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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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前世の話(レイ視点)

 やっと秘密を話してくれた。僕以外に話せないとは、それだけ僕を信頼してくれているということだ。嬉しい。幸せだ。

 確かに驚いたがこれでリリー・シーウェルと仲良くなろうとしていたのも分かった。もちろんそれだけじゃないということも理解しているが、あの女を特別視する理由はそれで十分だ。これからは何でも話してくれる。分かっていればまだ嫉妬せずに済む。

 それにしても、クラリスのほうからあんなに積極的にキスしてくれるなんて。リリー・シーウェルに当たらなくて本当に良かった。不安そうな表情に比べて笑顔の可憐さがたまらない。ああ、大好きだ。


 ゲームの製作者には僕をそんな風に書いたことが頭に来るし目の前にいたら報復しているが、残念なことに自分はその世界にいた記憶がないからできない。せめて呪っておこう。滅びろ。凄惨な目に合ってからいなくなれ。

 5歳のころから持ち続けた気持ちがそう簡単に変わってたまるものか。むしろ重すぎてクラリスが受け入れてくれなければ完全に狂っていたと自覚しているのに。

 過去に戻れたらリリー・シーウェルとの仲なんて最初から邪魔をするに決まっている。友人になどさせない。

 いや、待て。

 ゲームのことがあるならクラリスは僕にお願いしてくるはずだ。両想いになった僕が上目遣いのおねだりを断れるか?

 ……無理だな。

 なら今まで僕が吟味して選んだ数少ない人間よりも親しくなるんだから学園に入学するまで同年代の人間は女性であっても誰にも会わせなくてよかったんだ。同じクラスが誰なのか分かっているんだからそいつらに対してだけ審査して後は問答無用で落とせた。その時間を彼女に回せたのに。惜しいことをした。14歳まで完璧に僕が独占できた。そうだ、そっちにしよう。何故僕にゲームの記憶がなかったんだ。

 僕のルートはそもそもおかしい。僕が邪魔しなければイシャーウッド公爵家の一人娘であるクラリスは彼女が教えてくれた通り国内外問わず候補者がわんさかいて引く手あまただったに違いない。もし婚約が解消されたら彼女は僕以外とすぐ婚約できるし僕はイシャーウッド公爵に消されるだろう。父親が親友同士だから家から縁を切られる可能性もある。ゲームでヒロインなんかと幸せになれるはずがない。

 本当にふざけている。好きじゃないなら学園入学前に婚約するわけがない。バカか。もう少しその足りない頭で世界観を考えろ。

 そもそも親友の婚約者と恋愛なんて誰がするんだ。いきなり告白してOKする? 常識で考えたらあり得ないことだとすぐ分かるはずだ。ヒロインに惹かれて婚約解消したことが世間に知られたら周りから白い目で見られるに決まっている。父親がイシャーウッド公爵じゃなくても周りからの視線に耐え切れず国内で惨めな立場になるはずだ。

 そんなことも分からないのか製作者は。クラリスが語ってくれた前世の世界でもおかしいことらしい。ああ、やっぱり潰したい。クラリスを不安にさせるようなストーリーを考えたのはどいつだ。万死に値する。僕が直接手を下したい。彼女が僕と別れて他の奴と結婚? させるわけがないだろ。男全員潰すぞ。国の未来など知ったことか。

 やっぱりディーンもムカつく。前世では嗜好が違うのかもしれないがそれでもクラリスに一番に思ってもらえるなんて胸糞が悪い。会ったらはたこう。あいつの頭を狙おう。脳みそがどこかに飛んでいけばいい。

 考えれば考えるほど苛立つのに何もできない。やめよう、いいことだけ考えよう。


 クラリスが今好きなのは僕だ。例え僕が独占しまくった結果だとしても過去を変えるつもりなんて微塵もないから彼女の言う通り後悔しても意味がない。いやそもそも後悔はしていない。他の男が彼女を見るのも許せない僕に別の手段はない。これからも僕以外の全てからは守るから僕を拒まないでほしい。

 幼い頃会えて本当に良かった。もし過去を変えるなら彼女が0歳の頃から会いたい。そして毎日屋敷に行って成長を見守るのだ。一か月も会えない? 冗談じゃない。それはもう刷り込みのごとく僕に好意を持たせてさっさと婚約する。いや結婚する。

 ……それだけじゃダメだな。結婚しても学園には行くのだ。学園を変えないと。男女別のクラスにして建物から別れさせて会えなくさせて、婚約者は特別待遇にしてリリー・シーウェルとは今のまま違うクラスで。

 ああ、もちろん教師も男女別……になるとハミルトン先生と恋愛せずにあの女がクラリスと一緒になる時間が多くなってしまう。クラリスのクラスの担任と選択科目が全員女性ならいいだけだ。

 くそっ、彼女が学園に入学する前に法律を変えるべきだった。もっと力をつけなければ。


 彼女が記憶を取り戻したのは僕が婚約を申し入れた日だと聞いた。どっちみちクラリスが僕を好きだとイシャーウッド公爵が気付いていなければ拒否されていたが「レイとラブラブになりたかったの」と言うクラリスはとても可愛かった。拒否されたくなかったから好きになってくれてよかったと思ったけど、彼女が僕を好きになろうとしたという事実もいい。

 記憶があるからあんなにリリー・シーウェルを気にかけることになったが記憶があるからこそ早めに自覚してくれたのだろう。もし好きじゃなくても僕と婚約して好きになって結婚してくれようとした、この言葉だけでも十分幸せだ。

 しかもレイモンドルート以外ではきちんと結婚できているらしい。僕とクラリスは結ばれる運命だということ。嬉しい。

 それなら隠しルートなんて作るな。愚か者が。

 ハーレムに至っては滅びろ。誰がそんな気の多い恥知らずな女を好きになるか。

 本当にクラリスがヒロイン役でなくてよかった。

 クラリスを他人と共有できるわけがない。彼女が僕以外を好きになるなんてそんなこと絶対にさせない。それこそ彼女が自覚する前にそいつを彼女の前から消してみせる。選択肢は僕だけだ。

 ……こんな僕をヤンデレじゃないという彼女の頭の中はどうなっているんだろう。キャパシティが広すぎる。

 一緒に逃げようというのは抗いがたい誘惑だが、今の僕は彼女が少しでも憂う可能性は潰しておきたいので家族から離れさせるのは最終手段だ。だからこそリリー・シーウェルのことも許せる。


 記憶はないけど、僕の前世はどうだったのか。クラリスの前世の近くに自分がいないなんてムカつくし、いたとしても記憶がないことに腹が立つから彼女も覚えていなくてよかった。彼女は子どもの頃死んだかもしれないと言っていたが、そうだとしたら自分の失意はいかほどか。

 今なら確実に後を追っている。彼女のいない世界に未練なんて何もないし、彼女がいないということは嫡男である自分は彼女以外の人間と結婚して子どもを作る必要がある。地獄だ。

 彼女を誰にも触れさせたくないのと同様に、彼女以外の女が僕に触るなんて反吐が出る。

 そういえば、彼女からだけの特別な呼び方をしてきた物体を国外追放にしたんだった。もうどんな物体だったか覚えていない。いいや、二度と会わないようにしたのだから。いい見せしめになってくれたことには感謝する。

 恋愛ゲームをしていることを許していたのだから片想いの可能性が高い。今世で隣の屋敷、父親が親友同士で爵位も同じに生まれたのはそんな自分の執念かもしれない。

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