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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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いざ出発

 旅行当日。

 集合場所は学園の植物園前にしていた。私達やハミルトン先生は徒歩で、リリーは空間魔法が使えるがメイドさんが一人付いていたので馬車で来ていた。人数のあまりの少なさに戸惑っている。

 ハミルトン先生は自身の領だし元々使用人は付けていないらしい。

 私達は身の回りに関する魔法が使えるから大丈夫だと伝えたら納得してくれたけど、レイをちらりと一瞥していた。うん、まあ、リリーの思っている通り原因はレイです。リリーよりも後ろのメイドさんのほうが非常に動揺していた。リリー、後で説明よろしく頼むわ。

 ちなみに荷物は変化魔法で小さくしてポケットに入れている。なので私とレイは本当に身軽だ。

 リリーはとても知りたそうだった。……本当に魔術師目指してないのよね? リリー、すごい。二年生からの選択も魔法の授業を限界まで入れているらしいし……レイもあまりの勉強熱心ぶりに若干驚いている。

「なるほどね。殿下を抜かすくらいだもんね、納得したよ」

 小声で私に言っていた。そうなの、すごいでしょと自慢したいが本人の前だし嫉妬しそうだったのでやめておく。ハミルトン先生が後で教えると笑って約束していた。

 学園の教師だからって、ハミルトン先生の教えられる範囲も広いわよね。すごいなあ、と思っていると私の腰にあるレイの手に力が籠もる。顔を上げるとレイがにこりと不自然なほど綺麗に笑っていた。……視線が悪かったのか思考が悪かったのかどっちだろう。多分両方なんだろうな。安心させるようにレイの手に手を重ねて笑い返せば笑顔が和らぐ。うーん、レイは本当に嫉妬深いから気を付けなきゃ。

 ちなみに、私は分からなかったが私達を見慣れていないハミルトン先生が唖然として、見慣れているリリーに説明されていたそうだ。説明が必要なほど珍しいレイの笑顔って何? それを毎日見られる私は幸せな人間である。


 リリーの紅茶の師匠である執事のオーウェンはついて行きたそうだったが紅茶をお土産にすると約束して納得してもらった。レイに告げれば「ああうん、分かった。彼の休暇を取ってハミルトン先生が男爵を継いだら屋敷で話せるように、ね。覚えておくよ」と言ってもらえた。レイが約束を忘れるとは思っていないので安心だ。そう考えていると「クラリスとの会話なら今までの全部覚えているよ」と訳が分からないことを言っていた。いくら冗談が嫌いなレイでも嘘よね? ……嘘よね? 確認するのは怖いからしないわよ?


 空間魔法を助ける魔具はいろいろあるけど、レイが今回使うことにしたのは往復用の物だ。あらかじめ目的地と時間を指定しておいて、時間になればその場所へ瞬間移動することができる。帰りは初めの場所と同じ所へ戻ってくる。人数や距離によって魔具の大きさが違うが、旅行用でよく使われている物。形はランタンっぽく、火が灯されると同時に移動する。

 魔具は魔力がない者でも使える物もあり、これは代表例といっていいだろう。一人用ならそんなに値は張らないため平民で使う人も多い。私も実物は初めて見た。レイが時間になるまで大丈夫、と触らせてくれたのでリリーと一緒にいろいろ見てみる。目的地と時間の設定は付属品の紙に書いてランタンの中に入れればいいらしい。入れるとランタンが反応して紙の内容を確認してくれるおかげで字が汚くても間違った場所に行く可能性は低いのだとか。

「すごい。他にもいろいろあるなら、魔具の授業が楽しみ」

 リリーが目を輝かせて言ったことに頷いて同意する。私も有名な物の知識しかないから楽しみだわ。

 なのに何故かレイは「間違えたかな」と首を傾げていた。レイの近くに寄る。

「僕魔具の授業取ってなかったからなあ……あまり移動系の魔具は紹介されてほしくないな」

「どうして?」

「結婚したらクラリスにはずっと屋敷にいてほしいから」

「……? レイに無断で旅行に行ったりなんてしないわよ?」

「それはもちろん。……まあ、結婚した後は屋敷に移動関連の魔法禁止の設定をしよう。イシャーウッド家より強固にしてクラリスが逃げないようにしないと」

 私は一体何から逃げるの? レイはよく分からないことを言うわね。

 遠くでリリー達がどん引きしていたものの私には見えなかった。後でリリーに「大丈夫?」と何故か心配そうな顔で言われたけどレイが「大丈夫に決まってるでしょ、君に心配される筋合いはないよ」と答えていた。不機嫌になって私を腕の中にしまい込むように抱きしめる。

 ここ外ー!

 ああ、でも嬉しい。顔を赤く染める私を見てリリーはほっとしたように息を吐いていた。


 時間が近付き五人が一か所に集まる。レイは私を抱きしめたままだ。

 最初は驚いていたらしいハミルトン先生もこの頃には平静になっていた。私は知らずにいたほうがいい事実である。知ってしまったらどこまでバカップルなのよと悶えていたに違いない。

 午前九時ちょうど、ランタンの光が明るく灯される。それと同時に光が私達まで包み、それが消える頃には辺りの景色が変わっていた。

 特に眩しかったとかもない、本当に一瞬の出来事だ。魔具ってすごい。

 主にディーンルートでヒロインとともに発明しようとしていたけど、こんなに便利ならその心理も分かる。

 到着場所は私達が泊まるホテルの前。チェックインして荷物を部屋に置いて、まずはハミルトン先生の屋敷へ向かう予定だ。一応挨拶するのだと言っていた。

 レイはランタンも部屋に置く。盗まれたところですでに設定してあるためランタンが移動させるのは私達五人だから特に問題ないと説明してくれた。

 ハミルトン先生の屋敷へは徒歩でも行ける距離にあるが馬車を借りる。

「お花畑とかは歩くしかないからね。初めての土地なんだしいろいろ勝手が違うはずだよ、用心するに越したことはないさ」

 とレイはすでに代金を払ってくれたらしい。ハミルトン先生もリリーも焦っていたけど

「いいから、早く乗って行こう。三日間で足りるかどうかも分からないんだから」

 さっさと私の腰を引き寄せ馬車に乗ってしまった。

 レイは最初ハミルトン先生に敬語を使っていたが「学園を卒業したならやめてください。緊張します」と言われたのでやめたようだ。ハミルトン先生は反対に敬語。リリーから聞いた私が話しているしゲームのことも話しているからレイも事情は知っているけど、ハミルトン先生が何も言わないならとそのままにしたみたい。


「ようこそお越しくださいました」

 まさかのワイズ男爵も敬語だった。身分的には仕方ないのかもしれないがリリーは居心地が悪そうだ。

 ハミルトン先生と髪や瞳の色は同じだけど、華麗というよりはダンディな人。ハミルトン先生は母親似なのかしら。

 レイが簡単に今回来た目的を告げる。リリーとの交際のことは言わず、ただ観光促進のために来たと。王城にそういう部署があるもののレイはそこに所属しているわけではない。ワイズ男爵には分からないからいいんだけど。私達がいるのは春休みの旅行ついでと女性目線の意見も必要だと説明される。

 私は婚約者であるしリリーは友人でハミルトン先生が担任だった学生。特に疑問は持たれなかった。

「そういうわけでまずはお花畑を見たいのですが」

「ぜひ、お好きにどうぞ。案内の者が必要でしょうか?」

「ハミルトン先生がいらっしゃるので必要ありません。それと僕達も、三日間という短い滞在のためあらかじめ独自で調べてから来ていますから」

 それは私がお父様に頼んだ資料のことだ。あの後、資料はレイの手に渡って彼も隅々まで読んだと教えてくれた。

「そうですか。ハミルトン、失礼のないようにな」

 はい、とハミルトン先生が答える。ああ、声は似ているかも。

 食事の案内もされたけど辞退した。観光でアピールしたいお店に行きたいと告げて。

 私が一言も話さなかったのは、レイ、わざとよね? 必要あるとも思えないからいいけど。

 礼をして、早速お花畑に行くことにした。

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