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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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花束を贈る

 ホワイトデーももちろんあるが三倍返し、ということはない。

 それにクッキーや飴でなく手紙や花束が主流で、もらった金額と見合った物を送るのが基本。割り勘と同じである。

 ゲームでは確か王子ルートだけにあったシナリオだ。見合った物が一般的なこの世界で十倍返しと言わんばかりの豪華な花束をプレゼントしていた。あれで自分の恋心を認めていないんだから感激を通り越して呆れる。ヒロインはその豪華さに気後れして遠慮してしまい、それが王子の自尊心を刺激して喧嘩に発展する。

 バレンタインデーとホワイトデーは王子ルートの山場といえるシナリオだ。どちらも後に王子視点があって、ホワイトデーは特にヒロインを喜ばせたいと準備したのに結果があの反応なので失望も大きかった。だからこそアフターストーリーが映える。

 って、王子ルートはいいのよ。


 私のバレンタインを思い出す。

 私からのチョコというよりはレイが作ったチョコだったし、しかもレイは大部分を私に食べさせるし、あれでは逆だ。手紙や花束は私から贈るべきだろう。顔パスになってから手紙の行き来が減ってしまっていたのでちょうどいい。

 花束は何にしようかな。生物の授業のはレイが贈ってくれたから、誕生花はどうか。図書室で花言葉の本を借りて調べてみる。私の誕生日とレイの誕生日、両方の花を中心にした。

 ラナンキュラスの花言葉は“とても魅力的” ストックは“愛情の絆”

 サクラソウは“初恋” バイカウツギは“気品”


 当日、レイは最初分からなかったようだが私が説明したら喜んでくれた。

「そうなんだよ、クラリスからの手紙が減ってしまったのはちょっとだけ悲しかったんだ。ありがとう」

 私が用意することは話していたのにレイからも手紙と花束をもらった。レイがくれる花束はいつも同じ、赤いチューリップだ。花言葉は“愛の告白”だけど、レイはとにかく赤い花を贈りたかったらしい。

「赤い花で有名なのがチューリップかな、と。正直植物学の授業を受けるまで花言葉なんて考えたこともなかったよ」

「薔薇も有名じゃない?」

 そう言えばレイは少し尻込みするように視線を逸らした。言いたくないことかと首を傾げていると、やがて心を決めたのか口を開く。

「その……薔薇は結婚する時がいいと思って。結婚式に君が赤い薔薇を持ってくれるのが理想なんだ」

 レイがチューリップをくれたのは本当に、出会った当初からだった気がする。そんなに幼い頃から私との結婚を望んでくれたんだ。チューリップと同じくらい赤く染まる私の頬にレイの唇が落とされる。

「クラリスからの話を聞いていると紅色の薔薇もいいね。後花言葉を調べると白も素敵だ。プリザーブドフラワーだっけ? あれもいいなと思う」

 私にはリリーから聞いた紅色しか分からない。本数でも意味が違うようだし、植物っていろいろすごいのね。本がなくても言えるリリーとハミルトン先生を尊敬するわ。

 結婚式に赤い薔薇、か。レイはきっとまた彼の瞳に似ている花を用意してくるんだろうな。

「ふふ、結婚するのがとても楽しみだわ」

「僕もだよ」

 ああ、それも手紙に書いておくべきだった。これからも定期的に手紙は書こう。そう約束し合って、互いの花束を持ちながら口づけを交わした。


 リリーに聞いた話では、ハミルトン先生はホワイトレースフラワーを学生に配ったらしい。小さくてとても可愛い花だが、先生が渡したのは魔法植物のほうだ。歌を歌ったり踊ったりして、最後は花火のように弾けて消えてしまう、ちょっとした仕掛けのある花である。それぞれの嗜好に合わせてくれる、プレゼントとしてはとても評判の高い植物なのだとか。

 普通の花束としても人気のある商品だそうだ。

 ハミルトン先生、チョコの量からすると毎年かなりの出費では? とちょっと考えてしまったけど学園の経費で落とせるらしい。学園って親切ね。

 ちなみにリリーに対してだけは花のあるサボテンを見せてくれたとのこと。別の花束を贈ってしまうと二人の関係がバレてしまう恐れがあるからもらったのはホワイトレースフラワーに加えて手紙と、それから花柄のハンカチ。リリーはすごく喜んでいた。

 私達と同じく手紙のやり取りを定期的にする約束をしたようで帰りに新しいレターセットを買いに行くつもりだと話してくれた。

 ハミルトンルートではその辺の描写だけあった。多種多様な植物が描かれているレターセットを買い、その時の気分の花言葉を選ぶのだと。ゲームではまだ告白していない状況だし“感謝”とかの花ばかりだったはずだが、これから二年間そうやって文通していくのね。

 いい物が見つかるといいわね、と応援した。




 *   *   *




 卒業式は入学式とは違い他の学年の学生も参加することができる。強制ではなく、主に卒業生へ感謝の花束を贈る。一年生や二年生は本来休みなのだが参加する人のほうが多い。女性相手ならここで婚約を申し込む人もいるし、男性相手なら卒業生との繋がりを持つために花束という名のご機嫌取りだ。

 ディーンルートとレイモンドルートのエンディングの日でもある。ハッピーエンドならプロポーズ、グッドエンドなら将来の可能性の示唆くらいで終わる。

 レイは「クラリスからしか受け取らないよ」と言ってくれた。ゲームでもそうだったし心配はしていない。本来公爵家のレイには殺到するものだが、普段から怖いせいか彼に近寄る人はあまりいない。

 ディーンはどうなるんだろう。ディーンルートではレイと同じくヒロインからだけだったけど、レイモンドルートでディーンの描写あったっけ? うーん、本当にあのルートは思い出せない。

 私はディーンとお昼を共にすることがあるから用意するべきかな、と迷ったこともあったがレイが難色を示したのでやめた。

 私からレイへはカーネーションだ。青と赤にした。

「ありがとう、クラリス」

 レイは私から聞いた第二ボタンを取りたがったけれどその風習がないここでは奇異な行動になってしまうので止めた。公爵家の令息が卒業式にボタンのない服を着ているなんて外聞が良くないと思う。そもそも制服じゃないのに関係あるのかな?

 隣に来たディーンを見てみれば非常にくたびれた様子で無数の花束を持ってげんなりしていた。

「やべえぞ、一つ受け取ったらどうして自分のはダメなんですか、不公平だと喚きやがる。帰りてえ」

 そう言っている傍から男子学生に声をかけられびくりと怯えていた。わあ、大変。今日だけだと思い油断してしまった結末である。

 リリーも一応お世話になったからと“門出”“優しい思い出”という意味のあるスイートピーを用意していたものの、ディーンは乾いた笑いで受け取っていた。

 途中空間魔法で自宅に送ることを思い付いても受け取っていることは広がっていたため後の祭りだ。

 ディーンルート以外の描写がないから分からなかったけど、ヒロインに選ばれないと結構大変なのね。


 ハミルトン先生は“希望”という花言葉のガーベラを一輪ずつ学生に贈っていた。彼も何故か卒業生からもらっていて、それが女子学生ばかりだったためリリーが遠目で見ながらいじけている。特に彼女は花言葉が分かっているから微妙な表情になっていた。……き、聞かないほうがいいかな。

 私が指摘した通りハミルトン先生は鈍感だったようで学生達にいつもと変わらない笑顔を浮かべている。ディーンと違いどんな花をもらっても嬉しそうに受け取り何か言葉を交わしていた。リリーからの視線にはまったく気付いていない。後で大変なことになりそうだ。


 リリーとハミルトン先生を見ているとぐいっとレイに腰を引き寄せられた。顔を上げれば特に怒ってはいなかったけど周りを見回して口を開く。

「もうディーンは放っておいて帰ろうか」

「ぇ……いいの?」

 この後はパーティーの予定がある。言えば首を横に振られた。

「あれも強制参加じゃないよ。元々クラリスから花束をもらったら速攻帰るつもりだったし。クラリスの卒業式は僕参加できるかどうか分からないけど、誰からも花束をもらわずにパーティーにも出ずにまっすぐ帰ってきてね。むしろ卒業式も出なくていいよ」

 卒業式に出ないと卒業できないんですけど。

 花束はもらうつもりがなかったのでいいとして、パーティーにも出なくていいんだ。なら私はレイが迎えに来てくれるのを待たずに卒業証明書だけもらったらぱぱっと帰ろうかな。レイに提案してみれば嬉しそうに頷いてくれた。

 リリーは相変わらずハミルトン先生を見ている。彼女はハミルトン先生と少しでも話したいそうなので、花を持って行ったらどうかとアドバイスしてみたら頷いて歩いて行った。レイが断ったから一束残っていてよかった。

 ディーンは……多分あの人だかりがそうかな。……うん、待っていたらパーティーまで強制連行されそう。


 在校生も後数日で終業式である。いよいよワイズ領に行ける日が近付いてきた。

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