ。

 ふと、彼らの近くにある物を見る。

 ヴァイオリンとフルート。

 そうだ、彼はフルート奏者だ。ゲームではレイモンドとの二重演奏もしていたではないか。

 ちらちらとヴァイオリンを見つめてしまう。これから弾くのだろうか。聴きたい。いや、でも……。

「……クラリス。もしかして、聴きたい?」

「い、いいの?」

 レイのヴァイオリン。あ、ついでにディーンのフルートも。

「あ、いや。やっぱり私邪魔だから帰……」

「クラリスが望むならいいに決まってるよ。ぜひ聴いていって。――演奏したらさっさと帰れよ」

「…………オレはてめえをぶっとばしても許されると思う。あーあ、やだね色恋に狂った奴は。オレならもっとスマートにするぜ」

 確かにディーンはヒロインにいつも優しいけど、ヒロインの同級生に嫉妬したりもしていた。



「あんたはオレだけ見てろ。オレはあんただけを見てるんだから、そうしねえと不公平だろ」



 と額を合わせて言うスチル。うん、あれもなかなか良かった。

 なぜ、なぜこのルートの人気があまりないのか。レイモンドのせいだ。目の前のレイとは誓って別人である。

「あの……すみません」

「んあ? ああいや、あんたのせいじゃねえだろ。どう考えてもこいつ。つーか、オレの口調気にならねえ?」

「……? いえ、別に……」

 公爵家の令息としてはおかしいのかもしれないが、口調なんて個人の自由だし。悪口を言われているわけでもなくただ単に口が悪いだけ。特に気になることはない。

「ふーん。気にならねえならいいや。オレこういう口調だから、よろしく」

 頷こうとしたらまたレイの苛々とした声に遮られ、少し移動したことでディーンが見えなくなる。

「――だから話すな。クラリス、特等席のイスを用意するからちょっと待っててね」

 ぽん、と頭を撫で、近くにいた執事にイスの移動を命じた。

 私に対する態度はいつも通りだ。やっぱり婚約者と同性の親友じゃ態度が違って当たり前か。不機嫌な口調でも私が会う他の男性に対するものとは違う。いつもならすぐに殺気を放ち寄らば斬るみたいな感じなのに、仲がいいんだな。私にあの態度を取られるのはつらいから羨ましいとは思わないけど、厳しい顔をしているレイも素敵よね。


「…………」

 用意されたイスに座るが、気まずい。レイが立っている少し左斜めの位置に置かれ、彼らを縦一線で見ることになっている。ディーンは遠いし、前に譜面台があるので姿があまり見えない。ディーンを見ようと体を傾けるとレイが移動してしまう。

「レイ……」

「ん? なあに?」

 にっこりと擬音がつきそうな完璧な笑顔。特等席って何だっけ? 確かにレイの顔はよく見えるけど。うーん、レイが不機嫌なままなのはいやだし、フルートの音は聞こえるからいいか。何でもないとイスに礼儀正しく座り直していたらディーンの声が聞こえて彼の顔がレイからひょいと出てきた。

「あんた苦労しないのか、こいつの婚約者で」

 苦労? まったくしたことがない。

 首をひねると信じられないものを見るような目で見られた。レイがディーンのほうを向く。

「あまり見るな。クラリスが汚れる」

「オレの視線が汚ねえみたいに言うなよ!」

「きれいだと思ってるの? 本来なら視界にも入れたくないのを我慢しているのに」

「……なんでてめえと友達なんだっけ?」

「君の口が悪くて人が寄ってこないのと他人をバカにして君自身も近づかないからかな」

「……てめえの嫉妬深さに比べればオレの口調なんてまだマシじゃねえか」

 仲いいなあ。レイにとってディーンは気安い相手なのね。そうでなければもっと冷たい対応をするはずだ。私はお茶会に誘う友達はいても親友と呼べる人はまだいない。ゲームだとヒロインと親友設定だけど、仲良くなれるかな。もしヒロインがディーンを選ぶならいっぱい応援しよう。ダブルデートとかもあったもの。うん、そう考えると楽しみになってきた。




 *   *   *




 演奏が終わって、聴いていた使用人達と一緒に拍手する。立ち上がって二人の近くに歩いて行く。

「素敵でした! ヴァイオリンとフルートのデュオは初めて聴きましたけど、とても良かったです」

 ゲームでは演奏の音は流れないからディーンの演奏は評判でしか知らなかったがすごく上手だ。そりゃあ演奏してほしいと集まりに呼ばれるはずだ。

 私が聴くコンサートはほとんどオーケストラだし、レイが予約してくれるのは他の観客と会わないVIP席で演奏する人も年齢層は高い人が多い。ソロコンサートの場合も一番若くて30代の方の演奏だったはず。

 二人に感想を伝えているとだんだんとレイの表情が暗くなる。

「なんでディーンに対してばかり話すの?」

「え、そんなことない、ですよ?」

「でも敬語でしょ」

「こっちのほうがどちらにも失礼じゃないかな、と思……いまして」

 ディーンを見ると彼が怒られるので視線はフルートに合わせつつ、交互に見つめながら言う。はあ、と嘆息しながらディーンが頭を掻く。

「あー、いらねえよ敬語。こいつがうるせえし」

「……敬語を使わないくらい親しくなるのもまたムカつくなあ」

「どうしろってんだ」

 うん、さすがに私も同意見だ。ディーンはもういいとばかりにフルートを仕舞いに行ってしまった。レイと向かい合わせになって、あらためて感想を告げる。私を見つめるレイの顔はいつも通り穏やかである。

「レイはいつも通りかっこよかったよ」

「ありがとう」

「私、レイの演奏本当に好き」

 にこにこしながら話しているとディーンの呆れた声が響く。

「…………ああおう、オレがお邪魔虫なのはよく分かったわ」

「分かるのが遅い。ほら、出口はあっちだよ」

 指差すレイの向こう側にいるディーンに問いかける。

「もう帰られるんですか?」

「ああ。なんか疲れたわ」

「あの、また来てくださいますか?」

「クラリス?!」

 面を食らったように私を見るレイをちらりと見返してからまたディーンのいる方向を見つめる。

「ディーン様が来たら、また演奏するかなって思ったんだけど……あの、もうしませんか? レイが本当にかっこよかったからまた聴きたいです」

「そんなの。クラリスが望むならいくらでもソロで弾いてあげるよ」

「本当!? ありがとう」

「…………はは。ったく、じゃあな」

 力なく笑ってディーンが扉のほうへ向かっていく。レイも視線を一瞬ディーンのほうへやった。

「見送りに行ってくる。ここで待ってて」

 頷けば一回頭を撫でられて、レイがディーンとともに音楽室から離れていく。

 友達にも見送りするんだ。

 私の場合は屋敷まで送ってもらうから、長くなるかも。またイスに座っていたほうがいいかとイスに向かう。

 わーい、またレイのヴァイオリンが聴ける。

 ………………。

 ……あれ、ソロ? それはいつも聴いていたのと変わらないんじゃ……デュオは?

 あ、ディーンに了承の返事もらうの忘れていた。

 後でレイに聞いてみようかな。


 ……ディーンとともに玄関へ向かったレイがちょっと怖い顔してたのは、気のせいかしら。

俺様なのに常識人なディーン。

隣に非常識がいますからね。

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